1‐17
マルザの森に巣食った族が少年と少女の小さなギルドによって討伐されてから数日後。
その現場である森には、ライナー率いるグシオン・ギルドの精鋭達が集結していた。
その数は凡そ五十名。彼等は皆、ライナーと共にミリオーラにグシオンの名を轟かせるためにやってきた新鋭達だ。
「ライナー隊長。全部隊整いました」
「そうであるか。駆動鎧はどうなっている」
「あちらに」
ライナーの傍に立つ副官が、素早く答える。
彼が視線で指した先には、人型の巨大な鎧が一体、鎮座していた。
魔導式駆動鎧。アルテウル魔法文明が誇る兵器の一つであり、次世代にて英雄をも超えると目される切り札でもある。
内部に人間が入り込むその巨大な鎧は、魔力によって強化されてた並の攻撃を受け付けない装甲、纏った者の身体能力を強化し、見た目に違わぬ素早い動きを可能とする。
巨大な槍を構えたその姿は、人間よりも一回り大きく、まさに鉄巨人とでも表現するのが相応しい威容を誇っている。
「あの中には今回同行しているギルドの戦士達の中でも、指折りの猛者が乗り込んでいる。加えてこれだけの数と武器を用意したのだ、魔獣如きに遅れはとるまい」
ライナーが用意したのは魔法を操る者達で構成された魔法兵、加えて未だに少数しか配備されていない最新兵器である魔導銃隊、歩兵達ですらも最新の装備に身を包み、要である駆動鎧との連携を取りやすいように編成してある。
「同胞の命を奪い、民を恐れさせる魔獣……! グシオンの、この私ライナーの名に駆けて必ずや奴を仕留めて見せよう!」
一人で盛り上がって、剣を抜いて天に掲げるライナー。
ギルドの面々はそんな彼の奇行を一瞥するが、特別意見を差し挟むことはない。ライナーと言う男が腕は立つし悪人ではないが、時折そうやって一人で暴走してしまうことはミリオーラ支部に来た者達にはよく知られていた。
とは言え、彼等もまたライナーと同様に確信していることがある。
古の魔導兵器であり、魔王戦役でも解き放たれ大きな災害となった魔獣と言えど、これだけの戦力を持ってすれば恐れるに足らずと。
それだけの自負と、信頼が彼等にはあった。それはこのアルテウルにて新鋭として名を轟かせる、グシオンの一員であるという矜持でもある。
「して、魔獣を解き放った連中の正体はわかっているのか?」
「はっ。街の者達から聞いた噂と、こちらで独自に派遣した調査隊の報告によれば、奴等はエルフを中心とした亜人種達の混合部隊だそうです」
「亜人種か……。確かに、あの時ヤルマ殿の屋敷で襲ってきた者達も、そうであったな」
「ええ、恐らくは魔王戦役にて被害にあった者達かと」
言い辛そうに、副官が付け加えた。
「被害か……。確かに魔王戦役にて彼等は言葉巧みに騙され、人間達に敵対した。だが、それでも人間は彼等を許したのだ。そこに恭順せずに敵対を続ける者達に慈悲はない!」
「……で、ありますな」
副官が少しばかり不満そうにそう言ったが、ライナーが気付くことはなかった。
問題は彼が言うほどに、簡単なものではない。
魔王戦役を終えての亜人種達の扱いは、許されこそしたものの決して平等と呼べるものではなかった。
それ故に、怨みの感情を持つ者も数多い。しかし、同時にライナーの対応もまた正しいものではあった。
実際の問題として、彼等は秩序を乱し無関係の人々を巻き込もうとしているのだ。
それに対して果たして、情けを掛けられるものだろうか。
その答えを出せるものはこの場にはいない。だからこそ、ある意味では盲目的なライナーの対応は正しいものではある。
「では行くぞ! 全軍、進めぇ!」
足音を立てて、グシオンの戦士達は森の中へと入り込んでいく。
既に彼等の居場所はある程度の辺りは付けてある。
これはそこに隠れ住み、人間達への復讐を誓う亜人達にとって死神の足音となるのか、それとも――。
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