5. ボク行くね
「これってもしかして、戦ってる?」
京香さんや友達がボクを撮ろうと構ってくるのに対応していたら、少し離れたところで戦闘が行われていることを察知した。しかも探索者同士が模擬戦をしているのではなく、相手は魔物っぽい。場所はここより南の海岸沿い付近かな。魔力のうねりがとんでもないことになっているから、大激戦を繰り広げているに違いない。
「京香さん、魔物が外に出て来てるよ。行かなきゃ!」
「分かってる。でもギルドの皆に任せれば大丈夫だよ」
あそこで戦っているのはギルドの皆なんだ。
最近皆かなり強くなったし連携も抜群だから簡単には負けないと思うけれど、相手はボクよりも魔力を持ってそうだから結構きついんじゃないかな。
「人が居ないところに誘導済みで大丈夫そうって連絡来ているから気にしないの。そんなに心配なら私が行くから。主役はここで可愛い姿をもっと見せてあげて」
「だからもう十八歳なんだからかわいいとか言わないでよ!」
何度お願いしても止めてくれないんだもん。困っちゃう。
「それじゃあ行ってくる。皆、救ちゃんのことお願いね」
「はい!」
「はい!」
「了解です」
「ぐへへ、救くんちゃ~ん」
あ、行っちゃった。
ボクも一緒に行けばもっと安全に対処できるのに。
でも今後のことを考えると皆だけで倒せるようになった方が良いのかな。
被害が出ないところに誘導したみたいだし、京香さんの言葉を信じるならボクはここに居ても問題なさそうだ。
「さぁ救様、今度はあっちの全国放送のカメラに目線をやって!」
「その後は私とツーショットを撮ってください!」
「カメラさん、可愛らしいエフェクト出来るか?」
「ぐへへ、救くんちゃん救くんちゃん救くんちゃ~ん」
大丈夫だとしてもこのカオス空間から逃げ出したいからボクも行きたいんだけどダメかな。
それはそれとして、皆を信じてない訳じゃないけれど万が一にでも被害が出たら嫌だからボクもここから様子を探ってみよう。
「皆そろそろ勘弁……え?」
「救様どうしたの?」
友1さんがボクの様子を気にしてくれるけれど、悪いけれどそれどころでは無かった。
遠視のスキルで皆が戦っている相手を確認したら、このままではマズいことに気が付いてしまったから。
「皆ごめん。ボクも行かなきゃ」
急いで京香さんの後を追わないと。
「ダメ!」
「友4さん?」
さっきからボクにベタベタしてくる友4さんが、思いっきりボクの体を抱き締めて動きを封じようとしてきた。
「救くんちゃんの香りはぁはぁ」
封じようとしている……んだよね?
「ボクを危険な目に合わせたくないっていう気持ちは凄い嬉しい。でもこのままじゃダメなんだ。行かないとボクは絶対に後悔する。だからお願い、行かせて」
「救様は皆を信じてくれないの?」
友4さんがボクの耳元で小さく呟いた。
普段は変な態度なのに突然真面目に戻るギャップに未だに慣れない。
「信じてるよ。ボクが行かなくてもあの魔物は倒せると思う」
相手の魔物は膨大な魔力量を持ち多数のスキルや魔法を放つスライム。戦闘状況を見る感じ、皆は連携を駆使して見事に渡り合っている。ダメージを与える方法がまだ分かっていないようだけれど、いくつか作戦を用意して試しているっぽいからいずれ突破口を見つけると思う。
ボクの脳裏にはあのスライムを撃破して勝鬨をあげるギルドメンバーの未来の姿がありありと浮かび上がった。
「でもそれじゃあダメなんだ」
「どういうこと?」
「それは……」
ボクの考えを友達に伝えると、四人とも驚いたようにボクを見た。友達以外の人達もボクらの話を静かに聞いていて、彼らもまた驚いていた。これもカメラに撮られているのかな。だとするとカメラの向こうで見ている人も驚いているかも。
「そんなことが……本当に出来るの?」
友1さんが震える声で聞いて来た。
「出来るよ。簡単な事じゃないけどね」
「それって……」
「普通にやろうとしたら、また会議開かれちゃうかな」
恐らくはエリクサーや蘇生魔法の力を借りなければ出来ないことだと思う。
「ダメええええええええ!」
「え、友1さん待って」
友1さんが泣きながらボクの肩をポカポカ叩き出した。
今ごろテレビを見てる家族も似たような反応をしてそうだな。
早く誤解を解かないと。
「そんなのダメに決まってる!」
「ぐえ、友4さん首が極まってるから放して! 話を聞いてよ! 普通にやろうとしたらって言ったでしょ。ちゃんと対策取るから」
誤解を解こうと思ったら後ろから抱き着いている友4さんがチョークスリーパーみたいな形で締めて来た。偶然だと思うけれど酷いや。
「僕一人で戦ったら傷だらけになっちゃうけれど、今回はそうじゃない」
あの場には、頼れる仲間達がいるんだ。
「皆の力を借りれば間違いなく無傷に近い状態で終わるよ」
だってボクがいなくても真っ向から戦えているのだから。
それだけの実力がある彼らと協力すればなんだって出来る気がする。
「心配なのはむしろボクがアレを成功させられるかってことだよ」
ボクがやろうとしていることは、これまで一度もやったことが無いことだ。
難易度は非常に高く、成功する可能性はあまり高くないと思う。
「救様なら大丈夫です」
「そうだな。心配する必要性が感じられない」
「友2さん……友3さん……」
そうやって信頼を真正面からぶつけられるとプレッシャーだなぁ。
でもその期待には絶対に応えたい。
「救様、本当に傷つかないで帰って来てくれる?」
「うん」
「なら絶対に成功させて帰って来てね」
「ぷぎゃあ、ハードル一気に上がってるよ」
「くすくす」
友1さんが体を離してくれた。
「友4さんも、お願い」
渋々という感じだったけれど、ボクの体を解放してくれた。
「ごめんね、ボクが何もやらなくて良いようにって皆がこっそりお膳立てしてくれたのに」
「救様気付いてたの?」
「ボクは鈍感じゃあないからね」
京香さんも友達も必死に隠していたけれど、バレバレだった。
だってボクは探索者だから。
ダンジョンの魔物は探索者を欺き陥れ罠にかけようとして来る。その魔物達との戦いを幼い頃からずっと続けて来たんだ、怪しいことに関する嗅覚は人一倍優れていると胸を張って言えるよ。
ただ、人が相手だと隠し事を無理矢理暴くのは良くないと思うから、その嗅覚を意図的に封じてるんだ。だからボクは鈍いって思われていたのかもしれないね。
「行くならカメラさんを連れて行って」
「……う、うん」
友3さんからのお願いに対し、また仰々しいエフェクトで無駄に神々しくされちゃうと思うと即答出来なかった。
「わ、わ、カメラさん?」
「ふふ、カメラさんも喜んでるな」
カメラさんはボクの周りを嬉しそうに飛び回ってる。まさか本当に人格が生まれた……なんてまさかね。例えそうだとしても人じゃなくて犬って感じだから人格じゃなくて犬格って呼ぶべきなのかな。
「友1さん、これが終わったらみんなで美味しいご飯を食べに行きたいから、お店を準備してもらえる?」
「……うん、分かった!」
無事に戻って来るつもりだよ、という気持ちが伝わったのか、沈んでいた表情が少しだけ明るくなった。
「友3さん、今回は魔物の見た目がグロテスクだからカメラさんと協力して見せ方の調整をお願い」
「任された」
魔物がかなり気持ち悪い見た目をしていたので、配信するなら視聴者の皆がトラウマにならないように気を遣う必要がある。友3さんとカメラさんならきっと良い感じにやってくれるに違いない。
「友2さんと友4さんは一緒に行く?」
「良いの!?」
「ぐへへ……え!?」
二人は探索者であり、ボクのギルドのメンバーだ。
戦闘能力的にはあの魔物と戦うことは出来ないけれど、後方で支援するくらいなら問題無い。それに現場では一人でも多くの人手が必要なはずで、特に友4さんの力は役に立つに違いない。
何故なら彼女はヒーラーで、この場所に結界を張ったのも彼女なんだ。魔物避け以外の結界も使えるし、回復魔法にも秀でているから、後方活動で役に立てるはず。
「それじゃあ行ってくるね」
「気を付けて」
「カメラさんを頼む」
さぁ、京香さんの後を追うぞ。
「救様ごめんなさい。やっぱり私達は置いて行って」
「むなしい」
「どうしたの?」
いきなり出鼻を挫かれちゃった。
「私達救様の移動スピードについていけないから……」
「それは大丈夫だよ」
ボクが運んであげるつもりだったから。
「分身!」
最近はご無沙汰だったボクの十八番スキル。
分身を使ってもう一人の自分を呼び出して、本体と分身体でそれぞれ友2さんと友4さんの後ろに立つ。
そして右手を背中に、左手を膝裏に持ち上げる。
「ひゃっ!」
「救くんちゃん!」
「急ぐからしっかり捕まっててね」
急ぐならこの抱え方が一番楽なんだ。
おんぶだと首に回した腕にかなり力を入れてもらわないと振りほどけて落ちちゃうからね。
「救様がこんなに近いなんて超幸せ!」
「私がお姫様抱っこしてもらえる日が来るなんて……」
友2さんは人生を楽しく生きたいのテーマ通りに超楽しそう。
友4さんはまた怖くなるかなと思ったら本気で感動しているっぽい。背がかなり高いから、こうやって抱きかかえられる経験って無いのかも。
「先に言っておくね。ごめんなさい」
「え?」
「え?」
感動しているところ悪いけれど、全力で走って行くつもりだ。
それがかなり怖いって京香さんに以前言われたことがある。
「ひやああああああああ!」
「ぎょええええええええ!」
慣れると風になった感じがして気持ち良いんだけどなぁ
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