第111話:即位

神歴1818年皇歴214年11月1日皇国皇都:ロジャー皇子視点


 最初は実行犯に、全貴族士族の前でオスカー兄上暗殺未遂犯に証言させた。

 次に暗黒街の顔役に誰に依頼されたか証言させた。

 暗黒街の顔役ほどの悪党だ、依頼者を尾行して真の依頼者を特定していた。


 次に手先になっていた使い捨ての皇国士族に証言させた。

 ハリソンとフレディに口封じされそうになった事も証言させた。

 最後に、ハリソンとフレディの側近にも暗殺を企んでいた事を証言させた。


 その間、ハリソンとフレディはずって否定の言葉喚き続けていた。

 だが誰もそんな言葉は信用しない、絶対にやっていたと思っている。

 それでも、絶大な権力さえあれば誰にも何も言わせない事ができる。


 これまではハリソンが絶大な権力を持っていた。

 ハリソンを極端に恐れるジョージ皇帝が絶対に逆らわないから、ほぼ皇帝と同じ権力を持っていた。


 だが今は、俺の方が実力がある事を知っている者が多い。

 少しでも知恵のある者なら、俺に逆らう事が危険だと知っている。

 この状態でハリソンやフレディに味方するのはバカだけだ。


「先ほどフレディが俺の事を皇位簒奪の大罪人と言ったが、もう既に皇室は皇位簒奪の大罪を背負っている」


 俺の言葉を聞いて下を向く者、目を背ける者が結構いた。

 大罪に加担していた者、見て見ぬふりをしていた者、疑いを持っていたのにわが身可愛さに何もしなかった者、ウワサだけ聞いていた者、色々いるだろう。


 この血に宿った大罪を少しでも償うなら、ウワサを聞いていただけの者以外は、厳罰に処さなければいけない。


 自分に流れる極悪の血を無視して、1番罪深い皇室に連なる俺が、恥知らずなのを承知で裁かなければならない。


「ハリソンの恥知らずが、ジョージを皇帝にするために、ウィリアム皇太子を毒殺した、そうだな、ジョージ!?」


「はい、父が私を皇帝にするためにウィリアム皇太子殿下を毒殺しました!

 ですが私は知らなかったのです、本当に何も知らなかったのです!」


 俺がハリソンを捕らえ、何時でも殺せる状態になったから、身体と心に沁みついたハリソンへの恐怖に打ち勝って証言できたのだろう。


「さて、率直に言う、今の皇室に皇位を継ぐ正統性はない。

 我こそは皇帝に相応しいと思う者がいるならかかってこい、叩き潰してやる!」


 誰も何も言わないのは、俺の実力を理解しているからだけではない。

 皇位簒奪の罪を認めた事に驚き何も考えられないのだ。

 落ち着いて勝てると思ったら、良い理由ができたと叛旗を翻すだろう。


 直ぐに単独で叛乱を起こさなくても、有力外様貴族が同盟を組んで、主流を離れた皇族を担いで、現皇室の打倒を叫んで謀叛を起こすだろう。

 

「とはいえ、現皇室が皇位を捨てれば皇国に内乱が勃発するのは目に見えている。

 そんな事は先代のジェームス皇帝陛下も亡きウィリアム皇太子殿下も望まれない。

 ハリソンはもちろん、一緒にウィリアム皇太子殿下を弑逆した者は、平民に落として強制労働をさせる。

 もちろん、一族一門も同じだ、殺してくれと泣き叫ぶ程の地獄に落としてやる!

 楽に殺してもらえると思うなよ!」


 俺は1度言葉を止めて、集まっている全貴族士族の当主や跡継ぎを見た。

 挙動の怪しい奴には使い魔がついている。

 流れを変えるような奴は動く前に傀儡にしてくれる、大丈夫だ。


「ジョージ皇帝は何も知らなかったと言っているが、無罪にはできない。

 とはいえ、処刑するほどの罪ではない。

 ジョージを処刑すれば、皇太子殿下弑逆に加担した者、見て見ぬふりをした者、全ての子供を皆殺しにしなければいけなくなるが、それは嫌だろう?」


 俺がそう言って、関わりのある者の目を順番に睨んでやると、顔面を蒼白にしてガタガタ震えながらうなずいている。


 自分が係わっていた事を、俺に知られていないとでも思っていたのか?

 全て知っているし、何年もかけて調べさせていたのだ。

 脅すべき相手をキッチリと脅した後で続きを話した。


「終身制の皇帝の座を下りさせる訳にも行かないから、皇帝のまま実権を取り上げ、全ての権限を摂政皇太子に移譲させる。

 その摂政皇太子には俺が就く、文句のある奴は今直ぐ名乗り出ろ!」


 しばらく待ったが誰も何も言わない。

 こんな所で何か言ったら、謀叛を起こす事もできずに殺されると思っている。

 直接自分の命がかかっていたら、その程度の事は考えられるのだろう。


「俺と同母の兄弟は3公爵家に残して、何かあった場合の皇位継承権者とする。

 異母の兄弟は、フレディの同母以外は、皇位継承権を剥奪して皇国の貴族家に養子に出すが、文句をある奴はいるか?!」


 今回もしばらく待つが、誰も何も言わない。


「フレディと同母の弟は、帝国に連れて行って農民にする。

 自ら汗をかいて穀物を作り、民の苦しみを知れ!」


 フレディの母親の一族が何か言うかと思ったが、主だった奴が全員傀儡の毒を注入されて無力化されているから、端に連なる程度の連中は何も言わない。


「姉妹は母親の血に関係なく皇女の地位に留まってもらう。

 教会に入って祈りの日々を送りたいなら許可する。

 そうでなければ皇室と貴族家の絆として降嫁してもらう」


 しばらく反応を待ったが誰も何も言わない。

 多くの貴族と士族が安心したように息を吐いている。

 言っておくが、俺は虐殺大好き人間じゃないぞ。


「ハリソンに加担して賄賂を受け取り皇室の名誉を穢した選帝侯も農民にする。

 家は潰さないが、後継者は異母兄弟を入れる。

 文句がある奴は今直ぐ領地に帰って戦いの用意をしろ!

 俺が皇国軍と帝国軍を率いて叩き潰してやる!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

皇帝の14男ですが、皇位争いの暗殺や謀殺から生き延びて、何とか貧乏辺境伯家に婿入りできました。前世知識と魔力でスローライフしたい。 克全 @dokatu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画