第5話 過去 奴隷落ち
これが魔王が抱えていた衝動だったの…
『血が欲しい』『人を刺したい』『人を切り裂きたい』
その衝動が絶えず、私を襲ってくるの。
昼間は良い…だけど、夜になると、その衝動が強くなり押さえるのに苦労する。
昼は人間の世界、夜は魔族の世界…そう言われているから、夜の衝動は強くなるのかも知れない。
ううっ、血が欲しいーーっ、この手で刺したい、切り裂きたいーーっ!
私は勇者だ…駄目だ、早く朝になれ…
寝ればどうにかなる…そう思い、その日私はグテングテンになる迄お酒を飲んだ。
だが、これが悪手だった。
「う~ん…これはなに…」
目の前には、手足の千切れた少女がいた…
「ハァハァ~助けて…」
「誰がやったの…?」
「怖い、怖いよぉぉぉぉぉぉーーー」
私の手には短剣が握られていて…しかも口には血がついていた。
口の中の鉄分が凄く美味しいと感じる。
『もっと味わいたい…裂いて切裂いて』
駄目だ、違う…
「ゴメン、助けるから…」
「嫌ぁぁぁぁ来ないでーーっ殺さないでーーっ」
嫌がる少女を抱きかかえ、私は教会に走った。
『運が良かった』
それしか言えない。
教会が近くだった事、私が勇者だったから高額なポーションを使い放題使った結果、少女は助かった。
また、相手がスラムに住んでいたから、教会と国が少女の親にお金を払いもみ消してくれた。
私は…魔王カーミラに負けたのだな。
魔王カーミラはこの衝動にかられながら、人を傷つけていない。
私は…下手したら殺しかねなかった。
牙の無い歯が恨めしい。
もし、私の歯が吸血鬼の様にとがっていたら、肉をかみ切る事は無かったかもしれない。
牙が無いから、私は少女の肉を食い千切り血を飲んでいた。
爪が無いからナイフで滅多刺ししていた。
あはははっ、私は多分、カーミラ以上の化け物だ。
◆◆◆
今思えば、この時にもう少し冷静になれば違う道があったのかも知れない。
例えば、処刑係の仕事にでもつけば、問題ない生活が送れたかもしれない。
だが『勇者としての栄光』『魔王討伐者の栄光』があったから、誰もそれを勧めなかったし、化け物の様な心の私を『勇者』として咎めなかった。
私の苦悩を知ってか、腕利きのヒーラー2名と聖騎士3名に離れた所から私を見張る様にしてくれた。
◆◆◆
そして、最悪の日を迎える事になる。
その日、私が手に掛けたのは公爵令嬢イルズ…ヒーラーも聖騎士も止められなかった。
令嬢は命を落とさなかったが、片足は無くなった。
凄腕の筈の聖騎士は鎧を砕かれ3人とも瀕死状態。
ヒーラーの1人も同じだった。
残ったヒーラーが何とか頑張ってくれたおかげで、死人こそ出なかった。
だが、公爵令嬢のイルズは第二王子の婚約者だった。
この状態なら、本来は死刑なのだが…私は『魔王を討伐した勇者』
勇者保護法で、『死刑にはならない』
この権利は『勇者の地位をはく奪』しても残る。
その為、適用できる法律の中で1番重い奴隷落ちの判断となった。
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