第33話 ファーストキス
「ごめんなさいは?」
『ごめんなさい……』
梨歌ちゃんと鏡莉ちゃんに軽くお説教をして、悠莉歌ちゃんに謝って貰った。
なんだか想像以上に落ち込んでいるから、少し罪悪感がある。
「悠莉歌ちゃん、いい?」
「や! ゆりかを生まれたままの姿にしたんだから、お姉ちゃんもなるべき」
悠莉歌ちゃんが芽衣莉ちゃんの後ろに隠れながら怒っている。
「悠莉歌、かわいかった」
「うん。照れるゆりはかわいい」
「お兄ちゃん、ゆりかはとても悲しいです。お姉ちゃん達に罰を与えてください」
悠莉歌ちゃんが頬を赤く染めながら、僕にジト目を送ってきた。
「罰?」
「りかお姉ちゃんの服を脱がそう。そしてきょうりお姉ちゃんにはそれを見せつけよう」
「な!?」
「逆がいーい」
悠莉歌ちゃんの提案に、梨歌ちゃんは顔を真っ赤にして、鏡莉ちゃんは不服そうな顔になった。
「罰なんだから駄目。お兄ちゃん、今日はりかお姉ちゃんにどんなことをしてもいいよ。あ、でも、るかお姉ちゃんとめいりお姉ちゃんが悲しむからキスまでね」
「それって僕が一番辛くない?」
「りかお姉ちゃんを襲うのは苦痛か。じゃあ後でめいりお姉ちゃんと二人っきりにしてあげる」
そういう問題ではないのだけど、何故か芽衣莉ちゃんは頬を赤く染め、悠莉歌ちゃんを強く抱きしめている。
「めいりお姉ちゃんの圧に潰される。確かにりかお姉ちゃんじゃ満足できないか」
「悠莉歌後でシバくぞ」
「物理的な距離があれば負けない」
悠莉歌ちゃんが決意を込めた視線を梨歌ちゃんに送る。
「お兄ちゃんは早くりかお姉ちゃんをあられもない姿にして。そしたらメインが待ってるから」
「普通に恥ずかしいんだけど?」
「大丈夫、お兄ちゃんならできる」
どこからくる期待なのかはわからないけど、そもそも気が進まない。
梨歌ちゃんが嫌なんではなくて、梨歌ちゃんを困らせるのが嫌だ。
その梨歌ちゃんはあわあわしているし。
「なっつんにアドバイスしてあげる」
鏡莉ちゃんはそう言って僕に耳打ちをした。
「それっ、でいいの?」
話し終わった鏡莉ちゃんに耳たぶをはむっとされた。
「ごめん、いい耳だったから」
「いいけど、悠莉歌ちゃん満足するかな?」
「大丈夫大丈夫、ゆりは梨歌のあられもない姿が見たいだけなんだから」
言われたことは簡単だからやるけど、それで梨歌ちゃんがどうにかなるとは思えない。
「成功したら私にもして」
「いいよ」
「鏡莉、篠崎さんに変なことを吹き込んでないよね?」
「うん。むしろ梨歌が喜ぶことだよ」
梨歌ちゃんの疑いの眼差しが消えない。
「ゆりかの気が収まらなかったらやり直しだからね」
「てかそもそも悠莉歌の言うことを聞く必要がないでしょ」
「るかお姉ちゃんに言いつけるよ」
「篠崎さん、お手柔らかにね」
梨歌ちゃんはどうも宇野さんに弱い。
だけど宇野さんを崇拝しているのかと言えば別に違う。
単にお姉ちゃんっ子なのかもしれない。
「なにをニマニマしてるの?」
「梨歌ちゃんはかわいいなぁって」
「始まってんのか」
「違うよ、これはなっつんの素」
それを聞いた梨歌ちゃんの顔がまた赤くなった。
「結局なっつんは普通にするのが一番なんだよね」
「普通?」
「気にしないでいいよ。言った通りにやってみて」
よくはわからないけど、鏡莉ちゃんに言われたことを実践する。
「梨歌ちゃん、嫌だったら言ってね」
「やめてくれるの?」
「やめないけど」
僕がやめても悠莉歌ちゃんに怒られて違うことをやらされそうだからやめない。
だから鏡莉ちゃんに言われたことの一つ目、顔を撫でるをする。
「にゃ!?」
「猫?」
「にゃ、……なんでもない。後で鏡莉も説教する……」
梨歌ちゃんが顔を真っ赤にしながら鏡莉ちゃんを横目で睨む。
「あ、駄目」
鏡莉ちゃんに向いていた視線を僕に向ける。
「今は僕だけ見てて」
「……鏡莉のばか」
鏡莉ちゃんに「常になっつんを見させて」と言われた。
梨歌ちゃんは俯いてしまったけど、多分大丈夫なはずだ。
(俯いたら……)
梨歌ちゃんの顎に手を当てて顔を上げる。
「え? え!?」
梨歌ちゃんの顔が更に赤くなる。
(これって意味あるんだ)
顔を上げるだけなら誰でもしそうなものだけど、梨歌ちゃんの反応は明らかに普通ではない。
(この後は梨歌ちゃん次第)
顔を上げた後に梨歌ちゃんが目を瞑るか瞑らないかで行動が変わるらしい。
「これはそういう? でも考えたのは鏡莉。そして後で鏡莉もして欲しいってことは……」
梨歌ちゃんが早口で言った後に僕に上目遣いでちらっと見て、目を閉じた。
(これって目を瞑らないって決めるのいつなんだろ)
目を瞑ってくれたからいいけど、もしかしたらここでずっと止まっていた可能性がある。
そんなことを考えながらも、僕は鏡莉ちゃんからの最後のアドバイスを実行する。
僕の方を向きながら目を瞑る梨歌ちゃんを可愛いと思いつつ、梨歌ちゃんに顔を近づける。
そして梨歌ちゃんのおでこにキスをした。
「……え?」
(これでいいのかな?)
僕は合っているかの確認で鏡莉ちゃんの方を見ると、笑顔で親指を上に立てているので多分合っている。
「ねぇねぇ梨歌。もしかしてぇ期待した? めいめいみたいに唇を奪われること」
鏡莉ちゃんがニマニマしながら梨歌ちゃんの隣に来て言う。
それを聞いた梨歌ちゃんが顔を真っ赤にして「死にたい……」と言ってうずくまった。
「でも良かったね、おでこへのキスは友愛の証だよ。なっつんに友達として見られてるよ」
「……うるさい黙れ。余裕でいられんのも今だけだからな」
「負け惜しみを──」
鏡莉ちゃんのニマニマが一気に消えた。
悠莉歌ちゃんに手を握られたからだ。
「きょうりお姉ちゃんにも罰あげないとね」
「み、見せつけが罰では?」
「喜んじゃってるじゃん。私は寛大だから選ばせてあげる。ゆりかにファーストキスを奪われるのと、お兄ちゃんの前で常に服を着ないの。どっちがいい?」
「選択肢それだけ?」
悠莉歌ちゃんが可愛らしい笑顔で頷いた。
「なっつんの前で全裸って私には苦じゃないよ?」
「きょうりお姉ちゃんはね。お兄ちゃんは恥ずかしさと気まずさできょうりお姉ちゃんと喋れないし、目も合わせられないかもね」
かもではなく絶対にそうなる。
悠莉歌ちゃんの目が本気だから、やるとなったら止めないといけない。
「私には最初から初めてをゆりに捧げる以外の選択肢はなかったのか……」
「姉妹はノーカンとかは幻想だからね。初めては初めて」
「心を読むなし。でもゆりはいいの?」
「ゆりかはきょうりお姉ちゃんも大好きだから」
悠莉歌ちゃんが少し照れながらそう言った。
「ゆり……」
「まぁ実際は初めてとか気にしないのと、……お兄ちゃん」
悠莉歌ちゃんに呼ばれたので悠莉歌ちゃんと視線を合わせる。
「貰うね」
「な!?」
悠莉歌ちゃんに触れる程度のキスをされた。
「お兄ちゃんの初めてはめいりお姉ちゃんに奪われてるから気にしないで。これでゆりかはなにも気にせずにきょうりお姉ちゃんとキスができるの」
「あんた、色々やりすぎでしょ」
「お兄ちゃん、嫌?」
「びっくりしたけど、嫌ではないよ」
いきなりのことでびっくりはしたけど、こういうのは女の子の方が気にするはずだ。
その悠莉歌ちゃんが気にしないようにしてるのなら何も言わない。
「耳まで赤くしてるくせに」
「キスして照れないなんて嘘じゃん」
「ごもっとも。じゃあ私も初めてをなっつんに捧げて──」
「だーめ」
悠莉歌ちゃんが笑顔で鏡莉ちゃんの腕を掴んで引き寄せた。
なんだかその後は見てはいけない気がしたので芽衣莉ちゃんの居る方へ場所を変えた。
芽衣莉ちゃんはさっきから両手で顔を隠して指の間から今までのやり取りを見ていた。
芽衣莉ちゃんの口から「はわぁ」という声が漏れてきたり、背後からもつれ合う音が聞こえてくるけど、無視をした。
そしてしばらくその音は鳴り止まなかった。
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