第96話 怠惰の悪魔

 抱き寄せられたリリアンは思わず驚いて目を見開く。


「グレン様?」


「やっと見つけた…」


「???」


『黒魔女様から離れろ!!!!!』


 ステロンはグレンに向かって飛び込むとグレンは剣を使ってステロンを吹き飛ばす。グレンの表情は憎悪を表しているような表情をしており怒っているのがわかる。


「小賢しい悪魔だ」


「グレン様!!!!なんてことをするんですか!!!」


「あの悪魔は危険です!早く逃げましょう!!!」


「どういうことですか!」


「あいつは公女様を殺す気なんです!!!急いで逃げなければなりません!!!」


「ステロンはそんな酷い悪魔じゃないです!!!」


 リリアンはグレンを押し退こうと彼を押すが押し返せなくなっている。リリアンはグレンを見つめるといつもの様子とは違うような気がする。リリアンは静かにグレンを見つめると、リリアンは一言呟く。


「ごめんなさい」


「はい?」


 リリアンはイフを使ってグレンを焼く。その瞬間グレンの力が弱まり押し退くことができる。グレンから距離を取るとステロンのことを心配する。どこに行ってしまったのかがわからないが、まだ近くにいるのは気配でわかる。


「酷いじゃないか。突然人を燃やすなんて」


「あなたが悪魔だということは知っていました。グレン様…いいえ、傲慢の悪魔ルシファーさん」


 ルシファーは炎を消すと本来の悪魔の姿を晒す。ルシファーは静かにリリアンのことを見つめる。いつからバレていたのだろうとルシファーは思うが、それを聞いて余裕の無いかのように思われてしまうためルシファーはあえて聞かないことにする。


「自分が悪魔だと知っていたのに、あえて言わなかったのですか?」


「言ったところで、誰も信じてくれませんので」


 静かに言うリリアンの姿が過去の黒魔女と重なって見えるルシファーは、彼女こそ黒魔女の器だと確信する。彼女を手に入れる事ができれば、黒魔女を復活させる事ができると思うと、心躍る感覚がある。


「可愛そうな公女様だということ。同乗してしまいます、わたしなら、その思いにわかるというのに」


「あなたにはわかりませんよ、私を殺すことしか頭にないあなたにはね!」


 リリアンはイフとアルディンとウインを呼び出すとルシファーに攻撃するように命令を出す。ルシファーは魔法を展開すると強力なバリアを張る。三人の攻撃を防ぐと炎の竜巻によってルシファーを閉じ込める。


「こんな弱い力でわたしを止められると思っているのですか???」


 ルシファーは炎を吹き飛ばすとリリアンの姿が無いことに気づく。イフたちはその場に残り、ルシファーのことを止める。


「きみたちは、囮ということですか」


主人あるじ様のところには行かせない!!!」


「あなたは私達で止めます」


「ご主人様のために、あんたを止める!!!!!」


「小物のくせに…」


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


 リリアンは精霊たちにルシファーのことを任せて、ステロンの気配を追って走っていた。


「ステロン…!大丈夫かな??」


 リリアンはステロンの姿が見えて駆け寄るとステロンの体はボロボロになっており、動く様子がない。


「ステロンしっかりして!!!」


 ステロンを呼ぶがステロンは反応する様子もない。リリアンを守ろうとして飛び込んだが、いくらなんでも下級悪魔が上級悪魔に勝てるわけがない。あの時はルシファーが油断していてくれたため、目眩ましが役立ったがよく考えればわかることだ。


「ごめんね、ステロン」


 リリアンは泣きそうな顔になると背後で何かが飛んでくる衝撃で身構える。背後を見るとボロボロになり腕が変な方向に曲がっているイフが横たわっている。


「イフ!!!!」


「精霊って、こんなに弱いものでしたっけ???」


 イフをふっ飛ばしてきたルシファーはゆっくりとした歩みでやってくる。ウインを首を掴み、苦しくて藻掻くウインを木に叩きつけて戦闘不能にする。上級精霊がここまであっさりやられるとは思っていなかったリリアンは、憎しみを持った目でルシファーを睨みつける。


「おっと、怖い怖い。そんな目でわたしを見ないでください…思わず殺したくなる…!」


 ルシファーは嘲笑うかのようにリリアンを見つめており、リリアンはステロンを抱えて後ろに下がる。


「あなたの目的はなんなの?!貴族の虐殺?!」


「わたしの目的ですか???そんなの、我が主人である黒魔女様の復活です」


「その人は封印されているはずよ!!!」


「そうですね、封印されています。この国の皇宮の地下深くにある棺の中にね」


「皇宮…ですって?」


 リリアンは黒魔女がいる場所がこの国の皇宮だということは知らずにいた。彼がグレンになっていたのはこのことだと思うと、肝が冷える。


「お話は終わりです。一緒に来てもらいますよ、黒魔女の器!!」


 ルシファーはリリアンに手を伸ばすとその腕は簡単に切断される。突然のことにルシファーは今の状況に理解できずにいる。


「ふわぁぁぁ〜そういえば、おいら忘れていたよ〜。自分の存在」


 リリアンは自分の手の上にいたステロンがいなくなっている事に気づき、顔を上げると大きな鎌を持った黄緑色の髪を持った赤目の男が立っている。彼は鎌を持ち上げるとルシファーに向ける。


「そのまま寝ててほしかったな。怠惰の悪魔ステロンよ」


「あ!覚えていてくれたんだねルシちゃん!でも、おいらも任務があるからさ〜止めされてもらうよ!!!」

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