第三章 出会い

第9話 出会い


果物を食べて、普通に食事をして、3時におやつ。


これが、私の日課だ。


流石に剣は貰えないから、適当に暇があれば体を動かしている。


そして、最近では本を差し入れして貰い読んでいる。


おおよそ、奴隷とは思えない生活だ。


私が片足を奪ったイルズ様と第二王子のアルス様が私の元に来た。


さぞや文句を言われるだろうと覚悟していたが…


「足を失った事は悲しいです…ですが、貴方が国を救ったのも事実。そして、貴方が可笑しくなったのはその時の呪いのせいなのですよね? だから、公爵の娘として、私は許す事にします」


「僕は君が少し憎い…だが僕は王族だ、国を救った貴方に敬意を払う必要がある! なぜイルズが…そう思うが、国を救ったせいで呪われたのなら、その責は王族である僕も負うべきだ、個人的には君を許そう…だが、法律は法律、すまないな」


優しいな。


此処での高待遇は、きっと彼等の口添えもあるのかも知れない。


言葉に出来ない私は、ただ頭を下げるしか出来なかった。


そんな想いと裏腹に衝動は強くなっている。


きっと、私を買う人間は居ない。


ううん、それで良い。


今の私の心はバンパイアを超える化け物だ。


勇者のジョブが次の代に引き継がれ無くなったのかも知れない。


耐えず、衝動に駆られる。


『血が欲しい』『人を刺したい』『人を切り裂きたい』


その事で頭が一杯になる。


ただ、最近少し解ったが『殺したい』ではなく、血を見たい、その延長線上で『殺してしまう』そう言う物みたいだ。


此処にいれば、大丈夫。


もう私を買う人間は居ないだろう。


魔王カーミラが魔王城に引き篭もったように…


死ぬまで此処に居れば良い…


◆◆◆


しかし、退屈だなぁ。


此処に居れば、誰も傷つけないで居られる。


その反面『自由が欲しい』そう思う。


魔王カーミラ、多分、凄く優しい魔王だったのかも知れない。


私と違い、自由に出られるのに引き篭もっていたなんて…


私には出来ないわ。


「しかし、男も知らずにこのまま死んでいくのかね、あ~あ可哀そうに」


「くっ、偉そうに…」


最近、奴隷商の主人が私の近くに檻を設置した。


お互いに容姿は見えない。


恐らく、私の会話の相手になる様に、そう考えたのだろう。


一生の不覚だ。


つい乗せられて、自分が男性経験が無い事を話してしまった。


まぁ、話し相手としてなら、偶に話すのも悪くないけどね。


◆◆◆


「お客様が来たみたいね…あっあれは、う~んどうだろう?」


彼女の檻は場所こそ奥で良くないが、入口の方が良く見える。


私は余り、買われたくないという気持ちから1番奥、更に左に少し曲がった場所になっている。


奥まで来て左を見なければ、私は見つからない。


「どんな人なの?」


「黒髪、黒目ね…あっ駄目だわ、服装からしてお金無さそう、私はパスで良いわ、貴方チャンスじゃない! いひひひっ…」


「なぁによ!」


「そこのお客さん! この奥にも1人女の奴隷が居ますよ! 見るだけ見ていけば!」


「ちょっとやめてよ! 私は良いから」


奴隷商の店主、此奴に、なんの事情も話してなかったんだろうな?


「見て貰うチャンスじゃない? あらっ色々見て悩んでいるみたいだわ…こっちの方に来るみたいだわ…私はパスだから壁向いて寝ていようかな…」


「良い根性しているわね…全く」


全く余計な事を!


普通の奴隷なら感謝する所だけど…全くこっちの気も知らないで。


嫌だ、来ちゃったじゃない。


しかも、どう見ても若いし…下心丸出しの嫌な顔じゃない。


「凄く綺麗だ…幻想的でまるで、綾〇、見方によっては、なんちゃらペアのユ〇にも見える…」


「貴方が気に入ってくれたのは嬉しいけど?! お姉さんは犯罪奴隷だからやめた方が良いわ!【訳あり品】で【死の危険あり】君を殺しちゃう可能性があるからね、ほら、あっちにダークエルフとかエルフが居るコーナーがあるから、あっちにしなさいね...悪い事言わないから」


少し髪に青みがあるから、違うと解るけど、赤目で色白に変わった私は、ある意味魔族に見えなくもない。


他は良いとしても嫌われる容姿の筈なんだけどな?


それに綾〇ユ〇って何かしら?


「いや、でも…」


「気持ちは嬉しいわ、本当よ!だけどね、私、本当に危ないのよ!だからやめた方が良いから」


「本当に危ない人は自分から言わないと思うけど?」


今迄、私を買った人は明らかに、あっち目当てで見た感じから碌な人は居なかった。


だから、大怪我させても『自業自得』そう思えたけど、どう見ても若くて真面そうな子にトラウマを与えたくないわ。


「私は本当に危ないのよ! 本当に人を殺しかねないのよ…自分でもね…どうしようもないの…だから、お願い絶対に買わないで!」


「名前、教えてくれる?」


「レイラ…」


「それじゃ、レイラさん、レイラさんにどんな訳があるのか、どう危ないのか聞いて来るよ…その上で納得したら買うから」


「ああっ…ああっ駄目…」


何故だか、彼はなにがあっても『間違いなく私を買う』


そんな気がした。


私の中の少なくなってきた良心が『彼を殺したくない』そう言ってくる。


『駄目だって』


だけど、その一言が口からは出て来なかった。




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