第34話:決断

神歴1817年皇歴213年4月30日バカン辺境伯家領都領城:ロジャー皇子視点


 俺は別に皇位を狙っている訳じゃない。

 俺のような性格の人間が皇位に付いたら、3日で胃に穴が開き、5日で円形脱毛症になり、10日でブチ切れて皇位を投げだすだろう。


 いや、狂って専制君主になるか?

 父のように政務を投げだして自分の趣味に逃げ込むか?

 実際になってみないと分からないが、これ以上責任を背負うのは嫌だ!


「殿下、城内の者共を集めて参りました。

 明白に敵対した者は斬って捨てましたが、家族のためにしかたなく従っていた者まで斬ると、殿下が心を痛められるかと思い連れて参りました」


 やれ、やれ、覚悟を決めて命令したというのに、アントニオが余計な気を利かせてくれたせいで、中途半端な処分になってしまいそうだ。


「良く気がついてくれた、それでいい、しかたなく従っていた者は追放する」


 忠義を尽くさず、正義も行わず、被害者のような顔をしてうまい汁を吸っていた小狡い連中が、何の罪も問われずに残るのは、絶対に許せない。


 そのために、本当に家族のために我慢していた者を追放する事になってでも、腐れ外道たちのせいで、女子供を売らなければいけなくなった者たちの恨みは晴らす!

 そもそも、誇り高いはずの騎士や徒士なら、憶病卑怯だけでも罪になる!


「ここに転がっている連中は、1度ならず2度までも皇子である余を殺そうとした。

 その仲間は一族一門皆殺しにする!

 ここから逃げようとした者は仲間とみなして地の果てまで追う!

 仲間ではないと言うのなら、絶対にここから逃げるな!」


「「「「「はっ!」」」」」


 アントニオとウッディが集めてくれたバカン辺境伯家の家臣たちを、領城の一角に幽閉した。


「今のうちに10家に手を貸していた領民をあぶり出す。

 前もって話し合っていた通りにしろ」


「「「「「はっ!」」」」」


 今度は領民の中にいる悪人を見つけ出さないといけない。

 腹が立ち過ぎて、手順が逆なってしまった。


 本当は、領民の中にいる悪人から徐々にあぶり出して、最後に10家の連中を処罰するつもりだった。


 そうしないと、悪知恵の働く商人や暗黒街の連中は、10家が処分されたのに勘づいて逃げてしまう。


 そう思っていたから10家は最後に処罰するつもりだったのだが、自分がこれほど短気だとは思ってもいなかった。


「スレッガー叔父上、俺は少し休んで来るから後は任せる」


「殿下……少しは大人しくできないんですか?」


「俺のような5歳児だからこそ探れる事もあるんだ。

 それに、まだ子供とも言えるような女の子を囮にするのに、安全な場所でふんぞり返っていられる性格でもない」

 

「見た目は子供のように見えても、女はしたたかな生きもんですぜ!」


「叔父上はそう言う女しか見た事がないだけだ。

 中にはガラスのように繊細な心の女の子もいる。

 敵には容赦しないが、家臣使用人に迎えた者は大切にするのが俺のやり方だ」


「こういう点で殿下に何を言っても無駄なのは嫌と言うほど知っています。

 これ以上何も言いませんが、くれぐれも無理はしないでください。

 殿下に何かあったら、グレイシー妃殿下に泣かれるのは俺なんですよ」


「母上を泣かせるような事はしないと誓うから安心してください、叔父上」


「信じていますからね!」


 俺はスレッガー叔父上の言葉を背に城外に向かった。

 小走りに駆けながら、素早く冒険者風の服装を上からはおった。

 従うのは新しく家臣に加えた13歳から15歳の女の子4人。


 4人とも12歳くらいからゴブリンダンジョンに潜っていた。

 ろくな武器も防具も与えられない状況で生き抜いてきた。

 更に俺の命じた実戦訓練に参加した事で、急激に実力を伸ばしている。


 見た目は純情可憐な美少女だが、中身はゴブリン虐殺マシーンだ。

 こんな美少女と5歳児が冒険者ギルドに行ったらどうなるのか?

 10家が処分されたと領内に広まる前に確認したいのだ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る