密室の中のゾンビ 後半


「違うぜマイケル。このゾンビが立て篭もった本人だ。立て篭もった時点じゃ、まだ人間だったんだろ。ゾンビにバリケードは作れねぇからな。その後、中でゾンビになっちまったんだ。ちょっと噛まれたのが、あとから効いてきた……とかでな」

「だとしたら妙だ。このゾンビの口周り、血でベッタリだ。立て篭もった後でゾンビになったんなら、一体、こいつは誰を食ったって言うんだろうな?」

「…………確かに、妙だな」

「だろう?」

「こいつに食われた奴がいるんなら、死体がその辺に食い散らかされてるはずだが、そんなのどこにも無ぇ。部屋は綺麗なもんだ」と、スティーブは改めて部屋を見渡す。

「あぁ、クローゼットからベッドの下まで見たが、骨一本、血の一滴も見つからない」

 

 不思議に思いつつも、考えても仕方がないので、俺たちは部屋を後にした。念のため、生存者や他のゾンビはいないか、民家の中を見て回った。すると、キッチンで〝あるモノ〟を見つける。そうか、さっきのゾンビは、そういうことだったのか。

「Hey,スティーブ。こいつを見てみろよ」

「どうした、マイケル」

 俺はキッチンの片隅に置いてあったゴミ袋を指さす。スティーブが中を覗き込むと「……ジーザス、そういう事かよ」と舌打ちした。

 

 中には、人骨が詰められていた。

 

「……もちろん、ゾンビはこんなお行儀のいいことしねぇよな」と、スティーブ。

「あぁ」

 つまり、人間を食うのは、何もゾンビだけじゃなかったって事だ。ガスも水道も電気も、あらゆるインフラが停滞したこの世の中だ。ゾンビがうようよいる中、食料の調達にいくのも命懸けだ。陸の孤島と化した家や建物も珍しくなかった。そもそも、新鮮な食糧自体がどこにも残ってないのだ。

 そうなった時、人はどういう選択肢を迫られるのか?

 ありがちと言えば、ありがちな話だ。

 俺とスティーブは、人骨に向けて十字を切り、民家を後にした。

「Hey,スティーブ」

「どうした? マイケル」

「お前、そんな信心深い奴だったか?」

「あぁ……そういや、そうだな」だが、とスティーブは続ける。「最近じゃ十字を切って祈るやつを、よく見かけるようになったぜ」

「……こんな世の中だからな」

 俺は貴重な煙草に火をつけ、雲一つない青空に向けて白い煙をはいた。

 だが、こんな世の中も悪くねぇって思えることもある。

 それは、どこでも自由に喫煙できるようになったことだ。

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密室の中のゾンビ 方丈 海 @HOJO_Kai

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