10.

「う……」


ミシェが目を覚ますと、岩に背を預けボーっと青空を見上げているアクトが目に入った。

アクトが視線に気づくと、近くに寄る。


「良かった、目が覚めた。 どっか痛いところとか無いか? 応急処置は一応したけど……。」


ミシェが身体を見ると腕や足に包帯が巻かれているのが確認できた。

帽子を直しながら起き上がると、ハッと現状を思い出す。


「ありがと……じゃなくて! 黒帝竜は?!暗雲が無いってことはこの場にいないんだろうけど……」


ミシェが既に晴天となっている空を見上げる。

曰く、暗雲は黒帝竜が現れる前兆のようなものだそうだ。


「えっと、オレも良くわかんねぇけど……逃げていったのかな?」

「逃げていった?! そんな訳ないでしょ、アレは周囲の物を破壊し尽くすまで暴れる暴竜よ?!」

「そんな事オレに言われてもよ……。」


ひとまず、という形でアクトは経緯を話す事にした。


夢の通りに黒帝竜に殺されそうになった事。

謎の青年が現れて、助けてくれた事。

黒帝竜が逃げた事。

黒帝竜に大打撃を与えたのは、鈍色のナイフだということ。


唯一の証拠品であるナイフを見るミシェは怪訝な顔をする。

臙脂色の柄と装飾が特徴的だが、それ以外は刃こぼれして鈍色に輝く刃なだけのナイフとしては欠陥品である。


「何この刃こぼれしてるボロっちいナイフ。 こんなので何ができるのよ。」

「だからオレも何が何やらさっぱりなんだよ…。」


このナイフ一本でどうにかできたとは思えないのは、アクトも共通見解だ。

だが、このナイフでミシェのあの槍でも殆ど歯が立たなかったドラゴンに効いていたのは間違いない……筈である。

謎の青年や時が止まったような妙な感覚、と色々な事がありすぎて何が要因かの確信は無いが。


「そうだ、これ。」


アクトは思い出したように、ポケットから粉々になった指輪の欠片と虹色の宝石を差し出す。

ミシェの使っていた、槍の魔法道具だったものだ。


「…そう、壊れちゃったのね。」

「悪かったな。 オレを庇ったりしたせいで…」

「いいのよ、元々壊れかけてたものを酷使してただけだし。 気にしないで頂戴」

「そうもいかねぇだろ! なかなかの業物だろ、少し見ただけでも分かるぜ。 それに、見た感じ魔核<コア>には傷は無いし、オレ直せるヤツ知ってるから、今度紹介するよ」

「もー、気にしないでって言ってるのに。」

櫃魔アークも特殊な材料だな…。 だけど分析できれば材料を特定して直す事はできると思うから任せてくれ!」

「だから、ホントに大丈夫だって…」


暫く同じような問答をした後、

ミシェはその魔法道具の魔核である虹色の宝石と、砕けた魔櫃を小瓶の中に大事そうに仕舞ったのだった。

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