第30話 永世上王

 とりあえずこのお客様エルフを利用して、どうにか父親を言いくるめて外出するのだ。腐っても侯爵家の屋敷の中をフリーでほっつき歩かせる程度には、こいつは信用されてるっぽいからな。一緒なら外出もきっと許されるに違いない。一度既成事実さえ作ってしまえば後はこっちのもんよ。遂に俺も本格的に異世界デビューか!ドキワクが止まらないぜ!!


 しかしこの面子で外出した場合…ショタ、けもロリ、けもメイド、ロリ婆エルフの4人が連れ立って歩く姿には不安しか感じられない。幼稚園のお遊戯会かな?仮にこの面子で冒険者ギルドにでも行った日には絡まれる事間違いなしだろう。そもそも5歳で冒険者になれるわけないから行く意味もないんだが。ただ将来俺が冒険者になる意味はあまりない気がする。大抵のラノベで冒険者になるのって大半が身分証明と金稼ぎだし。というか金払ったら誰でも最低限冒険者として身分を証明しますなんて、ヤクザのケツ持ちみたいなもんだし碌なもんじゃないだろう。しかも俺の場合は登録する際に問題が発生して面倒くさい事になる予感しかしない。


 良くあるパターンだと、俺が冒険者登録しようとしたら、頭パッパラパーな外見だけ糞受付嬢が『え~、あなた祝福されてないんですか~??冒険者としてやっていくなんて無理だと思いますぅ!』とかギルド内に響き渡るような大声で個人情報を喧伝した挙句、それを聞いたアッパラパーな糞冒険者が『雑魚は大人しく家に帰ってママのおっぱいでもしゃぶってろや!ギャハハハ!』的に絡んでくる感じか。う~む、脊髄反射でぶっ殺しちゃいそうだな。うん、やはりギルド系には関わらない方が良いだろうな。


 となるとだ。仮に将来独り立ちしていざ金を稼ぐとなった場合、自力救済しなければならない事になる。その時にマルシェラと朱璃ちゃんも一緒なら、堅気相手に揉め事はあまり起こしたくないよな。知識チートなんて百害あって一利なしだから個人的には興味がない。やっぱ異世界で金稼ぐのに手っ取り早いのはモンハンだろう。ドラゴンなんて狩った日には一攫千金だろうし。それは無理でもある程度価値のあるモンスターの素材なら、ギルドを通さなくてもでかい街に持っていけば捌けるだろうし。


 やはり身分と衣食住が保証されている今のうちに、自分の能力を把握しておくべきだ。仮に俺の実力が大した事なかった場合、アレスや実家に寄生する人生に方針転換しなきゃいけないわけだし。その場合は王城でのやんちゃムーブが一生足を引っ張る事になるわけだが…う~む、人生とは儘ならないものだな。せめてこののじゃロリエルフをぶっ倒せる可能性くらいは欲しい所だ。


「父上、お仕事中すいません。カティスです。お話ししたい事があるのですが、入ってもよろしいでしょうか」


 兎にも角にも外出許可をゲットしない事には始まらない。まあなんとかなるだろ。最悪駄々っ子ムーブでごり押してやるぜ。



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「父上、お仕事中すいません。カティスです。お話ししたい事があるのですが、入ってもよろしいでしょうか」


 普段は書庫や自室、庭の隅でマルシェラや従者のシュリと良く分からない遊びのような事をしているカティスが珍しく私の元を訪ねてきた。ちなみに今の時間、アレスはシアと一緒に勉強中だ。本来ならカティスもアレスと一緒に勉強すべきなのだが、どれだけ言っても聞く耳を持とうとしない。無理強いした所で余計に反発する為、今のところは好きにさせているが、ただでさえカティスは祝福の恩恵がないというハンデが…


 そう考えそうになった所で王城での一件が頭を過ぎった。そうだな、今のところは問題ないだろう。5歳児とは思えないレベルで流暢に言葉を操り、大人向けの本さえ読んでいる。一体その知識はどこから学んだと言うのか。それこそ大人が子供になったかのよう…いや、大人ならば王の前であのような真似など畏れ多くて出来はしまい。


 何にせよ、わざわざ私に話があるとやって来たのだ。そういえばカティスから私に会いに来るのは初めてではなかろうか。一体どんな用件なのか。多少の我儘ならば聞くのは吝かではないが、甘やかしすぎるとシアが怒るからな…シュリに払った金額を

伝えた時のあの表情は今思い出しても…ふぅ、流石にカティスも二人目が欲しいなどと言いはしまい。扉の前で既に待機しているセバスに頷く。んっんん、よし。


「構わん、入れ」

 

「失礼します」


 セバスが扉を開け、カティスがお辞儀をして中に入ってくる。この子は決して礼儀を知らないわけではない。 


「ご当主様、失礼致します」


「しつれいします」


 カティスの後に続いてマルシェラとシュリも入ってくる。この二人も一緒という事は、もしやジェイドに関してか?マルシェラの尻尾もふもふ未遂事件でカティスから話を聞いた時、俺だってまだもふもふした事ないのに!!とぶち切れていたからな。あれは王城で内心をぶちまけた時より怒っていた気がする。シュリの件といい、カティスは普段は大人しいが、一線を越えた時は後先考えずに暴走するきらいが…


 ん?誰だ?あのローブを纏った人…人か?カティスの知り合い…という訳ではあるまい。そのような人物がいれば私の耳に入ってくる。誰だ?今日は客が来る予定はなかったはずだが。


「よく来たカティス。ゆっくりしていくといい、と言いたい所だが、そこのローブの御仁はお前の知り合いか?」


「?父上のお知り合いですよね?」


「いや、違うが」


「え、書庫に我が物顔で一人でやって来てましたけど、違うんですか?」


 一人で書庫にだと!?このような不審者を通したばかりか、館内を自由に行動させるとは一体何をやっているのだ!!何が目的だ?カティスと一緒にいるということはかどわかす目的ではないようだが…背丈は子どもと変わらない。あと5年もすればアレスやカティスもこの位は成長するだろう。ボロな緑色のローブで体全体をすっぽりと包んでいる為、顔は見えない。こんな格好をする子供のような体型の人物に心当たりは…心当たり…


「少し会わんかっただけで儂の事を忘れるとは…存外薄情な奴じゃな」


 こ、この声…いや、なぜあの御方がここに!?あてのない旅に出たのではなかったのか!


「ほれ、これでどうじゃ。儂の顔も忘れたか?」


 一度聞けば忘れようはずもない。一度見たら忘れられるはずもない。千年王国エタニアルの象徴。王の上に座す御方。王国の守り神。永世上王エリン・リエル様。

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