第9話 ニャンシン(変身)

「いってきまーす」

 そして、たーくんは家を出た。

「ニャー(いってらっしゃい)」

 私は鳴いた。今日からターくんは、小学生と呼ばれ、小学校と呼ばれるところへ歩むのだ。

「ナーナー(不安だ〜)」

 あのおっちょこちょいのターくんにもしものことがあったら…………。

「ニャーニャー(落ち着いていられない)」

 私がついて行ってあげたい。しかし、この身体ではターくんに追いつけない。歩くスピードが違いすぎる。

「ニャー(どうか、今日一日だけでいいから、人間になりたい)」

 その瞬間、光が満ちて、私はあっという間に人間へと変身していた。ふと辺りを見ると、やたらと体毛が濃い妖精さんがいて、

「今日一日だけの奇跡だぜ」

 と親指を立てて、ウインクしていた。

 「ありがと、ね」

 私は家を出て、ターくんの後を追った。

 人間としての歩き方に少々戸惑ったが、慣れた。

「ターくんを陰ながら守るのだ!!!」

 そして、後を追った。


 人間になった私は、早速ターくんの匂いを辿る。人間になっても、猫としての機能は変化していない。とにかく、ターくんの匂いを追った。

 そして、ターくんが一人で歩いているところまで追いついた。後は、陰ながら守るのだ。

「…………(じー)」

 ターくんは私の視線に気が付かずに、

「今日から、僕は、ピカピカの、小学生〜」

 素っ頓狂な歌を歌いながら、歩いている。

 その歌は昨夜から歌い始めていた。

「…………(ターくん、大丈夫よ。そのまま行こうね)」

 そのとき、背後から、

「お姉さん、キレイだね〜。俺らとお茶しない?」

 と人間の雄二人が話しかけてきたから、

「あぁん? 今、取り組んでいるんですけど? 邪魔なんですけど? 時間ないんですけど? 鬱陶しいのですけど? 早くどいてほしいのですけど?」

 と威圧した。髪が逆立つほどの怒りを見せた。

「ご、ごめんなさい」

「す、すみません」

 と、大人しく引いてくれた。

「こんなところ、ターくんに見られたら、

恥ずかしい」

 そう思い、振り返ると。

「……」

 ターくんがいた。

「……(や、やばい)」

「……お姉さん」

 ターくんは、こう言った。


「お姉さん、かっこいいね」

 ターくんは目をキラキラと輝かせたような表情だった。

「そ、そうかな?」

「そうだよ、すごいよ」

 正体バレなくて良かったー、と私は一息ついた。

「お姉さんはどこに向かっているの?」

「え、えっと、ちょっと先だよ、先」

「ふーん、なら、一緒に行こう!!」

「お、おう」

 私たちは歩き出した。

「そういえば、お姉さんの首についているの」

「こ、このチョーカー(首輪)のことか?」

「そうそう、チョーカー。うちの猫の首輪のと似ている!!」

「そ、そうか(首輪がチョーカーに変わっているとは思わないもんな)」

「うちの猫はね、可愛んだよ。お利口さんだし、こっちの言いたいことをすぐ理解してくれる。えらい子なんだよ」

「そ、そうなんだ(えへへ)」

 私とターくんは無事に小学校に着いた。

「それじゃあ、お姉さん。バイバイ」

「ああ、バイバイ」

 小学校の敷地内にターくんが入ったのを確認すると、私の目線はいつもの目線の高さになった。変身が解けて、元に戻ったのだ。


「ただいま〜」

「ニャァー(おかえり)」

「今日は初登校だったんだよ。そのときね、素敵なお姉さんがいたんだよ。なんとなく、ミーに似ている気がする」

「ナ゙アー(それ、は……)」

 ターくんは、私を抱き上げる。私はなされるままになっている。

「ミーにも見せてあげたかったな。あのお姉さん」

 ターくんは私を撫でながら、言った。

 そして、その夜。

 私はあの妖精と話をしていた。

「もう、あの姿になることはないのかい?」

「変身は一度きりさ」

「そうかい」

「ただ、君が化け猫になったなら、自分の意志で変身できるようになれるさ」

「化け、猫?」

「そのためには、しっかり長生きしないといかん。わかったな?」

「わかった」

 そして、私は長く生きて、生きて、生きて、化け猫になり、自由に変身することができるようになった。

 そして、その頃には、ターくんは中学生になっていた。

 もう、守らなくても良いのだ。結局、変身する必要はなくなり、私は悠々自適な猫ライフを最後まで、ターくんに見守られながら、過ごすことができた。

 それは、とても温かな気持ちを感じ続けた猫生でした。


 

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