第110話 庭園の思い出(4)

 わたくしは自身の首を振りつつ、アンへと言葉を返せば。


「じゃ、アン、ガーデンテーブルの方へと移動をしましょうか」


 わたくしは他界した母への憎悪を、また心の奥底へとしまい込み、アンへと柔らかく微笑みながら告げると。


 わたくしは優雅に歩き始めだすのだ。


 そう、この庭園は、幼い頃のわたくしのよい遊び場でもありましたが。


 あのひとが陛下に隠れ、内密に、他の男達と逢引き、裏切り行為をしていた場所でもあるのですよ。


 だから幼い頃のわたくしは、あのどうしようもないひとが陛下を裏切り、他の男達と優艶に絡み、交わる様子を何度も見かけては涙をながしつつ、心傷し、病んだものですよ。


 だからわたくしにとっては、この庭園は、よい思い出もあれば、悲しい思い出と。


 あのひとが生きていれば、八つ裂きにしてやりたいと。


 あのひとの娘として思い、恥ずかしくもなる場所なのですよ。


 この庭園はね。


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