悪徳身につかず

 支倉六弥の人生はいつだって成功だった。軽い挫折はあったかもしれないが、それも思い出せないくらいには成功していた。大好きだったサッカーでは主力メンバー、クラスモテそうランキング男子の部では堂々の一位。幾度となく告白された事もあるし、ひとたび体育祭に出ればヒーローにだってなれた。


 ―――何でこんな事になんだよ!


 部屋の中に煙が充満したかと思うと扉が開いて、声がした。

「早く逃げてください!」

「えっ」

「いいから早く!」

 聞いた事のない声。俺に攻撃してきたメイドの誰とも違う。まさか煙は俺が部屋を出たかどうかを誤魔化す為……?


 こんなチャンスは逃せないだろ!


 原理はどうでもいい。充満した煙が流れ切ってしまう内に脱出。スピード勝負だ。この屋敷の全容なんて分からないけど、とにかく正面から逃げる。幸いにして俺は男で向こうは女ばかりだ。身体能力なら分がある。邪魔をするなら蹴り飛ばしてでも逃げて、警察に駆け込むのだ。

 開きっぱなしになっていた鉄格子を抜けて廊下に出ると、あんなに騒がしかった館が今回に限っては不気味なくらい静まり返っているのだ。俺を助けてくれた声はもう何処にも居ないが納得した。屋敷がこんな状態だからこそ俺を助けてくれたのだ。

 散々こき使われたせいで道のりは単純に覚えている。誰も居ない今が唯一のタイミングだ。

「……うっ。ぐうう……」

 身体中を傷めつけらたせいで引きずるようにしか動けない。スタンバトンを何度も当てられて身体の至所に火傷が出来てしまった。本当に直前まで特に足が怠くて動くのも嫌だったが今は生存本能が身体を動かしている。それよりも何よりも一番効いたのは鞭だ。鞭なんて身体の表面を叩くだけだから痛いと言ってもここまで引きずるとは思っていなかった。背中が焼ける様に痛い。ベッドで仰向けになるのも苦痛だった。

 それでも警察に逃げ込めれば俺は助かる。家に帰ろう。帰りたい!

 玄関までやってくると、扉の取っ手に鎖がぐるぐるに巻き付けられていた。錠前とかはなく、時間を掛ければ解ける。お金持ちが聞いてあきれるセキュリティも今は有難い。


「おや、支倉六弥。部屋から出ていいと言った覚えはないけど、どうやって出たのやら」


 八束と呼ばれる女の声が玄関ホールの正面―――階段を上った先から聞こえる。距離は遠いが一瞬だ。ゆっくりと階段を下りてくる足音に背中を押されて俺はもう無我夢中になって鎖を外していく。


 ジャラ。


 鎖がほどけた訳じゃない。だが確かに、同じ材質の音がした。振り返ると、八束と呼ばれる女がその手に鎖鞭を垂らしていた。さっきの金属音の正体はそれだ。

「ひっ―――――!」

 開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け。今度はこっちの鎖が外れて扉が開く。

 勢いよく外に飛び出した次の瞬間、何かが俺の左腕に絡みついて動きを止めた。見るとそれは八束が放った鎖鞭で、よく見ると鎖には外側にこれでもかとギザギザの返しがついており、絡み疲れた腕に食い込んでいるではないか。

「いだだだだだだっだだだだだだ! あああだだだだだだ!」

「逃げるな。そんな指示は出していない」

「あああああああああいだだだだだだああああああ! やだああああ! 逃げ、ああああああうああああああ!」

 ブチブチと制服と一緒に肉が千切れる音を体で感じながらも力ずくで拘束から抜け出して鉄門扉まで走り抜ける。走っているせいで腕からの出血も激しくなっているけど関係ない。警察で手当てしてもらおう。警察。警察だ! こんな犯罪者は全員取り締まれ! 死刑でいい!

 涙が止まらない。痛くて痛くてとにかく痛い。足取りも段々おぼつかなくなってきた。それでも俺なら走れる。サッカー部で散々やった走り込みが活きる時だ。その経験が俺を生かしてくれる!

 あと少し、あと少し、あと少し……森を切り開く道を抜けて、今度は監視カメラ付きの大きな門を抜けて! 監視なんて関係ない! 警察に通報すればそれでいい!

「やった! やったやったやったやったああああああぞおおおお!」

 見慣れた市街地に帰ってきた。季節は夏、夜にしたって外はまだ明るい方だ。交番の場所なんて分からないけど、駅前に向かえば―――


「警察! 警察助けて! 警察!」


 血塗れの腕を見せつけながら、俺は交番に駆け込んだ。


 


 ああ、俺はあのイカれた洋館から―――脱出出来たんだ。

















 支倉六弥が屋敷に戻ってきたのは、彼が市街地に脱出してから十分後の事だった。

「ご苦労様」

「いえ。自分達は上の命令に従っただけです。それでは」

 警察への対応を済ませて八束さんが屋敷に戻って来た。後ろ手に手錠をかけられた支倉を連れながら。背後には何十台ものパトカーが家を囲むように壁を作っている。彼が家に送還され次第崩壊する壁だが、本人に知る由はないし、両手を塞がれたなら今度こそ彼は逃げられない。

「何で! なんでだよおおおおおおおお!」

「八束、ゴミはきちんと回収出来たようね」

「はい。無価値のゴミを町へ放つのは不法投棄にあたります。町の方々に迷惑をかけるような真似は控えるべきでしょう」

「そうそう♪ 特にウチは家庭ゴミを多く出しますからねー! こちらで処理出来るゴミは外に出さない事が大切ですッ」

 ニコニコ笑顔で一番ろくでもない事を言っているが、彩夏さんにその自覚はなさそうだ。何となく横顔を見つめていると気付かれて、ウィンクで返してきた。玄関ホールの踊り場に立った詠奈は聖に椅子を用意させると、即席の玉で足を組んでふんぞり返る。

「支倉六弥。悪いけど貴方は自分で無価値を証明してしまったみたいだから、処分しないといけないわ。警察の人は本当に優秀ね。うっかり落ちてしまったゴミを回収してくれるなんて」

「警察は! 警察は何でお前なんかの味方なんだ! おかじい! 帰らせて……くれ…………」



「それが人にモノを頼む態度?」



 仲慧友里ヱが地下室から出てくるなり支倉の方を見つめて吐き捨てる。視界の端に俺が映ると、「おひさ!」と手を挙げた。別に久しぶりではないけど、彼女は詠奈以外にはそれを挨拶にしている。

「そこに御座します方は王奉院詠奈様です。私たちの御主人様で、アンタにとってもそう。勿論景君にとってもね。ゴミはゴミでも敬意くらいは持ちなよ。人に物を頼むときは敬語なんじゃないのー?」

「ご…………だ、誰が敬語にするかよ! クラスメイトだろクラスメイト! 必要ねえから! 景夜だってしてねえだろ!」

 友里ヱは俺の背中に回り込むと、胸で後頭部を挟むように抱き着いて、見せつけるように俺の頬に手を当てた。

「景君は特別なの。アンタとは違う。ほら、試しに許しを乞うてみれば? どの道このままだと死んじゃうよ」

「友里ヱさん。髪が目に掛かって痒い」

「あ、ごめーん」

 屋敷に住むメイドが勢揃い。自室の扉を半開きにして様子を見ている子まで居るが、概ね整列して玄関ホールを一本道のように区切っている。階段上の踊り場で王様のように振舞う詠奈が支倉を見下ろす形だ。

 売り言葉に買い言葉で逆上していた男も、この状況はどうにもならないと思い直したらしい。ゆっくり膝を曲げて正座すると、両手を後ろ手に拘束されたまま無様に頭を地面にこすりつけた。

「ゆ、許してください、詠奈様。俺は死にたくない……です。お願いします。お願いします!」

「―――私の為に何でもすると誓える?」

「…………誓う! 誓います! 何でもするますから! 許して下さいいいいいいい!



「じゃあ死んで」



 命乞いに最初から興味はなかったようだ。詠奈はパンパンとその場で拍手をすると、彩夏さんが物置から白い布の掛けられたワゴンを運び出してきた。料理を運ぶ際に使う物よりも二回り大きい。押すのも苦労している様子だったので直ぐに向かって、一緒になって手押しした。

「沙桐君っ。有難うございます! もう少しだけ甘えてもいいですかね~?」

「……いいですけど」

「それじゃあ抑えててくださいねっ。私はそこのゴミを上に寝かせないといけないので!」

「嫌だ! 嫌だああああ!」

「はいはい。八束さん抑えててくださいね~」

 笑顔を絶やさないまま彩夏さんは左手に持っていたネイルガンのような銃を支倉の肩に突き当てて発射。びくんっと大きく身体が動いたかと思うと、身体の動きも叫び声も徐々に小さくなっていて―――十秒もしない内に意識を失ってしまった。

「麻酔銃ですか?」

「大正解です! すごーく効き目が強くて、強すぎるから後遺症も重いんですけどこれから処分するゴミには関係ありませんから!」

 それからメイド数人で協力して支倉の身体をワゴンの上に乗せると、俺を押しのけて彩夏さんが再びワゴンを動かしていく。

「私は隠しエレベーターから地下に向かいます。他の皆は自室に戻って、沙桐君は詠奈様に付いて行ってくださいねッ」


 そんな風に言われたので詠奈に案内を頼んだら、直ぐに連れて行ってくれた。


 地下室。大浴場へ向かう途中の分岐点を左に向かうと梯子がある。そこを下りて更に先へ行くと迷路のように入り組んだ道があって―――そこから先は良く分からない。懐中電灯は詠奈が持っていたし、俺は手を引っ張られていただけ。何処か個室に入って壁の電気が点けられた時、目の前はガラス張りで、奥にはワゴンの上に横たわる半裸の支倉と割烹着を着た彩夏さんが居た。その隣には絵本に出てくるような大釜があり、中はぐつぐつと煮えたぎっている様子。熱湯だ。足元に組まれた薪とそれを燃料とする火の強さが物語っている。

 支倉は自分の処刑装置を自分の手で仕上げていたのだ、と納得した。ここに来るまでにワゴンから手術台のような乗り物に入れ替えたようだ。スイッチを入れると角度が変わるようになっている。今の支倉は縦向きに拘束されたまま眠っていた。

「取り敢えず起こしますね!」

 彩夏さんはスタンバトンを取り出すとお腹に先端を押し当てながら放電。


「ががはがぐぐがああああああああああああ!」


 麻酔で眠らされていた意識を呼び起こされる。後遺症かどうかは分からないが、支倉の目は虚ろで、殆ど夢うつつの状態にも見えた。

『モニターがみえるかしら、支倉六弥』

 スピーカー越しの音声に反応して、その顔が上を見上げる。成程、どうやら目の前の硝子はマジックミラーで俺達の事は見えていないようだ。

『これから無価値な貴方を処分する訳だけど、最期に景夜から言っておきたい事があるそうよ』

「え、俺?」

 マイクを渡されて困惑していた。そんな話はちっとも聞いていない。訳が分からないと目で訴えてみると、詠奈は耳元で呟いた。

「ずっと彼の事を気にかけていたでしょう? 君としても誤解は解いておきたいだろうし、それを言えばいいの」

「あ………………そっか。有難う詠奈。気を利かせてくれて」

 すれ違うようにサッと唇を交わしてから、改めてマイクを握る。左右を詠奈と八束さん、背後に聖と友里ヱさんが座っていて妙に緊張してしまうけど、確かに誤解は解いておきたい。いつまでも自分が不幸で仕方ないみたいな顔をされても嫌だから。

『えっと。支倉。言っておきたい事があったんだ。勝手に勘違いしてたみたいだから言わないでおいても良いと思ったんだけど、俺は高校に入る前に詠奈に買われてさ。お前よりずっと昔からこの環境で生きてる。だからお前の事は助けないし、助けられない』

「…………ふざ、けんな。ふざ、けんな。お前は……じゃあ…………幾らで……」

『その事も最期だから伝えておくよ。自分の今の価値は分からないけど、俺は三億円で詠奈に買われたんだ。お前と待遇が違うのもそういう理由。そこはごめん。最初に言っておくべきだったとも思う。けどこうなるまでに至った経緯について謝罪はしないよ。だってお前は喜んでたじゃないか。ここで俺に非があるかないかなんて、これからお前が殺されるって話ありきの結果論だ。上げろなんて言わない。お前が最初に提示した価値を維持出来たなら、ここはきっと天国だった」



「ふざけんなああああ!」



「おおー」

 麻酔は抜けきっていないだろうに、支倉は拘束を破らんと暴れてもがいている。

「警察もぉやくにたたねえならああ! 殺してやるぅ! 殺してやるからなアアアアア! 出せええ! こらあああ! 景夜ああああああ!」

『お前が詠奈の鑑識眼を馬鹿にしなきゃ、少なくとも最初はVIP待遇だったと思うよ。庶民からすればな。斜め読みも良くなかった。だから俺は逃げろと言ったんだ。もう……遅いけどさ。お前の家も土地も全部売り払われて、家族はどっか行ったみたいだから』

「………………………ぇ………………?」

 血が上り切っていた頭に、冷や水が掛けられたような静寂。俺の言葉を理解出来ていない様だけど、そんなの当たり前だ。法律上はあり得ない。個人の権力がここまで及ぶなんて。

 だが現実はどうだ。王奉院詠奈は国に干渉出来てしまう。法律を無視しても赦されてしまう。それが現実である。

『今日の朝からお前に帰る場所なんかなかった。警察も詠奈の味方だ、お前は適応するしかなかったんだよ。その……さっきも言ったけど俺も詠奈の所有物だから助けられないよ。だから…………あんまり暴れると酷くなるから、抵抗しない方がいい』

 マイクを詠奈に帰すと、余韻もなく非情な一言が告げられる。



「じゃあ、後はお願いね」



「はいはーい!」

 彩夏さんは台を横向きに戻すとちょっとしたスロープを上って大釜の上へ。再度縦向きにして、全身を支える拘束を解除した。

「ポチっとな!」

「う、うわあああああああああああ!」

 ボチャン、と人の落ちる音。大釜は想像以上に大きく、自力で抜け出そうとすると縁を掴んで強引に抜け出すしかないだろうが、何せ底も深ければ釜全体に伝わる温度も高い。それをすれば掌の大火傷は免れないだろう。片腕を出血している支倉には不可能な手段だ。

 暴れているせいで呼吸も荒く、身体が一向に浮かび上がらない。虚空に手を伸ばして蜘蛛の糸を期待するしかない支倉の頭上に現れたのは大きな蓋だった。あれで釜を密閉しようというつもりだろう。支倉が死ぬまで。

「はーい。それじゃあそろそろお別れですねー! 来世はもっと詠奈様のお役に立つ事を願って下さーい」


















 支倉の処分が終了したのはそれから三〇分もかからなかった。いや、厳密にはこれからバクテリアの繁殖に最適な温度でゆっくり支倉の死体を溶かしていき、そこにカレー粉や香辛料などを入れて臭いを誤魔化したシチューを作って処分するらしい。

『流石に人体をそのまま捨てるのは業者さんに悪いですから!』

 と屈託のない笑みを浮かべて彩夏さんは言っていた。尤もその業務はメイドの誰がやるのではなく自己申告で百万円を提示した子がやるらしい。俺も存在は知っているけど、会った事がないと思っていた。地下でそんな業務をしていたなら会わない訳だ。

『みんな、ご苦労様。特に彩夏は死体処分の手際も素晴らしかったわ。他の子は自室のカメラから見ていたと思うけど、無価値なモノは等しく処分するから、精々気を緩めないようにね。それと彩夏。貴方の今回の働きに免じて何かご褒美を上げたいんだけど―――』

『え、本当ですかー!? それなら沙桐君と二人きりでお風呂入らせて欲しいです!』

『―――気が変わったわ。四億円」

『お支払いします!』

『…………え?』

 


 と、何故か勝手に権利を売られて俺は大浴場で彩夏さんとお風呂に入る事になってしまった。


 

「ぬっふっふ♪ 今日も今日とて男の子ですねー沙桐君♪ もう何回も入ってるのに、慣れないんですか?」

「だ、だって…………彩夏さん可愛いし。慣れませんよこんなの何回入っても!」

 相手が詠奈ではないので目を瞑っても彼女は何も言わない。だからか、むしろ目を開いてしまう自分が居た。視線は吸い込まれて夢中になる。何かとても神妙な空気になりかねない事を聞きたかったのに、全部吹き飛んだ。

 ケダモノのような視線に、彩夏さんは顔を赤らめながらも隠そうとはしなかった。入浴中は身体を密着させてくるし一々囁いてくるしで気が気でなかったから直ぐに身体を洗って上がろうと思ったらそうはメイドが許さない。身体を洗うとの申し出に断れなかった。

「身体の隅々まで洗ってあげますねー!」

「あ、あんまりやらなくていいですから!」

「いえいえお気になさらずー。実は処分担当って本来くじ引きなんですけど、今回に限っては私の方から引き受けたんですよ」

「…………え?」

 鏡越しに彩夏さんの表情を窺うも、頭から泡が垂れてきて絶妙に遮られる。分からない。見えるのは顔より下だけ。

「沙桐君を馬鹿にされた時、もうほんっとに……自分でもどうかなっちゃうくらい頭に来ちゃって。あのまま暮らすんだったら何処かで毒殺するつもりでした。それをしたらきっと詠奈様に怒られてたから、アレが馬鹿で良かったです!」

「………………そ、そんなに俺は馬鹿にされてたかなって感じですけど。有難うございます。でも俺も、彩夏さんを馬鹿にされてたらぶん殴ってたかもしれません」

 ああ、腐ってもメイド。頭を洗わせるだけでも気持ちいい。身体を洗っていてそう思った事はない。熟練の指捌きがそう思わせているのだ。頭皮を撫でる感触が滑らかで。ああ。

「痒い所があったら言ってくださいねー! この赤羽彩夏。詠奈様であろうと沙桐君であろうと気持ちよくさせましょうッ」

「はい」



「…………大好きですよ沙桐君。詠奈様が買わなかったら、私が監禁する所でした」













  

 




「それで、どうしてそんな風に身体を曲げているのかしら」

「い、いやあ……きゅ、急に痛くなって…………うう」

 詠奈との寝室に戻ると、扉を潜った瞬間に咎められた。彩夏さんの手先は熟練で、気持ちよかった事に嘘はない。下心を抜きにしても最高の入浴だった。

「……気持ちよかった?」

「……………………」

「景夜」

「は、はいぃ………………気持ち良かったですぅ…………」

「―――褒美とて、四億なんて言わずにもっと釣り上げるべきだったわ。まあいいでしょう。これからもずっと私と入るのだから」

 就寝準備は地下に居る内に追えた。後は眠るだけだ。ベッドに誘われてホイホイと中へ入っていくと、彼女は珍しく自分の手でカーテンを引いた。

「さて、賭けは私の負けね。まさか私が予想を外すなんて思わなかったわ」

「あ、ああそれ……いや、でも脱出は出来てないんだしお前の勝ちなような」

「敷地から出られた時点で君の勝ちよ。彩夏と同じようにご褒美をあげなきゃね。大丈夫、お金なんて取らないわ。君のその価値で十分―――払えてるから」

 願いは自由。

 きっとどんなお願いも王奉院詠奈はその権力で実現させてくれるだろう。もし勝ったならと色々妄想していたし、何事も無ければそれを言うつもりだった。


 問題は直前まで彩夏さんと入浴していたせいで、頭がピンク色になっていたという事だ。


 願いを口にすると、詠奈は満足そうに聞き届けて、ナイトドレスの中に手を入れる。ストンと服の下で何かが動いて、腰に落ちた。








「貴方がどんな変態さんでも―――愛してるから、こんな事するのよ。自信を持って。貴方はこの王奉院詠奈が選んだ世界一の男の子なんだから」

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