第83話

 南門にはアレクの他に20人ほどの軍服を着た人間たちが集まっている。

 5人4列に並んでいるところを見ると、【魔物討伐隊】の中で班分けされていることがわかる。


「よう、来たなエディッサ君」


 背後から近寄ってくるリドに気づいたアレクは手を上げて歓迎する。


「……隊長。彼があのリド・エディッサですか?」


 右端の班の班長なのか、眼鏡をかけた真面目そうな男がリドを見て不快そうに鼻を鳴らす。


「そうだよ。というか見りゃ分かるだろう。この髪、この目、そんで、この剣」


 アレクは目を細めてリドの腰に携えられている剣を見る。

 編入当初、ロベルトやクリードから聖剣と聞いているそれは鞘に納められていても存在感が尋常ではない。

 ある程度剣を嗜んでいる者ならどうしても目が惹きつけられてしまう魅力がある。


「ジロジロ見てんじゃねぇよアレク。それより、誰だ? コイツら」

 

「ん? あぁ、すまんすまん。紹介する。エディッサ君の紹介は……必要なさそうだから、右から順に」


 アレクは眼鏡の男を指す。

 黒の手袋に人の2倍はありそうな青い槍。見るからに神経質そうな男だ。


「こいつはフィリップ。一班の班長だ」

 

「ふーん。世話になる」


 リドは近づいて手を差し出す。


「世話をする気はない。陛下のお気に入りか何だか知らないが、使えない奴の尻ぬぐいなどごめんだ」


 だがフィリップはその手を掴むことは無く、中指で眼鏡を上げて視線を逸らした。


「面倒をかける気はねぇよ。自分のケツくらい自分で拭けるからな」


 明らかに好意的でない態度にリドはさして気にした様子もなく手を下げた。

 こんなことで一々腹を立てていれば浮浪児はやっていけない。

 店に入っても食事を出してもらえないこともざらだったのだ。

 伊達にあの地獄の中を生き残ってきてはいない。

 

 その態度を見たフィリップは少し意外そうに目を見開くが、リドは既にこの男に興味を失ったようにアレクへ視線を移していた。

 一通り紹介が済んだ後、アレクはリドの肩に手を置く。


「今日はまだこいつをどの班に入れるか決めてないからさ。とりあえず俺が面倒を見るわ」


 どういうことだ? とリドが視線を向ける。しかしアレクはその視線を無視した。


「とりあえずお前らはいつも通り見回りをたの――」

 

「――魔物襲来! 数は30っ! ユグド樹海側から進行中っ!」


 アレクの言葉を遮るように見張り台の上からそんな声が響く。

 同時に敵を知らせる鐘の音が響き、魔物討伐隊の面々はうんざりした顔で門を出て行った。

 残されたリドは、同じく隊長のくせに合図もなしに取り残されたアレクに視線を向ける。


「おい。ここは平和だって聞いたが、普通に魔物出てんじゃねぇか。どういうことだ?」


 出撃していく魔物討伐隊員たちの顔には、明らかに「またか……」と言った気怠さが見て取れた。恐らく一度や二度ではないのだろう。


「いつの情報だよそれ? 今やここは最前線だぞ」


 

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