第108話 兄の苦悩1

「晶くん、おはよう。」


 いつものように挨拶する。


「‥‥‥」


 晶くんから返事がない。

 私の声は普段から小さい方なので挨拶が聞こえていないのかもしれない。


「晶くん。」

 

 名前を呼んでみる。

 

「あっ、栞里か‥

 おはよう。」


 今度は気付いてくれたようだが、どこか元気がない。


「晶くん、大丈夫?

 元気がないようだけど‥。

 体調悪い?」


 あまり病気をしない晶くんなので、元気がないと心配である。


「‥‥‥

 体調は‥‥‥寝不足だから‥‥‥

 あんまり良くない‥‥」


 晶くんの言うように寝不足なのか目の下に薄らであるがクマがあった。


「晶くんが寝不足とか珍しい。

 いつも寝つきが良いって自慢してるよね?

 夜更かしでもしたの?」


 私の問いに晶くんは目を擦りながら答える。


「うんや、眠ろうとしたけど眠れなかった‥」


 どこか歯切れの悪い返答だ。


「何か悩み事?」


ピクッ


「‥‥‥」


 私の問いに一瞬身体が反応を見せるが返答はなかった。


「茜さんのこと?」


ピクッピクッ


「正くんのこと?」


ピクッピクッピクッ


 わかりやすい反応だ。


「晶くん!」


 私は晶くんの目を覚ますのを狙って大きめに声を出すと少し驚いたようだ。


「悩みがあるなら教えて欲しいかな。

 私は晶くんの味方だよ。」


 晶くんを安心させる為に精一杯笑顔で気持ちを伝える。


「‥‥‥ごめん。

 どうしていいか分からなくて‥。

 その‥

 姉貴と正が‥」


 晶くんは頑張って私に伝えようとするが、どうしても最後の一言が言えないようだ。


 私は晶くんに近づくと、そっと背中に手を当てる。


「大丈夫。

 私は何を言われても驚かないから。」


 私の言葉に晶くんが覚悟を決めたようだ。


「その‥

 2人が一緒にお風呂に入ってるみたいで‥」


 え?

 姉弟でお風呂に入ってるの!?

 それは‥


「あと‥‥朝、正の部屋から姉貴が出てくるところを‥‥」


 え?

 お風呂はギリギリセーフかと思ったけど、朝部屋から出てくるのは‥

 いや、ただ仲が良いのかも‥


 私がテンパっていると晶くんが深呼吸を始める。


 ちょっと晶くん?

 何を言うつもりなの?

 私まだ心の準備が‥


「姉貴が正に行ってらっしゃいのキスをしてた。」


「キス!?」


 私は驚きのあまり、人生最大の声をあげるのであった。

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