第26話:皇室系子爵家
神歴1817年皇歴213年2月28日皇室系子爵館:ロジャー皇子視点
「ロジャー殿下、よくぞ我が領の駅家と村を守ってくださいました。
この通り、お礼申し上げます」
「いえいえ、私は大したことをしていません。
皇帝陛下がつけてくださった護衛騎士と、新たに召し抱えた騎士が戦ってくれただけですよ」
「それでもです、それでも、殿下がかけがえのない尊い身を危険にさらして指揮してくださったからこそ、騎士たちも誇りを持って戦えたのです」
ウソやオベンチャラでもこんな風に言われたらうれしくなる。
それに、話し方と態度を見れば、ウソやオベンチャラではないのくらい分かる。
「子爵殿とは同じ血が流れる親戚ではありませんか。
何かあれば助け合うのが当然です」
この子爵の初代は、3代皇帝の正妃の弟で最初は皇室と血縁がなかった。
だが、初代建国皇帝の10男、初代クイーンズベリー大公の次女を正妃に迎えているのだ。
女系なら皇室につながっていて、家名にダグラスを入れる事を許可された。
領民が少ないのに家格が並みの皇室系よりもとても高い、珍しい子爵家なのだ。
それに5代目当主にクイーンズベリー大公家の4男を養子に迎えている。
それ以降初代と5代の男系が交互に当主となっている。
そして当代の9代目当主はクイーンズベリー大公家の男系なのだ。
それと1度嫡流が途絶えた皇室は、クイーンズベリー大公家から8代皇帝を迎えており、その点でも俺と同じ血統になっている。
早い話しが、今も皇室は嫡流が絶えてしまって、クイーンズベリー大公家の男系になっているという事だ。
「そう言っていただけるととてもうれしいです。
さあ、大したものはありませんが、どうぞお食べください」
借金でとても大変だと聞いているのに、急な訪問にもかかわらず、精一杯歓迎してくれる。
こういう親戚なら、どれほど血や縁が遠くても助けてあげたくなる。
ストレージ能力を隠す意味でも、金になる仕事を回してやろう。
「有り難くいただかせていただきます。
先ほどの戦いなのですが、運の良い事に大好物のキャンサーを23匹も手に入れる事ができたのです」
「その話は聞いています、駅舎の役人や領民がふがいなくて申し訳ありません」
「いえ、いえ、下級役人や平民が戦えないのは当然の事です。
それよりも、好物を手に入れたのですが、私には保存の方法がないのです。
費用はいくらかかっても構いませんので、子爵殿の力で保存して頂けませんか?」
「保存ですか、我が家に伝わる魔法袋は大した量が入らないのです」
「子爵殿に直接保管していただけなくてもいいのです。
領内にいる商人はもちろん、領外にいる商人を使ってくれて構いません。
私はここのダンジョンに潜らせてもらうのを楽しみにしていましたので、商人を相手にして時間を潰したくないのです。
子爵殿に負担をかけてしまうのですが、お願いできませんか?」
「ありがとうございます、殿下が我が家の事情を考えて言ってくださっているのは分かっております、この通りお礼申し上げます」
俺が支援しようとしているのを分かってくれている。
初代から4代目くらいまでは皇室から特別待遇を受けて高い家格になった。
ダンジョンの有る領地をもらって経済的に楽に暮らせるように思えた。
だが実際は、もらったダンジョンは経済的にはあまり役に立たない物だった。
家格が高くて皇国の行事や付き合いに多くの費用がかかるのに、領民が少ないので経済的に苦しいと聞いている。
特にちょうど50年前に起こった大凶作の影響で、子爵家の収支が完全に悪化してしまい、毎年借金を重ねて利息を払う状態だとも聞いている。
「そんなにお礼を言ってもらう必要はありません。
私は子爵家のダンジョンを巡るのをとても楽しみにしていたのです」
「楽しみにして頂いているのはありがたいのですが、皇都のダンジョンのような美味し肉が出る訳でもありませんし、深さも大した事ないのです」
「確かにドロップはモンスターに見合わないわずかな硬貨だけだと聞いています。
ですが出てくるモンスターが人型ゴブリンなのが良いのです
家臣の騎士や徒士に対人戦の訓練をつけるという意味では、これほど最適なダンジョンは他にないのです」
「そういう事ですか、殿下が楽しみにしておられた理由がようやく分かりました」
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