ドルメン 第 52 話 現場検証と第六の殺人

「なるほど、誘拐犯たちはなんらかの理由で第六の殺人が行われなかったので君を殺さなかったと」とマケダ警部は言った。

「どういう理由でか私は七番目の生贄に決まっているようです。犯人たちは市警察のパトカーの灯りに驚いて逃げた、という風に私は理解しています」

「わかった、それではまずドルメンに向かおう」


 治安警備隊、市警察、そしてマケダ警部の所属する国家警察が一団となって、朝六時過ぎのドルメンに向かうことになった。マケダ警部はシスネロスを疑っているようだった。

「シスネロスとグティエレスが繋がっていることはわかった。ほかに少なくとも三人の仲間がいる。君の車に乗り込んだ二人と、カルモナに向かった一人だ。君が逃げおおせたのは奇跡だぞ。二度と我々に言わずにどこかへ行くなよ」

 アルタフィはさすがに大人しくうなずいた。

「中央警察には近隣の大型のドルメン全てに異常がないか調べてもらっている。六番目の儀式がどこかで行われたか確認せねばな」


 一行がドルメンに向かって歩いていると、市警察の警官がアルタフィに近づいてきて言った。

「すみません、我々が昨夜きちんとドルメンまで行って確認していれば。異常が無いようだったので、引き返してしまったのです」

「いいえ、灯りが近づいてきたから犯人が逃げたのです。お陰で助かりました」

 アルタフィの返答に警官はほっとしたようだった。ドルメンに着くと、朝日が差した。まだ薄暗い中で金網の穴を見つけ、見分が始まった。アルタフィは柵の中のドルメンの入口に何かがあるのを見つけた。

「見て下さい、あそこに何かあるわ」


 マケダ警部が柵の中に入り、アルタフィが続いた。再び惨劇の悪夢が始まる予兆がした。荒らされた死体があることは予想できたが、それが誰かは想像できなかった。死体を見た瞬間、アルタフィは狂ったように叫んだ。アルタフィの足元にシスネロス教授の遺体が転がっていた。遺体の一部が入った二つの土器とともに。

「そんな……! シスネロス教授!」

 マケダ警部がアルタフィの腕を掴んだ。

「教授が疑わしいなんて……! 彼は無実だったのよ! 手紙も脅されて書いたんだわ!」

「どうだったかはまだわからない。まずは事実確認をしなくては。君が逃げ出した後、奴らは戻ってきて彼を殺したんだ。それなりに時間がかかったろう。その危険を冒すほどの狂信者か、何百年に一度出会うかどうかの計算高い知能犯か」


 アルタフィは地面に座り込んだ。自分が助かったのは偶然だったのだ。彼の儀式の遅れが彼女を救ったのだ。

「何が起きたのだと思うかね、アルタフィ?」

 マケダ警部は、現場検証をするための判事や警察に連絡を取り始めた。

「わかりません。私が逃げた後、犯人たちが戻ってきて、危険がないことを確認した。それから教授を殺して去った。最初の儀式と同じくらいわけのわからない状態だわ」

「それは正しいとは言えない。今は、アルフレド グティエレスが犯人の一人だとわかっている。シスネロスが殺されたからと言って、彼が犯人の一味ではないとは言えない。もしかしたらロシアン ルーレットのように、メンバーの中から生贄を選ぶのかもしれない。内部抗争の線ももちろん除外するわけにはいかない。そして君が殺人犯かもしれないという可能性も」

「そんな……、私には彼の血は付いていないし、教授が殺されたときにはトリゲロスにいたはずだわ」

「それはおいおい検証しよう。我々はシスネロスを疑い始めていた。彼が犯人の仲間であることは間違いないはずだ。彼は『高僧』になる条件を満たしている」

「ドルイドの高僧……、確かに犯人たちはそう言っていたました」


 アルタフィの中である考えが浮かび上がった。

「待って、教授は『誤った候補者』だったのじゃないかしら」

「『誤った候補者』?」

 アルタフィはそう言ってしまって後悔した。あまりにも荒唐無稽な考えだった。

「いえ、なんでもないです。ちょっと混乱してるみたいです」

 現場検証が終わりつつあった。

「そろそろ終わりそうだ。君のアリバイは証明された。君が警備隊の詰め所に着いた頃、教授は殺されたようだ」

 アルタフィはマケダ警部の車でセビーリャに向かった。

「アルタフィ、私は君の無罪を信じているが、君は私に話してないことがあるだろう。私は勘が良いほうなんだ。君は最近変わった。君は奴らの行動原則を理解する何かを見つけたんだろう。どうにかして彼らの考え方を理解できるようになったんだ」

「私が知っているのは……、自分が七番目の生贄になるということだけです。そして、私は死ぬつもりはありません」


 二人がセビーリャに近づくと、マケダ警部に電話がかかってきた。しばらく話した後、マケダ警部は電話を切ってアルタフィに言った。

「犯人たちは六人目の儀式を別のドルメンで計画していたようだ」

「どこですか?」

「ビリャマルティンにあるアルベリテのドルメンだ。金網が切れられていて、少なくとも一人の足跡が見つかった。治安警備隊がパトロールに行ったので、計画を取りやめたんだろう」

「それで私が助かったんですね。アルベリテが失敗したので、私のが取りやめになった……。いえ、取りやめでなくて、延期ですよね。七番目はまだ予定されているんだわ……」



(初掲: 2024 年 11 月 18 日)

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