第101話:トンネル工事

神歴1818年皇歴214年11月10日帝国北部大山脈裾野:ロジャー皇子視点


 俺が戦隊司令代理を使って脅したので、ジョージ皇帝は恐怖に震えあがって後宮に閉じ籠り、賄賂を受け取らなくなった。


 だが、身勝手で自分の能力と権力を過信しているハリソン皇父は、変わらず賄賂を受け取り続けている。

 それどころか、積極的に派閥を作り昔の権力を取り戻そうとしていた。


 ハリソン皇父を単に殺すだけなら簡単だ。

 見張らせている使い魔に命じるだけで済む。


 だがそれだけでは、これまでハリソン皇父がやってきた悪事に対して、罰が余りにも軽すぎて、地獄の突き落とされた人たちに申し訳ない。


「アントニオ軍総司令官、帝都はもちろん地方の直轄領、全貴族士族の領都に1年分の、凶作不作に備えた食糧備蓄を命じろ。

 その為に必要な穀物は、余が下賜する」


 俺は全貴族と有力士族家の当主を集めた謁見の間で言った。

 これは前もって俺とアントニオ軍総司令官の間で決めてあった茶番劇だ。


「恐れながら、そのような事をなされますと、欲深く性根の腐った貴族士族が、殿下の民を思う御心を踏み躙って食糧を隠匿いたします」


 アントニオ軍総司令官が茶番を続けてくれる。

 彼と俺で演じる脅しを聞いても食糧を隠匿するようなら、一切の事情を考慮せずに貴族士族を処刑できる。


 いや、処刑してしまったら労働力として使えなくなる。

 身分を剥奪して、俺の私財を盗んだ罪で終身重労働刑にする。

 盗んだ食糧以上の収穫を借り入れるまで、大山脈の開拓地で働かせる。


「構わない、余の使い魔の目を掻い潜って下賜食糧を隠匿できるならやってみろ。

 本人だけでなく、一族一門全員を捕らえて生き地獄に叩き込んでやる。

 オーエン王国やガスペル王国の王族のような、楽な死に方はさせない。

 泣いて縋って殺してくれと言っても許さず、徹底的に痛めつけてやる」


 俺のハッタリを聞いて、バーランド帝国、オーエン王国、ガスペル王国の全貴族と有力士族の当主が震え上がった。


 恐怖に顔を引きつらせてガタガタ震えている者までいる。

 直ぐに使い魔を送って、領地だけでなく関係する場所全てを調べさせよう。


 もしかしたら調べ損ねている不正があるのかもしれない。

 流石に全士族の小さな領地にまでは調べきれていない。


 震えている奴の一族一門の中に、悪事を働いている者がいるのかもしれない。

 あるいは、不正蓄財を弱小士族の領地に隠しているのかもしれない。


「承りました、聞いたな、殿下が下賜してくださる食糧を隠匿するなよ!」


 アントニオ軍総司令官が更に念を押してくれた。


「では全員に穀物を下賜するから領地に運べ」


 俺は帝都に結集していた全貴族と有力士族に食糧を下賜して領地に帰した。

 埋伏の毒ではないが、性根の腐った奴は必ず食糧を隠匿するから、これから何時でも処罰する事ができる。


 同時に、俺が帝都を離れても、帝都内で謀叛を起こす者がいなくなる。

 帝都を護る使い魔たちがいてくれるから、何があっても大丈夫だとは思うが、俺は慎重過ぎるほど慎重に準備する性格なのだ。

 

「これからしばらくは帝都にいる時間が極端に短くなる。

 俺に報告できるのはその時だけになるから気をつけろ」


「「「「「はい!」」」」」


 俺は、飛竜たちの縄張りから少し外れた帝国北部に拠点を造った。

 帝国北部の奴隷を解放する時に逆らった貴族の領都だ。

 逆らった貴族は潰して俺の直轄領にした。


 潰した貴族の中では公爵領が1番広く領都も栄えている。

 だがそこでは大山脈からかなり離れているので、男爵家のささやかな領都を選んだが、その方が秘密を護り易いし、何かあった場合も損害を限定できる。


「この世界に正義の神々がいるのなら、皇国と帝国の民を救う俺に力を貸せ。

 大地と大気に満ちる魔力を俺の為に使え。

 最低でも大型の馬車が8台行き交えるくらいのトンネルを造れ。

 巨大な古代飛翔竜が飛び抜けられる高さと広さにトンネルを造れ。

 大地震が起こっても絶対に崩れない強固なトンネルを造れ。

 俺がマッハ10で駆けても絶対に壊れない強固なトンネルを造れ。

 ビルド・ア・ヒュージ・アンド・ストロング・タネル!」


 最初に少しだけ俺自身の魔力が使われる。

 が、その後は全く俺の魔力は使われない。

 失敗だった、何が原因か分からないが、トンネルは造れなかった。


「この世界に正義の神々がいるのなら、皇国と帝国の民を救う俺に力を貸せ。

 大地と大気に満ちる魔力を俺の為に使え。

 大型の馬車が行き交えるくらいのトンネルを造れ。

 大地震が起こっても絶対に崩れない強固なトンネルを造れ。

 ビルド・ア・ヒュージ・アンド・ストロング・タネル!」


 最初に少しだけ俺自身の魔力が使われる。

 が、その後は全く俺の魔力は使われない。

 成功だった、無理な条件を外したら、この世界の魔力を使ってトンネルが造れる!


 俺が全く何もしていないのに、今も皇国に向かってトンネルが造られている。

 このまま皇国につながるまで何もしなくてもトンネルが通じるのか?

 それとも、時間が経てば途中でもトンネルを造るのを止めるのか?


 俺はもっと色々な事を検証したくなった。

 だから予備だと思っていた上級士族が領都としていた村に移動した。

 

 公爵や有力貴族の領都とは違うので、巨大な岩をきれいに切り出した石材を積んだ、高くて厚い城壁で守られていない。


 材木とその辺に転がっている石を組み合わせて造った低くて薄い城壁だ。

 それでも人間が相手ならそれなりの防御力がある。

 ここから皇国まで通じるトンネルを新しい条件で造れるのか?


「この世界に正義の神々がいるのなら、皇国と帝国の民を救う俺に力を貸せ。

 大地と大気に満ちる魔力を俺の為に使え。

 大地震が起こっても絶対に崩れない強固なトンネルを造れ。

 俺がマッハ10で駆けても絶対に壊れない強固なトンネルを造れ。

 ビルド・ア・ヒュージ・アンド・ストロング・タネル!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る