第20話 眼鏡と虎と③

 宿泊研修2日目。少し記憶が曖昧だがいつの間にか寝ていたようで、昨日の夜中に小森さんに起こされ部屋を後にしそのまま自分の部屋へ戻った。朝起きると桐生くんに『 昨日の夜部屋に来た先生は誤魔化しといたけどお前どこいってたんだ?』と聞かれ色々ありまして……と答えると不思議そうな顔をしていた。


 今日から班行動が本格的に始まる日、洗面所の方からパンっ!と頬を叩く音が聞こえた。桐生くんも気合いが入っている。


 僕や朝比奈さん達のミッションは桐生くんと姫野さんを班行動中に2人きりにすること。当然自然な感じがベストだ。


 朝ホテル前に班員が集合し全員の点呼の後、先生に報告し出発という流れとなっており続々と他の生徒達がホテルから出ていく。

 そんな姿を眺めていると橘さんと朝比奈さんが、続けて姫野さんと小森さんが出てきた。


 朝の挨拶もそこそこにバスで移動しまずは神社へ、朝比奈さんと橘さんに目を合わせ無言で頷く、理想では神社での告白なので早速作戦開始だ。


「小森さん、ちょっとお守りとか見に行きません?」


「え!?私!?」


 とりあえず小森さんに声をかけ2人から距離をとる……のだがなんか小森さんの声が裏返った、私か、私がいいのかー……とか言ってる。急に声掛けたからびっくりしたのかな。


 そんな声を聞きながら橘さんを横目で見ると別の班の生徒と話しながら上手いこと2人から離れていく。元々朝早い事もあり生徒の数は少ない、その上での橘さん、流石だ。メガネがいつもより輝いて見える。

 朝比奈さんは人に見えないのを利用して石を優しめに池に投げたりしていた。普通の人は突然の音がして、周りを見渡しても何も無いという風に見えているはずだ。怖い。


「何買うの?」


「あ、はい!そうですね……」


 桐生くんと姫野さんの2人が何か話している姿が見える。よし、いいぞ!そんなことを考えながら適当にお守りを手に取った。


「え?恋愛成就……」


「あーそうですね、僕も彼女とか出来たら嬉しいですし」


 ある意味今、成就して欲しい恋愛が行われているのでそういう意味でも買っていこうかなと思う。


「昨日の夜言ってた女の子?やっぱり今も好きなの!?」


 なんかグイグイ来るな、小森さん。割と昨日まで避けられ気味な感じだったんだけど気のせいだったのかな。いや、そんな事は……と言いかけたところで後ろから声をかけられる。


「お守り見てるの?七瀬」


「え、姫野さん」


 姫野さんと桐生くんがいつの間にか僕達2人の元まで来ていた。まずい、もう少し離れるべきだった……!

 耳元まで顔を寄せ小声で姫野さんが話しかけてくる。


「あんた昨日の夜いつの間に帰ったのよ!起きたら誰も居なくてびっくりしたわよ!」


「いやあんたが勝手に酔いつぶれて寝たんですよ!マジであの後大変だったんですからね!」


「酔いつぶれた〜?何意味分かんないこと言ってんのよ、全く」


 はーやれやれと言う姫野さん。ムカつくわコイツ。


「とにかく行くわよ七瀬、神社とか和風エロゲっぽくてポイント高めだし!」


 そう言われ手を掴まれる。どんなポイントだよ。


「あ……」


 小森さんから小さな声が聞こえた気がした。とにかくこのまま僕が着いていく訳にはいかない。


「すみません、姫野さん!これから小森さんと2人で抹茶アイス食べに行くつもりなので!!!」


「え、え!?」


「何よ、なら私も」


「今度オールで付き合うんで、それで」


「……全くしょーがないわねぇ!!!ほら、行くわよ大河!」


 回れ右をし離れていく姫野さんと桐生くん。去り際に助かった……!と桐生くんが手を合わせていた、ファイト、桐生くん。

 隣で下を向いている小森さんに話しかける。


「すみません、勝手に2人でとか言っちゃって。嫌でした?」


「う、ううん……そんな事ない、よ」


「良かったです、じゃ抹茶アイスに八ツ橋食べに行きましょ」


 こくんと頷くと2人で神社を後にした。

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