第94話:愚王の宣戦布告

神歴1818年皇歴214年9月10日帝国帝都帝宮:ロジャー皇子視点


「『ロジャー皇子殿下が帝王陛下を家臣のように扱うのは許せない』と我が主は申しております。どうか言動を改めてください」


 帝国の西側にある国の全権大使が、真っ青な顔色で震えながら言ってきた。

 全権大使は、偵察に送られた部隊が毎日皆殺しになっているのを知っている。

 だからこんな言葉を俺に伝えると殺されると思っている、可哀想に。


「そんなに怖がらなくても良い、俺はお前の主君とは違うので、正式な使者を正当な理由もなく殺したりしない。

 ああ、そうか、主が言えと強制した言葉が礼儀に反していると思っているのだな。

 確かにお前の主がこれまでやって来た卑怯を棚に上げた言葉は、無礼で身勝手だ。

 だが、主に無理矢理言わされた言葉を理由に殺したりはしない、安心しろ」


「……有り難き幸せでございます」


 下手な事を言ったら、主に殺されると思っているので一瞬返事が遅れたが、お礼くらいは言わないと俺の機嫌を損ねると思ったのかな?


「もういいぞ、愚王の宣戦布告は確かに受け取った。

 何時でも好きに攻め込んでこいと言っておいてくれ。

 貴国の偵察部隊が何度も領内に入ってきたが、これまでは無礼な偵察部隊を皆殺しにするだけで許してきた。

 だが、正式に宣戦布告をして大軍で攻めて来るなら話しが変わる。

 軍の1人でも帝国の国境を超えたら、国王だけでなく王族を皆殺しにする」


 俺は表情の顔色も変えず淡々と言い渡した。

 全権大使は俺の言葉を聞いて青かった表情を更に青くした。

 震えもさらに激しくなり、このままでは謁見の間で倒れてしまう。


「全権大使を国境まで送ってやれ」


「「「「「はい!」」」」」


 これが昨日、いや1時間前の出来事だった。

 あまりにも非常識な深夜の謁見願いなので、帝国の貴族士族は激怒していた。


 王侯貴族の儀礼に反する深夜の謁見願いは、普通なら断る。

 王侯貴族の常識から言えば、門前払いも許される。


 宣戦布告に来たのに門前払いされたから奇襲になってしまっただけ。

 悪いのは門前払いした方だと言っても、大陸の常識では許されない。


 全権大使が殺されると思って震えるのもしかたがない。

 常識的には殺されて当然の言動だ。


 だが俺は許した、許しただけでなく、宣戦布告をする緊急の謁見願いだと言うので、急いで会ってやったが、それは卑怯な方法で侵攻しようとする王家を皆殺しにする正当な理由を確保する為だ。


 流石に、少々の理由で王家を滅ぼした大陸的に非難されてしまう。

 制限した大陸交易しかしてこなかった頃なら良いが、これから大々的に大陸交易を始めようとしているのだ、悪評は避けたかった。


 こんな非常識は宣戦布告をする国王を頂く国、王家なら滅ぼしても非難は少ない。

 少ない非難で俺の実力、恐ろしさを大陸中に広められる。

 こんな好機を利用しないのはバカだけだ。


 バーランド帝国を支配下に置いた事で、それなりの目がある者には実力を認められているが、見た目があまりのも幼いので、目のない奴は実力を認めようとない。


「テキ、ヤッテキタ」


 などと考えているうちに、国境を警備するトンボ型の使い魔が報告してくれる。

 国の名称も王の名も覚える気になれない国の軍隊、とても可哀想な5万兵が国境を超えて侵攻してきた。


 その気になれば国境の手前で全滅させられるのだが、今回は大陸中の王侯貴族に俺の正義を訴えなければいけないので、民家のない所までは侵攻させた。


「1人も残さずに皆殺しにしろ。

 ただし、人間を食べてはいけない、武具や衣服は剥がして再利用するぞ」


 俺は国境線を護ってくれている使い魔に全力を発揮して良いと命じた。

 愚王も少しは無い頭を使って考えたのか、大臣や将軍が具申した策を取り入れたのか、日付が変わった0時に30分に、5軍に分かれて侵攻してきた。


 新月で星明りしかない時間に、長大な国境線の5カ所に別れて侵攻すれば、偵察部隊のように皆殺しにされる事はないと思ったのだろう。


 だがそれは、とても愚かな甘過ぎる考えだ。

 むしろ夜の闇は俺の使い魔の方が有利になる。


 星明りでも、夜目の利く魔鳥が遠くまで見張り何者も見逃さないようにしている。

 暗闇で周囲を警戒できない人間の方が圧倒的に不利だ。


 毒を持つ魔蟲が縦横無尽の飛び跳ね駆け巡り、次々と敵兵を瞬殺する。

 魔蟲1匹で100人の敵兵を瞬殺してくれる。


 その気になったら1000人でも殺せるが、それでは魔蟲の負担が多過ぎる。

 だから1匹100人までに制限しているのだが、それでも100匹いれば1万の敵兵を瞬殺できる。


 使い魔にとっては、俺に役に立つのをアピールできる好機だ。

 先を争って敵兵を殺していくが、色々あって使い魔を創り過ぎているので、多い子でも5人しか殺していない。


「ミナゴロシシタ」


「よくやってくれた、ありがとう、これからも頼むよ」


「ホメラレテウレシイ、コレカラモガンバル」


 全ての使い魔から報告が来て、その全てに感謝の言葉と気持ちを返す。

 返しながらソニックブームを起こさない速さで西の国境に駆ける。


 言葉と気持ちだけでは、使い魔に対する想いが正確に伝わらない。

 丸1日使う事になっても、直接会って身体を触れ合い感謝を伝えたい。

 僅かでも魔力を分け与えて絆を深めたい。


 彼らから見れば、俺以外の人間は食料にできる存在だ。

 俺が命じなければ無用な殺害はしないし、殺したら食べるのが自然だ。


 それを俺の価値観で無理矢理殺害をさせているのだ。

 殺した人間を食べないように命じているのだ。

 使い魔であろうと直接会って感謝を伝えるべきだと思う。

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