霧深い森の『楽園』
「ねえ、本当にこの先にあるの?」
「あるよ、あるに決まってる。」
森を進む2人の子供。
その体は貧相で、服もボロボロ。
すぐにも倒れてしまいそうな様子であるが、森の奥へとどんどん入っていく。
2人が森の奥へと行く理由はある噂を聞いたからだ。
『霧深い森の奥にスキルに縛られない楽園がある』と。
2人は兄妹であり、スキルでランクの低いものをもらったせいで親から見放され、奴隷へと落とされた。
過酷な日々に心が折れそうになったが、2人なら耐えられた。
が、今回、2人が引き剥がされ、転売されることとなった。
2人は馬車に乗せられて、売られていくうちに霧の森へと入っていく。
御者が戸惑い、馬車の動きが荒くなった隙をつき、噂を信じて、2人は馬車を飛び出した。
幸いにして、子供と油断して手足に枷をつけられることがなかったことで逃げ出せた。
しばらく歩いているうちに開けた場所へと着く。
森の中の空き地、そこに一軒の家があった。
こんなところに家があるのはおかしいとは思ったが体力の限界がきていて、藁にもすがる思いで扉を開く。
「はいはい、誰かのお?」
聞こえてきたのは老人の声。
扉が開くとそこにいたのは人の良さそうなお爺さん。
「あ、あの・・・。」
「ふむ、迷子かの?
見たところ、苦労しておるようじゃ。
お茶でもどうかの?」
「え?え?」
「ほらほら、入った入った。」
温厚そうなお爺さんにあれよあれよと家に入れられ、お茶をいただくことになった。
久々に飲む温かいお茶、そして、甘いお菓子に2人は涙を流しながら、事情を説明するとお爺さんは真剣に聞いてくれた。
「そうか、噂を聞いてここまで来たと。」
「はい。
で、本当にあるんでしょうか?」
「確かにこの奥の森にそんな場所があるとは聞いたことがあるが、たどり着くためには条件があると聞いたことがある。」
「本当ですか!?条件とはなんですか!?」
「落ち着きなさい。
条件というのは多分、戻れないということじゃ。
ここから先に向かった者が戻ってくることはなかったからのお。」
「・・・もう、戻る場所なんてありません。
だから!」
ドンドンドン!
その時、扉を乱暴に叩く音が響く。
その音に小屋の中の3人はビクッと反応する。
お爺さんの気配が変わり、何か冷たい雰囲気を出し始める。
「君たちは裏から森へと行きなさい。」
「え?」
「何があっても戻ってきてはいけないよ?
さあ、早く。」
「わかりました。
いくよ。
お爺さんありがとうございました」
「え?え?え?
あ、ありがとうございました。」
「達者での。」
お爺さんが扉を開けるとそこにいたのは馬車の御者とその雇い主、そして、屈強そうな戦士たち。
「これはこれは、大勢でどうしなさった?」
「ここに子供が来なかったか?」
「子供?こんな森の奥に子供が来るのかの?」
「旦那、こいつ嘘をついてやがりますぜ。」
「予想通りか。
老人、殺されたくなければ、子供を渡せ。」
「・・・渡したところで殺すつもりじゃろう。
その選択、後悔することになるぞ。」
その直後、お爺さんは袈裟斬りにされ、倒れる。
「なんだ?
実力があるみたいなセリフだったが、ただの強がりか。」
「旦那!奥に扉があります!」
「奥から逃げたか。
追え!」
全員が小屋の奥から去った後、お爺さんの手がぴくりと動いていた。
子供達はようやく回復した体で森の奥を目指し、駆けていると、後ろから怒号が響く。
「ガキども!逃げても無駄だ!さっさと捕まれば、悪いようにはせんぞ!」
「お、お姉ちゃん・・・。」
「聞いちゃだめよ。
捕まったら、おしまいよ。」
とは言ったものの、子供の足では大人の足には勝てない。
あっという間に追いつかれてしまった。
「さて、悪い子にはお仕置きしないとな。」
「私たちは何も悪いことはしていない!」
「いいや、ろくに使えないスキルを授かったことが悪いことだ。」
「そ、そんな!」
「この世はスキルが全て、スキルが弱いものは虐げられる運命なんだよ!」
絶対絶命の状況、子供達が囚われそうになった時、
「それはどうかな?」
と森に少女の声が響く。
そこまで声は大きくはなかったが、声はその場にいる人間全員に聞こえ、声の主に全員が目を向ける。
そこにいたのはワンピースを来た1人の少女。
まるで散歩にでも来たのかと思うほどの格好の少女がいきなりこの場に現れたのだ。
「誰だ、貴様?」
「そんなことは関係ないわよね?
で、スキル弱者は虐げられるでしたっけ?
くだらないわよね。」
「くだらない?
そういう貴様はどうなのだ?」
「私?
あなたたちのいう弱者っていうのなら、私も該当するかもね。」
「旦那、本気で言っているようですよ。」
「ほお、嘘を言わんのか?
ふーん、見た目は良さそうだから、いい商品になりそうだな。
おい!」
「へい、嬢ちゃん痛めつけられたくないなら、抵抗はするなよ?」
「あら?さっきの言い方だと抵抗しても痛めつけられそうだけどね。」
「あ、あなた!さっさと逃げて!」
「あら?
心配してくれるの?でも大丈夫よ。
私たちは1人じゃないからね。」
そういった時、森がざわめき出す。
「な、なんだ?」
茂みが音を立てるとそこから何かが出てくる。
「ひ、ひい!」
それは先ほど切られたはずのお爺さん。
その胸には袈裟斬りにされた後が痛々しく残っている。
「ゾ、ゾンビか。
なら、頭さえ落とせば!」
屈強な男が剣を横に振り、首を落とそうとするが
「き、切れねえ!」
「なっとらんな。
スキルに頼り切りなのも考えものじゃな。」
「な、なっ!」
「どれ、手本を見せてやろう。」
ゾンビかと思われていたお爺さんは切られたことなどなんともないかのように手を振るうと目の前の男が自分がつけた時と同じように袈裟斬りに傷つけられ、仰向けに倒れる。
「は?」
その男の主人はというとそれに驚愕している。
剣との相性がいいスキルで護衛の中ではトップクラスに強かったものが一撃でやられたのだ。
得体の知れない老人に後づさる。
「な、なんなんだよ、お前は!?」
先ほどから嘘を見破っていた男が体を震わせながら、老人へと問う。
「ワシか?
ワシ・・・「「私たちは一つにして全。」」
少女と老人の声が一字一句同じタイミングで合わさり、話し始める。
それはまるで双子の特徴のようにも見えるが外見的にそれは違う。
なのに、
「「「「「ゆえにここにいるのは私であり、ワシでもある。」」」」」
いつの間にか同じ言葉を話す人、獣、虫、魔物に囲まれつつ、男たちはその言葉を聞いていた。
「さて、ここからは蹂躙です。
せいぜい、後悔なさってくださいね。」
少女がその口を三日月状に笑みを作ると男達を囲んでいた もの達が一斉に襲いかかる。
男達が蹂躙された後、あまりの展開にぼうっとしていた兄妹に少女が語りかける。
「さて、あなた達はどうする?」
「どうするって?」
「このまま、私たちの伝えた『楽園』にいくか、ここから去るか。」
「え?楽園ってあるんですか?」
「そう呼んでいるだけで私たちが住んでいるだけなんだけどね。
それにその噂を流したのも私たちだし。」
「な、なんで?」
「私たちのような人達を放ってはおけないからよ。」
「で、でもあなた達は強いんですよね。
俺たちとは全然違う。」
「ううん、違わないよ。
私たち一人一人は弱いよ。
でも、みんなが合わさればそれだけで強くなれる。
さあ、あなた達はどうしたい?」
そういう少女の差し出した手を兄妹達は・・・。
『楽園』
その噂はスキル弱者の間でのみ広まっていき、その噂に縋りスキル弱者は姿を消していく。
その変化は些細なことであるが、水に波紋が伝わるようにだんだんと世界へと影響が広まっていく。
果たして、その先に待つものとは・・・。
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この話は前に投稿した「蠱毒から生まれしもの」の続きとして考えていたものです。
好評であれば、連載するかもしれませんのでよろしくお願いします。
お題、試作短編集 テリヤキサンド @teriyaki02a
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