第6話 そして全ては動き出す

 祝福の儀の後。結婚式と通夜を同時に行うような何とも言えない微妙な空気が我が家に醸成されていた。アレスが授かった祝福は前代未聞なものらしい。兄として俺は非常に誇らしい。これでこの家はアレスのもので確定。俺は心置きなく好き勝手出来るというもの。盛大にお祝いパーティーの一つでも開くべき所なのに、それを取り仕切るべき両親は笑顔一つ浮かべていない。それどころか母親に至っては俺にごめんなさいと謝りながら泣き続けている。正直辛気臭いの勘弁して欲しいんだが。


 謝っているのはおそらく俺の祝福の儀の結果が惨憺たる有様だったからだろうが、結果について俺は気にしていない。神霊石だっけ?あんなチンケな石ころで俺という才能が測れなかっただけの事だろう。何を悲しむ必要があるのか。むしろそれに気づかず好き放題俺を無能だのなんだの大勢の前で糾弾した狂会の奴らをどうにかするのが先じゃないだろうか?魔法が使えりゃ間違いなくあの場で皆殺しにしていたというのに。そうすりゃ自分たちの目がいかに節穴だったのか、神の身元に行くついでに理解出来ただろう。


 やはり魔法の習得が必要だな。マルシェラの尻尾をいかにモフモフするかよりも緊急性は上。つまり今の俺にとって一番重要だという事だ。泣いて謝り続ける母親と父親から謝られるついでに、どうして俺に魔法に関する知識を与えなかったか、むしろ邪魔していたかの理由は聞いている。やはりあの詐欺師の藪医者のせいだったか…あいつが憶測で余計な事を両親に吹き込んだせいで、俺が魔法に関する知識を今まで得られなかった事を考えれば奴は万死に値する。対人魔法の実験台はあの藪医者で確定だな。俺の足を引っ張った事、あの世で後悔するといい。


 それはともかく、狂会のせいで俺は魔法の才能からっきしで魔力もなしの糞雑魚ナメクジ認定されたわけだから、魔法に関する書物はもう読んでも問題ないだろう。その事を両親に伝えると、クシャっと顔をゆがめた後、許可を出してくれた。どうせ無理だろ無駄骨乙とでも内心思って、笑うの堪えて変な顔になったんだろうがどうでもいい。やっと魔法が使えるんだからテンション上がって来たぜ!!


 

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 書庫に行って、猿でもわかる魔法の使い方を手に取る。ようやくここから俺の魔法人生が始まるんだ。ここまで長かった…マルシェラが本を読めるのか聞いてくるが問題ない。覚えた記憶は全くないが、会話と読むのは一切問題ないんだよな。書けないけど。まあ自分の名前が書ければ問題ないだろ。書き取り練習なんて今更してられるかよ。さっそく読むことにする。なになに…自分に祝福を与えてくれた神様に祈りを捧げる事が魔法を使う第一歩!?神様に力を借りる事で魔法を行使する事が出来ます!?ふざけんじゃねえよ!この世界の神と狂会全て、全員ぶっ殺対象なんだが!?


 殺される相手が今からお前を殺しますつって力貸してくれるわけねえだろ!ふざけてんのか!!つまり俺は魔法が使えないってか?冗談じゃねえぞ!!……いや、違うなそうじゃない。逆転の発想だ。俺は常に神に祈りを捧げて来たじゃないか。この5年間、神に真摯に死ねと祈り呪い続けて来ただろう。自慢じゃないが祈りの質において俺ほど敬虔な神の信者はこの世界にいないと断言できる。転生者というレア度も加味すれば、俺の神への祈り呪いの質は世界一なのは間違いない!


 それに神共は俺に借りがあるしな。理由も説明もなしに勝手にこの世界に転生させた大きすぎる借りがな。それは雪だるま式に膨れ上がり、今や神を全部ぶっ殺しでもしない限り、とてもじゃないが完済できない大きな借りとなっている。つまり神どもは俺に膨大な借金がある。借金は取り立てて当たり前。返して当たり前。この世界にいる以上、借りパクして夜逃げする事すら不可能。つまり神共は全ての神が消滅するまで俺に対して借りを返し続けるしかないのだ。


 なんだ、何ら問題ないじゃないか。神の力を使って俺の祈り呪いでもって神を殺す。神を殺せるのは実質神みたいなもんだから、神を一柱殺した後は俺に祈れば俺は魔法が使える!よしっ!完璧だな!!そうと決まれば早速魔法の練習だ!!


 この家の奴らは俺の顔見たら顔を逸らして逃げるようになったからな!いつでも一人になれるから最高だぜ!!これで人目につかずに思う存分魔法の練習ができる!!マルシェラは…誰にも言わないように約束させれば大丈夫だろう、多分。

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