第16話 姫野絢香、興奮

「これお茶、座って」


 あのまま姫野さんに腕を捕まれ家まで連れてこられた。朝比奈さんごめんなさい。僕はここまでみたいです。せめてちゃんと記憶を取り戻す姿を見たかったな……。お茶には毒が入ってるかもしれないので簡単には飲めなかった。


「それで、どうするのよ」


「どうする、とは……?」


「見たのは生徒手帳だけじゃないんでしょ」


「はい、エロゲ買ってましたね」


 それを聞くと姫野さんは顔を真っ赤にして立ち上がり、僕の胸ぐらを掴む。


「やっぱ殺すしかないか……」


「なんかやばい言葉が聞こえた気がしますぅ」


 はぁ……と大きなため息をつき僕の胸ぐらから手を離して元の位置に戻る。


「……何よ、笑いなさいよ。あーあ!言いふらされて、私の高校生活も終わりね。明日から不登校だわ!アハハハハ!」


 壊れたように笑い出す姫野さん。怖い。そんな事しないんだけど。

 ふと部屋を見渡すとそこにはエロゲの束が積まれていた。


「……これ、まだやってないやつですか?」


「そっちはやったやつよ、こっちがまだやってないやつ」


 なんかもうどうでもいいやと普通に教えてくれる姫野さん。


「へー……あ、これ『金○ラブリッチェ』」


「知ってるの!?」


 急に距離を詰められる。あまり近づかれるともしもの場合に逃げ道が無くなるのでやめて欲しい。


「普通のキャラゲーかなって思ってたらグランドルートがすごく泣けて、結構好きなんですよね。あ、これとか懐かしいですね……昔のゲームだったから序盤のシナリオとかすごく退屈だったんですけど、最終章でのたくさんの伏線回収からの感動シーンで神ゲーでしたね。有名なブランドとか最新のだけじゃなく昔のも好きなんですね」


「か……か……」


「か?」


「神……!」


 そう言うとクローゼットを勢いよく開け、大量のエロゲが出てくる。まだあるんだ。


「これは!?」


「これ最近すごい売れてません?発売日に買ったんですけど有名なエロゲサイト運営してる方が神ゲーだ!って評価してから爆売れしましたよね、黒髪の子のルートが好きでした。あとOP」


「詩織ちゃんね!湿度高めで良かったわよねぇ……!私凪ちゃんが好き!」


「アニメの円盤も買ってるんですね。最近はサブスクとかで簡単に見れちゃいますけど特典とか欲しさに買っちゃいますよね〜。これとか去年の冬アニメですか、豊作でしたねぇ」


「ね!きららとか毎回コンスタントに人気あるけどあそこまで跳ねること中々無かったからびっくりしたわ……。あ、私は流行る前に原作1巻から追ってたけどね」


 僕の怖がっていた姫野絢香とはなんだったのだろうか。古参アピとかしないで欲しい。


「はぁ……楽しかったわ。私周りにこういう話出来るやつ居ないから」


「普通に僕ら未成年ですしね、ネ友とかとは話さないんですか?」


「裏垢とかでたまに話したりはするけど、やっぱリアルで話せる友達が欲しいじゃない」


 まぁたしかに……と考える。そもそも友達が居なかったのでそんな贅沢なこと思ったことがなかった。


「というか話戻すけど……この事絶対誰にも言わないでよ!お願いだから!!!」


「言わないですよ……」


 そんな事しても僕がこの世から消されるだけなのでする訳が無い。


「良かった、あ、ついでにご飯食べていきなさいよ。話し足りないし」


 まだ!?2時間くらい話したんですけど!?さすがにご飯は……と考えたところで1つ思い付く。

 これ今なら好きなタイプとか告白されたい場所とか聞けるのでは?


「……お言葉に甘えます」


「おっけー!待ってなさい」


 そう言ってリビングの椅子に座らされる。親に何か言われないの?これと思っているとそういえば親御さんの姿が見えない。キッチンにいる姫野さんに声をかける。


「親御さんとか居ないんですか?」


「うち、両親とも海外で働いてるから滅多に帰ってこないわよ」


 ほえー、どうりで部屋でエロゲを堂々と置いてるわけだ。


「姫野さんって好きなタイプとかないんですか?」


 軽くジャブを打つ。


「急に何よ、キモイわね」


 右ストレートが返ってきた。


「いや……エロゲ好きだから……恋愛観とか聞きたくてですね」


「なるほど!んーそうね、私はクール系とか先輩系とか……?」


 ほうほういいよいいよ!それでそれで?


「あと妹も有りね、禁断の恋愛上等よ」


 ヒロインの話かよ。違ぇよ。


「あー違くてですね、好きな男のタイプを教えて欲しくてですね」


「そんなの無いわよ、誰とも付き合う気無いし。私かわいい女の子の方好きだし。ほら、出来たわよ簡単なカレーだけど温かいうちに食べなさい」


 え……?


「い、今なんて」


「え?だから私はかわいい女の子が好きって」


「そ、その前」


「誰とも付き合う気がない」


 終わった……終わりました。どうしよう、聞かなきゃ良かった。こんなんじゃカレーが喉を通らないよ。


「お、美味しい……」


「何、泣くほど美味しかったの?ていうか今度泊まりに来なさいよ、オールでアニメ見たりエロゲするわよ」


 その後3回くらいおかわりした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る