ドルメン 第 48 話 コルドバでの発見と祖母のもう一つの顔
その日アルタフィは、出版社の社長であるラファエル アルファロスとコルドバで待ち合わせをしていた。ローラが行方不明になったことでぎくしゃくしてしまった二人の関係を仕切り直そうというのだ。アルファロスは、友人と共にアルタフィを自宅に招き、ペロル コルドべス(コルドバの鍋)と呼ばれる、コルドバ風のパエリアをごちそうすると申し出たのだった。ローラはまだ見つかっていないが、今夜は少し気を休めようという考えだった。
アルファロスの家はコルドバの郊外にある農家だった。きれいに改修されているが、元は古いものらしく、コルドバでは通常見られない半地下構造になっていた。夏でも涼しい半地下で、友人たちと飲むワインを作っているのだとアルファロスは言った。
しばらくアルファロスとその友人たちとワインを楽しんでいたアルタフィは、少し酔いを冷ますために外へ出た。裏庭から山辺へ広がる野原を眺めながら、アルタフィはところどころに見える岩に気が付いた。それらの巨石は、周りの石とは異なる種類の石のようだった。アルタフィにはそれらの岩が、かつてドルメンを構成していたように思えた。ドルメンを作るために、人為的に別の場所からここまで運ばれた岩なのではないだろうか。
戻ってこないアルタフィを心配して現れたアルファロスに、アルタフィはその疑問をぶつけてみた。しかし、アルファロスはこの辺りにドルメンはないと言う。話しているうちに、アルタフィは同じような岩がアルファロスの庭にあることに気が付いた。そして、アルタフィは、アルファロスの家がかつてドルメンだったことを直感した。
アルタフィは、アルファロスに家の方位を尋ねた。アルファロスは、家は東向きだ、と答えた。アルタフィの直感は確信に変わった。家の中と東の方向を考えると、寝室のある場所が玄室だったようだ。寝室も半地下になっていて、夏至の朝には日光が入り込むだろう。アルタフィは、自分の考えをアルファロスに言ってみたが、アルファロスは本気にしなかった。今まで誰もそんなことを言ったことはないと言うのだ。
だが、そこでアルファロスはシスネロス教授がこの家の古さについて質問していたことを思い出した。シスネロスの名を聞いて驚くアルタフィに、アルファロスはシスネロスがこの家を気に入って何年間か別荘として借りていたことを話した。まだ孫娘が誘拐される前で、孫娘もときどき遊びに来ていたそうだ。アルタフィは、シスネロスはこの家がドルメンだったことを見抜いたのだと思った。
更にアルタフィは、シスネロスがこの家を借りていた間に誰か見知らぬ人が訪ねてきたかどうかを聞いてみた。アルファロスは、優雅な雰囲気の背の高い痩せたフランス人の男性を紹介されたことがあると答えた。アルタフィはそれを聞くと、直ちにセビーリャに戻って行った。
帰宅途中、フーディンとシスネロスに電話をかけたが、どちらも捕まらなかった。自宅に戻ったアルタフィは母に、父とシスネロスがどのように知り合ったのか尋ねたが、母は知らなかった。更にアルタフィは、シスネロスの孫娘の死について尋ねたが、やはり母は知らなかった。アルタフィは、父とシスネロスは親しかったので孫娘について知らなかったはずはない、父は知っていたのに母には言わなかったのだと主張した。二人は孫娘が亡くなる前からの知り合いで、孫娘については何か隠しておきたいことがあったはずなのだと言った。
アルタフィの母は動揺して、もうドルメンの智慧は授けたので、これ以上はドルメンに関わりたくない、自分は現代の暮らしに戻るのだ、と言って話を打ち切ろうとした。アルタフィは、なぜそれほどドルメンの力を怖がるのかと母に問う。母はドルメンの力は光だけではない、光があれば影もまたあるのだと答える。母は突然泣き出し、次の告白をした。
「私が八歳か九歳だったとき、私の母はずっと苛ついていて、感情に波があった。ある晩、私を早く床につかせると彼女は出掛けていった。明け方に母が帰ってきた時に目が覚めた。そっと彼女の様子を見に行くと、流しで身体を洗っていた。そして浴室に入り、鍵をかけた。流しを見ると、血だらけの服が水に浸けてあった。部屋に戻ろうとしたけれど、腹の底から押し出すように何かを唱える母の声が聞こえたの。私は鍵穴から母の様子を覗いた。彼女は狂って見えた。片手に一束の髪の毛を持ち、もう一方の手に布製の人形を持っていた。私は怖くなって部屋に戻り、なんとか寝付いたわ。
翌朝、母はとても上機嫌だった。彼女は美しく、若返って見えた。その日の午後には映画に連れて行ってくれて、甘いものも買ってくれた。後で知ったのだけれど、その朝、近くの小さい農家に住むマリアという少女が野原で惨殺されて見つかっていたの。身体の一部を齧られていたのですって。そのときは狐の仕業と考えられたけれど。彼女は自分の寝室から誘拐されて、彼女の持っていた人形も無くなっていたそうよ。
その話を聞いた時、母は何か動揺したようだった。帰ってきて、きれいになった服を干して、それからおかしなことを始めたの。フライパンを火にかけて、何かを燃やしたようだった。それからまた上機嫌になって何か歌を歌っていたわ。私は子供心に詮索してはいけないことだと感じ、それ以来見たことに蓋をしてきたの」
「何を言っているの? お
アルタフィの母は赤く濡れた目をしながら、アルタフィの手を握った。
「あの頃の人形の目は瀬戸で出来ていたの。彩色された小さな瀬戸物よ。
「私が覗いたフライパンの底には、瀬戸の目が
「お母さんの思い違いよ……」
「アルタフィ。これは実際に起きたことよ。どう考えようとあなたに任せるわ。私はわたしの結論を引き出した。あなたの祖母の世界に入るということは、祖母のようになるということよ。あなたは力を得るけれど、それを超える力は血を求めるの」
「私はそんなことはしないわ」
「忠告はしたわ。もう私のことは放っておいて。現代の光の中に戻りたいの……」
* * *
うっひゃー、今回はホラーでした……💦
この調子だと、アルタフィが一人勝ちをして光も闇も統べるドルメンの女王になる可能性もありますね。
* * *
(初掲: 2024 年 10 月 29 日)
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