第84話
南門から外に出たリドとアレクは樹海側の西に向かって走り、先行していた魔物討伐隊の面々と合流する。
既に隊の兵士達は剣を抜いており、進行してくる魔物達を睥睨していた。
「……どう見ても30じゃないだろう。これは」
フィリップが得物の槍を手に肩を落とす。
彼の言う通り、魔物の数は今にも次々と増えて行っている。
樹海の中からどんどん溢れ出てくるのだ。
「こりゃ、何人生き残れるかね……」
アレクは腰から剣を抜いてから、ため息交じりに頭を掻く。その言葉に隊員たちは息を呑んだ。
恐らく今まで何人も戦死者が出ているのだろう。魔物の数に比べて討伐隊員の数は少ない。
皆が覚悟を決めたように息を吸い込む。
「あれが樹海か。デカいな」
だが、そんなことを口にするリドに隊員たちは呆れたように視線を向けた。
今にも刻一刻と魔物の大群が迫ってきているにも関わらず、場違いなことを抜かしたからだ。
「あ? なんだよ」
「なんだよ……って、お前状況分かってるのか? 今俺達大ピンチなんだぞ?」
アレクが煙草に火を付け、煙を吐き出しながらリドにそう言った。
だが、その目は死へ向かう者のソレとは違っている。
「煙、けむい、煙いぞ」
「うるせぇ。これが最後になるかもしれねーんだから好きにさせろ」
走りながら、飛びながら進軍してくる魔物達は平野に設置された柵にぶち当たる。
知能が低いようで、力任せに柵を押したりしている魔物達。
フィリップは魔物をジッと見つめたまま、剣も抜かずに立ち尽くすリドの首元を掴んだ。
「貴様、なにを突っ立っている? コボルト、オーク、グレムリン。一体一体が僕達より強い。戦いに参加する気が無いのなら寄宿舎に戻っていろ」
そこで初めてフィリップに視線を向けたリドはため息を吐いた。
「ギャーギャーうるせぇんだよ。どう考えてもあんな小動物達に負けるわけねぇだろ」
「……なに?」
腰から剣を抜きながらリドは隊員たちの前に歩いていく。
しばらく歩いたところで立ち止り、背後を振り返らずにリドは口にした。
「オレを殺せるヤツらが居るなら連れて来てみろ」
完全に剣を抜き放ち、日の光により更に輝きを増した刀身がリドの横顔を照らす。
(この剣で何かを殺すのは初めてだ)
リドの口は自然と歪んでいた。
命を取り合う感覚を思い出していたら、自然と戦闘準備が整う。
(我ながら平和ボケしてたもんだ。戦い方を思い出すなんてな)
長年染みつけたはずの危機感を取り戻したリドの目は爛々と輝いている。
「いくら貴様が強いと言われていても数で攻められればどうしようも……」
「――まあ待て」
フィリップの言葉をアレクは手で制す。
「ここはお手並み拝見と行こうか。おいエディッサ君、とりあえず好きにやってみろ」
「……あぁ。行ってくる」
リドは魔物の軍団に向かって駆け出していった。
〇 ● 〇
その背中をフィリップ達魔物討伐隊員とアレクは見送っていた。
「隊長っ! いくらなんでも無謀です!」
女隊員がアレクにそう叫び、自身も出撃しようとするが、アレクはそれを止める。
「俺達が行っても邪魔になるだけだろうよ」
「……は?」
「あいつは魔物よりバケモノだからな」
アレクは言いながら胸ポケットからリドの生徒手帳を取り出す。
昨日リドの意識を奪った時に盗んだものだ。
ステータスページにはレベル『??』
身体能力は全てが『999』の上限に達している。
「さて、エディッサ君。噂に聞く世界最強の実力をこの目に見せてもらおうか」
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