/// 8.ラビさんとデート
アンジェは朝から浮かれていた。今日はラビさんとデート。昨日の約束通り、ショッピングからの焼肉パーティエンド!そんな一日を思いニッコニコのアンジェ。
朝早くから食堂に降りてまずは腹ごしらえ。お腹を満たすとラビさんと一緒におすすめのブティックまでの道のりを歩く。もちろんラビさんにくっついてその頼もしい背中しか見ていない。朝のにぎやかな時間帯に周りを見るのは自殺行為なのだ。無事店内へ入ると、かわいい服や小物を見て回る。いくら冒険者とは言え、軽鎧の下にはかわいい服を着ていたい。それがたとえすぐに魔物の血でけがされるとしてもだ。
気に入った服をいくつか購入した後は、ラビさんおすすめの喫茶店でおしゃれなパスタとケーキをいただく。お腹を満たして楽しいおしゃべりタイムを終えた二人は、いよいよ夜のパーティのためにと、野菜などを買いに食料市場へと歩いて行った。人通りの多い商店街を歩いていると、途中でおいしそうな串焼きの屋台があったので、この世界で初めての買い食いを体験。塩とたれの日本を器用に片手で持つと交互に食べ進めていく。おいしい。口の中の幸せをかみしめていると不意に後ろから裾を引かれ、「ひっ」と悲鳴が漏れる。
アンジェは恐る恐る後ろを振り向くと、そこにはアンジェの裾をがっちりつかむ、小さな男の子がこちらを見ていた。その視線に耐えられなくて赤くなった顔をうつむかせてラビさんの後ろにかくれる。裾をつかんでいた手が引っぱられ、今度はその男の子の方が「あっ」と声を上げる。
「あら。あなたは・・・孤児院の子かしら?」
その男の子にしゃがんで声をかけるラビさん。そしてその子の目線がまだ口をつけられていない手に持った串焼きに注がれているのに気づくと、流れるような動作で差し出される串焼き。男の子は恐る恐る差し出された串を受け取るとその場で食べ始めた。その子を見つめるラビさんの目はとてもやさしかった。そんな光景に(ラビさんマジ天使!)と思ったアンジェだったが、男の子が食べ終わり、指についたタレをなめながら聞いた話に、二人ともなんとも言えない気持ちになった。
この世界では、親のいない子供たちのために一応は地元の領主様と教会からの寄付によって、孤児院が開かれなんとか生活をしている。ところがこのイーストを収める、カサネガ・サーネという男爵位にある貴族からは本当に最低限しかお金が下りてこないのだとか。協会に至ってはほとんど雀の涙ほどの施ししかないという。現在このイーストにはいくつか孤児院があるが、その内の一番ギルドに近い『大樹の家』というところの子供たったとのことで、院長、副院長と10名の子供がひっそりと生活しているという話。
その男の子はアデルといって、みんながお昼寝をしている間に抜け出して食べ物を恵んでもらおうと、ここらをウロウロとしていたようで、普段食べれないお肉を見ていたらつい、アンジェの裾をつかんでいたということを半泣きしながら話してくれた。ギルドでもそういった話は聞いてはいるが、やはりギルドとしては色々なシガラミがあって動けないということだ。そんな貧困生活を聞いて、裕福な日本に生まれた前世を持つアンジェは居ても立っても居られない気持ちになってしまった。
ラビさんに様子を見に行きたいと提案すると、やさしく頭を撫でてくれてそのまま3人でその孤児院、大樹の家へと歩いて行った。
街から離れしばらく歩いていると、そのお目当ての場所と思われる、見た目はみずほらしいが広さだけは大きい木造の家と、周りには畑が少し広がっていたのが見える。畑では野菜を収穫している男性と、3人ほどの子供たちが収穫物を運んでいるようだった。そしてアデルはその男性の元に走り出した。
「あっアデル!どうした?ん?お客さん?」
その男性がこちらをみて軽く会釈する。
「突然すみません。私はラビといいます。ギルドに勤務しています。あと、この子はアンジェリカ。冒険者をしています」
「ああ、どうも。私はデニイロです。ここの副院長をしています。ギルドの方がなぜ?アデルが・・・何かやらかしてしまったでしょうか・・・」
ラビさんの挨拶に不安そうにこちらをうかがうデニイロという青年に、いえいえと手を振って否定するラビさん。
「実はさっきアデルくんと街で会いまして。ここの状況を少しうかがったんですが、経済状況とかが・・・ちょっと気になってしまいまして余計なお世話でしょうが様子をみたいと・・・」
「そうでしたか・・・恥ずかしながらここはあまり満足な暮らしをさせてあげることはできない状況です。私が土系の魔術がかろうじて使えますので、土壌改良などで野菜についてはそれなりに育ててはいるのですが・・・何分私一人の力では作れる範囲も限られていますから・・・」
ラビさんの言葉でおおよそのことを察して、現状をため息交じりに説明するデニイロ。
「そうだったのですね・・・」
「あっ院長は鑑定持ちなので、ギルドに見せるほどではないドロップ品の鑑定を安く受けていますので、その分でたまにお肉なども買っているんですけどね。そんなに頻繁にはない事ですし、他に日用品なども買わなくてはいけないので。難しいもんですね・・・」
そいうとデニイロは頬をかきながら小さく笑う。
「デニイロ兄ちゃんは悪くねーぞ!」
「こらっ!エドッ!・・・すみません。エドワードは気が強くて・・・」
ラビさんの前に立ち文句を言って怒られた小さな男の子は、どうやらエドワードというらしい。
「そうね。デニイロさんはここを守っている素敵なお兄さんなのね」
そう言ってラビさんがエドくんの前にしゃがむと、エドくんは照れているのかデニイロさんの後ろに隠れてこちらを覗いていた。まあラビさんは天使だからしょうがない。その様子を見てそばにいた男の子が「セザイルです」と挨拶をする。続いて女の子も「マリーネでーす」と可愛くクルリと回ってみせる。
デニイロに「一旦中に入りましょう」と促され、中に入る。そこには子供たちが何人かおり、洗い物をしている女性が振り向いてこちらへやってきた。
「あら、お客様?すみませんこんな格好で。院長のさゆりと言います」
そういうとその女性が割烹着のような服の前で手をふく。黒髪で黒目、そしてそのさゆりという名前にその恰好・・・日本人???戸惑っていると、ラビさんが耳元で「彼女も転移者さんです」と教えてくれた。
「あらあら・・・えーと、あなたも転生者さん?初めまして。天草さゆりといいます。日本からきました。ジャパーン!わかるかしら?ふふふふ」
「あ・・・あの・・・私も、安藤・・・里香・・・」
「あらあらまあー。同郷の方だったのね。でもここではアンジェリカちゃんっていうのね。うんうん。色々お話ききたいわー。今日来たのはそういった話になるのかしら・・・」
(ううう・・・思わず本名名乗っちゃった・・・余計はずかしいよぉ・・・)
さゆりとの会話でつい日本の頃の名前を名乗ってしまったアンジェは、今の自分の姿を思い出しなお恥ずかしくなる。
「あの、実は先ほどアデルくんからここの現状を聞いて、ギルドとしても手助けはしたいのですが、色々あって難しい部分があって。でもアンジェちゃんがやっぱり様子を見たいというので一緒にお邪魔しにきちゃいました」
そうラビさんが説明するので、アンジェもコクコクと頷きながらテーブルの上に次元収納からトレーに乗ったワイルドボアの肉の塊を5つ出してみる。
「あらあらあら~~」
「うあーすげー!」
「おにくぅ~~」
「わ~ぃ」
目の前にはデカイワイルドボアのお肉が5体分がドーンと並んでいる光景に、さゆりさんの声を皮切りに子供たちの歓声が続く。
「いいんですかこんなに?確かにうちは最低限の野菜はあるのですが、お肉類は中々買うのは難しくて・・・でも何もお返しするものもないんですよー?」
「ふふふ。アンジェちゃんね、これでも凄腕の冒険者なんですよ!これも昨日一日で狩ったお肉の一部なのよ。もらってくれると嬉しいと思うわよ。ねっ、アンジェちゃん!」
私の行動にその気持ちまで読み取って代弁してくれるラビさんの言葉に、もちろんコクコクと頷く。そしてさゆりさんとデニイロ、子供たちの視線が集まるとまた赤面してラビさんの後ろに隠れてしまう。
「じゃあお言葉に甘えていただきますね。ありがとうアンジェちゃん」
「「「ありがとうアンジェお姉ちゃん!」」」
口々にお礼を言われる中、恥ずかしくも幸せな気持ちを感じるアンジェ。
「また来ますから」と約束を取り付けて孤児院を後にした。それからは当初の予定通り野菜などを購入して部屋に戻る二人。まだまだ今日は終わらない。二人には手狭(てぜま)な台所で和気あいあいと準備をする。そして始まるイチャイチャしながらの焼肉パーティは大成功!自分で狩ったボアの肉はひときわおいしかった。もちろん目の前にはラビさんが居る。それが一番幸せだった。幸せの中でボア肉いっぱい狩って少しでも助けになれば!と内なる熱意を胸にこぶしを握り締めるアンジェだった。
◆神界
「ないわーーーラビとアンジェのラブラブデートがスクショ埋められないとか・・・ないわーー」
女神はいじけていた。今日はデートと言うことで楽しみにしていたのだが、今日は下界の魔素の流れはちょっとおかしいとの報告に、色々と確認事項やら修正点などもあって全然こちらへ戻ることができなかったのだ。そしてやっと自室空間に戻った時にはデートも終わりの帰宅中という時だった。
「何たるブラック!働き方改革せねば!」
いや時間は午前4時とそれほどブラックじゃないのだが・・・しかしそんな不機嫌な時間はすぐに終わりをむかえる。
「はうっ!見つめ合っての『あーん』きたーーー!これあれじゃね!イベントシーンゲットきたこれっ!ちょっとなんかあれだー卑猥じゃね!恋人同士かよっ!お互いめっちゃ好きすぎやろーーー!めっちゃ好きやろぉーーー!!!」
不機嫌も一気に治り、さらには何か口調がおかしくなっている変態駄女神。やはり働きすぎは危険だ。非効率である。害悪以外のなにものでもない!女神すらも飢えた野獣に返ることもありうるのだ!ストップ長時間労働!働き方改革に終わりはないのだ!頑張れ女神!この世のすべてのブラックを白く塗りつぶすその日まで!!!
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