/// 5.ダンジョンに潜ってみよう!

昨日は初任務を無事終え、夜はまったりとラビさんと過ごした。


寝る前に「明日はどうしようかな?」と思っていたら、「依頼ではなくてダンジョンも覗いてみたらどう?」というラビさんの提案に従ってみることにした。肉体強化がパッシブになった今、私でも地下10階ぐらいまでの低階層であればまず逃げられないということはないらしい。それも当然だ。低階層はレベル1~2の初心者が狩場にしているため、加護持ちでステータスにSがある特異な冒険者には役不足な階層だという。とは言えソロで潜る場合には罠なんかには注意と言われたので、ショップで罠感知の指輪というものを購入することを約束して、その日は就寝した。


朝起きてラビさんと一緒に食堂で食事をとる。ラビさんの背後にぴったりとくっついて、周りの人たちを見ないように歩くことにすっかり慣れた私は(本当はなれちゃダメな奴だ・・・)とは思いつつも、ラビさんの頼もしくも温かい背中を見つめながら気配を消しつつ食堂までたどり着くと、昨日のランチの時のようにラビさんの前に座って食事を楽しむ。楽しい朝食タイムはすぐに終わり、「いってくるわね」というラビさんを食堂で見送ると、そのまま気配を消すようにギルドから出てダンジョンへ向かった。


なるべく気配を殺して塀門までの街並みを抜けると、周りに気づかれていないからか視線が投げかけられないため、あまり恥ずかしいと感じなかった。「よし!この動きで常時移動したら問題なく生活できそうだ!」とバカな考えを巡らせている間に、塀門を抜け北東にあるダンジョンへ向かう。ダンジョンの入り口には受付のような施設が立てられ、武装した兵士が数人常駐しているようだった。もちろん気づかれないように気配を殺して中に入る。そこにはコンクリートのようなブロックで加工されていた人工的な広間ができており、かなりの人数の冒険者パーティが下へ潜る準備をしているようだった。ここで商売をしている人たちもいるようで露店のようなものが並んでおり、結構な賑わいを見せていた。


所々ある柱を使ってなるべく周りの人の視界に入らないように移動していくが、さすがに人数が多いのでチラチラとみられてしまう・・・ううう・・・段々と恥ずかしさがこみあげてきて唸りつつ、下へと続く奥の海岸まで移動した。階段を降りると広い通路が長く続いており、両脇にはそれよりは少し狭い通路、といっても幅は5メートルほどだろう。ちらほらと他のパーティーがスライムやゴブリンなどといった魔物と戦っている。そしてそこもスルーして、広い中央の通路を一番奥まで行くと、さらに下に降りて行った。


その調子で地下5階まで下りていく。作りはそんなに変わらず、魔物も同じスライムとゴブリンだけのようだった。降りるにしたがって各通路で頑張っていたパーティもまばらになり、通路から出てくる魔物も多くいたが、周りの視線を気にしてそのままスルーで走り抜けた。そしてこの階で少しだけ様子がかわった。まずは一本道ではなく、5~6メートルほどの幅の通路が入り組んでいた。分かれ道も多数あるが、2方、3方に分岐してはすぐ先にはつながっているような単純なつくりではあるが、今前の階よりは全体像が広く感じてしまう。そしてここにきて初めてコボルトという犬顔の魔物も登場して、犬好きの私は少し微妙な顔をしてしまった。


「犬はかわいいけど犬顔の人?魔物?ってなんか気持ちわるいな・・・」


そんなことを言いながら、やっと周りのパーティーをすぐには見かけなくなるぐらいには疎らになったので、少し落ち着いて初の戦闘をしようと、遠くに見えるそのコボルトに向かって身構えながら走り出す。


「とりあえず10階ぐらいまでなら余裕と言っていたから・・・ここで初戦闘しちゃってもいいよね!」


昨晩残った金貨一枚で震えながら恥ずかしさをこらえて購入した、ダガーを構え走る。他に装備として身に着けているのは、胸元だけを守る銀の軽鎧とダガーをつける腰のベルト。左手中指にはまず先にと言われていた罠感知の指輪をしている。罠が近くなると赤く光るそうなので一応気にしながらここまで下りてきた。そして、標的の単体のコボルトがあと数メートルとなった時にその指輪が赤く光ったため立ち止まる。コボルトもこちらへ向かって走ってきていたのだが同じくそこで立ち止まっていた。罠の場所がわかってる感じ?そんなことも思いながら周りを見ると、床の一部に四角い切れ目があるところが何か所かあった。それを踏むと発動するのかな?と思い位置を把握してから攻撃を仕掛けようと走り出した。


立ち止まったままのコボルトが、持っていたさびれた剣を振るのでかわして横なぎにすると次の瞬間、その首から上は飛んで転がり、胴はそのまま崩れ落ちた。魔物が死亡して放置しておくとダンジョン内に取り込まれていくので、そうなる前に素材として取れる部分を切り取っていく。もちろん周りの警戒も忘れない。基本的に牙であったり爪であったりが定番なのだが、コボルトについては内臓系もそれなりに売れるのだという。でもそれはあまり価値がないため、魔法袋や次元収納といった多くのものを入れておくことができるものでなければ捨て置くところらしい。なので一番価値のある犬歯を切り取ると道具袋に入れる。初めての魔物素材の収集に冷や汗が止まらない。


「うう・・・なんか気持ち悪いな・・・この2本の犬歯で銅貨1枚・・・100円か・・・50匹ぐらい集めないと生活ギリギリだね・・・」


その忍耐が必要な作業に、やっぱり早くレベルを上げて単価上げなきゃ!と改めて思う。前世で読んでいた異世界転生物で、毛皮をはぎ取って高く買い取り!なんてもの見たけどこの世界ではコボルト程度の毛皮だときれいにはぎ取ったとしても銅貨1、2枚・・・魔石もあるけど奥の方も切り裂いて探さなきゃならないしこれまた安い買取額で・・・手間を考えたら厳しすぎるよね。考えてみたら上の階層で戦っているパーティはもっと単価の安いスライムやゴブリンの素材を狩って生活しているのだと思うと、まだ恵まれているなと感じた。スライムの魔石10個で10円・・・ゴブリンの牙2本で10円・・・つらいね。とそう一人つぶやいていた。


アンジェはそんなことを思っていたが、実際、スライムは倒すと魔石しか残らないから回収も早く数を狩れるし、ゴブリンは牙の他に睾丸が精力剤の原材料に、腰に巻いている意外に綺麗な布も雑巾代わりと、微々たるものではあるが買い取られるため、多少は違がっていた。が、どちらにしても稼ぐというよりはレベル上げのための作業、といった方が良いかもしれない。この世界は加護なしが普通であり、地道なレベル上げが必要なのだ。そんな現実をよそに、アンジェは適度に魔物を探しては的確に首を落としていった。


「ふう・・・慣れってこわいな。最初はドキドキしながら戦ったり牙をえぐりとってたけど・・・段々とただの作業になっていく。固まったゴブリンやスライムの中に突っ込んでいってもバシバシ切り裂いけてるし・・・」


そんなことを言いながら、狩り取ったゴブリンは無視してスライムの魔石、コボルトの犬歯のみ回収する。狩りながら進み、階段を見つけては下に降りていき、気づけば10階まで下りてきた。感覚としてはコボルトの出現が多くなってきたかな。というところだった。ここまで全く危なげなく進んでいるのだが、一番の敵はやはり他の冒険者パーティだった。遭遇するたびに「ひっ!」と声を上げて高速バックステップで見えない位置へ隠れ潜み、気持ちを落ち着かせた後で別の道を進むアンジェ。だが、むしろ恐怖を感じているのは、突然遭遇しては瞬(まばた)きしている間に視界から消える美少女を、たびたび目撃している冒険者パーティ達の方なのだが・・・そんなことになっているとはつゆ知らず、アンジェは突き進んでいた。


地下10階をぐるぐる回りながら狩り続けていたアンジェも、それなりに膨れた素材を入れた袋を眺め「ふう」と一息つく。かなりの時間狩り続けたため、そろそろ戻ることにした。本当は目の前にある大きな扉を開けてボス戦に挑みたいところではあるが、事前に何も調べてこなかったため念のためではあるが今日のところは断念したのだ。本当はコボルトナイトというちょっと大きめなコボルトがそれなりの大剣を携えて3匹出てくるので、勝てないことはないのだが・・・知らないのだからしょうがない。帰り道にも多少の魔物を狩りながら進む。5階を過ぎたところから人が増え始めたため一気に走り抜け、そのままギルドまで直帰した。


ギルドの受付を見ると何人かの受付がいたが、ラビさんの姿はなかったが、階段下の広間のベンチに腰掛けているラビさんを発見したのですぐ駆け寄りたいのを我慢してゆっくりと近づいていく。急に近づいたらまたびっくりさせちゃうと思ったからだ。恥ずかしくて顔が赤くなってしまうがなるべく視線を気にしないようにして早歩きのようにちかづくと、すぐに立ち上がって「アンジェちゃんお帰り」と抱きしめられた。抜群の安定感!モフモフ最高です。と癒されながらも今日の成果を見せる。袋にぱんぱんに詰まった素材を確認すると、「頑張ったね」と言ってなでてくれた。今なら借金してまでホスト通いしてしまうという女性たちの気持ちがわかる!と思って住まうアンジェだった。


それから、ラビさんに手を引かれながらカウンターのリベリアの元へ行って素材を渡す。しばらくカウンターの前でラビさんの腕に絡みつきながらイチャイチャする私。こうしてればすべてを忘れられそうだ。ラビさんは嫌な顔一つしないで頭をポンポンしてくれ、「夕ご飯まだでしょう?一緒に食べようねー」とか言ってくれてている。もうラビさんに永久就職しようと考えている。


「仲いいよね~。計算終わったよ~」


そういうリベリアさんの方を見ると、カウンター上には金貨が3枚と銀貨が3枚が置いてあった。


「スライムの魔石は200個ちょっと。コボルトの犬歯は300セット超えてたんだけど・・・一日で狩ったんだよね?凄すぎじゃない?もう中堅冒険者の稼ぎじゃん・・・」


「ふふふ。うちのアンジェちゃんは優秀なのよー。アンジェちゃん無理しなかった?」


ラビさんは、リベリアさんの言葉に自慢げに返したあと、私を見て心配そうに言ったので「無理してないよ」と顔を上げ笑顔で伝えた。その後、楽しく夕食を食べると二階に上がって、二人でゆっくりとした夜を過ごした。それとレベルが上がってさらにはスキルも増えていたのに気づいたのは、お布団に入って眠る前にステータスを確認した時だった。ラビさんはいっぱいなでてくれた。甘やかされすぎてもうラビさんなしには生きていけない体にされてしまった私。この異世界でラビさんのために生きる!そう決めた夜でした。



◇◆◇ ステータス ◇◆◇

アンジェリカ 14才

レベル2 / 力 E / 体 S / 速 C / 知 C / 魔 F / 運 S

ジョブ 聖女

パッシブスキル 肉体強化 危険察知

アクティブスキル 隠密 次元収納

装備 ロングダガー 銀の軽鎧 罠感知の指輪

加護 女神ウィローズの加護



◆神界


「アンジェーー!すごいよアンジェ―――!犬っころの首がばしゅばしゅ落とされてきゅーーー!」


くねくね腰をくねらせる女神は、午前中仕事のために疲れた体を、地下10階をぐるぐる回りながら無双しているアンジェを見ながら絶叫していた。


「びゅふふふふ!もうパンパンね!パンパン道具袋ね!えーーーい!ふふふふふ!これでいっぱい持ち運べるわね!!!喜ぶ顔が目に浮かびゅぅ!!!」


今日のお仕事はもう終了となり下界の様子を眺めつづける女神も、ラビに包まれながら眠るアンジェを見て愚痴る。


「はぁーーー。ラビもアンジェ可愛がりまくってるわね。気持ちはわかるけど。うらやましい・・・一回ここに呼ぶ?神力全然たりないわ・・・なんとかならんもんかなーー!」


本来、貯まった神力は下界の様々な問題に使わねばならないのだが、どうも最近貯まりにくいという理由をつけて、下界の調整をないがしろにしつつある女神。当然のことながらそんなことは知らない従者たちは、「貯まりにくいのは我々が女神へのサポートをうまくできていないのではないか?」「我々に何かできることはないのだろうか?」そんなことを何時間も・・・それこそ女神がアンジェにむふむふしている間も延々と会議を続け、解決しない問題を議論し続けるのであった。


「あーーーーーー!私もアンジェを甘やかしたい!一緒に寝たい!匂いを嗅ぎたい!うずまりたい!!!」


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