第12話 明日はコロッケにしよう
ホダカが”ティナを「貰い受ける宣言」をしてから、数日が経った。この世界で挙式を行うことは一般的ではない。ホダカ達も挙式をしなかった。
だが、この日、ホダカとティナは、多くの新婚夫婦と同じように、甘い朝食のひと時を過ごしていた。
「はい、ホダカ。あーん」
「ありがと。ティナ。あーん。美味しいよ。ティナがちぎってくれるパンは」
「もう、ホダカったら」
朝からこの調子である。
それを見守るカロリーナとマーカスの微笑ましそうな視線をホダカは感じた。
それが、ここ数日の朝の情景だった。
「ティナ、今日もパン屋の手伝いを頼むぞ」
「えー。やだ。ホダカと一緒にいたーい」
「まあ、ティナったら。パパが困っちゃうじゃない」
ティナ達は楽しそうにそのようなやり取りをしている。結婚した次の日からもずっとティナはマーカスのパン屋の手伝いをしていた。
ティナは口では甘えたことを言うが、真面目な所があるため、家族を支えるということを疎かにしたりしなかった。なんだかんだで、きちんとマーカスの仕事を手伝っていた。
その仕事が終わるとすぐにホダカの部屋に飛び込んできて、おしゃべりをすることが、ここ数日のでティナの日課に成りつつあり、ホダカはそのペースになるべく合わせていた。
一方、ホダカは、味の研究に勤しんでいた。
ミリカが持ち込んだ試供品を再度自分の舌で確かめて、コロッケの材料の配分を考えていたのだ。ホダカはコロッケの試作も行いたかったが、試作とはいえ、「一番最初の揚げたてのコロッケをティナに食べさせてあげる」
と決めていた為、パン屋が休みで尚且つ、ティナも暇な時にコロッケを作ると決めていた。
そして、明日、パン屋が休みの日なのである。
「マーカスさん。明日はコロッケを作りたいので、ティナと一緒にいたいのですが」
ホダカはマーカスに言った。
ティナが横で聞いており、
「やったー。ついにコロッケができるのね。楽しみー。わーい。」
と言った。
「ははは、ついにコロッケができるのか。いいぞ。明日はパン屋も休みだから。僕もコロッケを食べたいな。」
「うふふ、明日はコロッケパーティだわね。ホダカ君。」
ホダカは家族にわざわざ「明日コロッケを作る宣言」をした。その理由は、何かの拍子で休日にも関わらず、ティナがパン屋の仕事に駆り出されてはいけないと思ったからである。
念のため、マーカスとカロリーナに了解を得ておこうと思い、コロッケを作る宣言をした。そんなホダカの思惑とは別に家族全員が嬉しそうでなによりである。
朝食後、ホダカはパントリーに肉を取りに行った。
肉はカロリーナの氷魔導の「レイカルン」でカチカチになっていた。
それを手に取り、キッチンにおくと、ホダカはティナが店の方に手伝いに行く前に明日に備えて肉の解凍をお願いした。
「カエナ」
小さな炎が氷をゆっくり溶かしていく。
ある程度溶けた段階で、カエンを止め自然解凍で溶かすことにした。
そして、万全の準備を整え、ホダカは明日のコロッケ作りに気合いを入れるのであった。ホダカは何かずっと忘れている気もしていたが……。
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