第95話 動き出した大魔王

 あの火災で死んだ時と同じ感覚に恐怖するリリアンは涙を浮かべる。


「黒魔女様!!!!目を閉じろ!!!!!」


 すぐ近くでステロンの声が響き、リリアンは目を閉じるとステロンは強烈な光を発生させて目眩ましを使う。


「くっ!!!!!小賢しいんだよ!!!!!」


 彼は強力な斬撃を繰り出すとリリアンの部屋を破壊しつく。その瞬間その場にいた使用人たちは斬撃を喰らい、肉片となっていく。

 目が開くようになり、彼は顔を上げるとバラバラになったメイドと先ほど殺した騎士のみでリリアンの姿がない。怪我をした様子もなく、彼は静かに舌打ちをする。取り逃がしたことに苛つきを見せると彼は黒い狼を召喚する。


「ステロンを探せ!!我らを裏切った、殺せ!!!ただし金髪の女は生かして捕らえよ」


『かしこまりました、御主人様』


 狼は瞬時に姿を消して彼も姿を消す。ハンスたちが到着したのはその出来事のしばらくした後だった。

 到着したハンスたちは目を背けたくなるような状況に嘘だと頭を抱える。今の状況に理解できないガクドは倒れているガレット卿を見つめる。放心状態のガクドとハンスは瞬時にリリアンの身の安否を気にする。


「「リリアン!!!」」


 二人は走って屋敷の中に入ると中にボーマンが倒れている。ハンスはボーマンを抱えるとすでに息絶えており、公爵邸の残酷さを物語る。


「一体誰がこんなことを…!!!!」


「公女様は??無事なのか?!」


 中に入ってきたアドラは二人に聞く。三人はリリアンの部屋に向かうとウルファは体を引きずらせながら行動しているのが見える。


「ウルファ!!!!」


 ウルファに近づく三人はウルファの姿に青ざめる。ウルファは下半身がなく、内蔵を引きずらせているのがわかる。


「ウルファ、お前…」


「お、お嬢様を…守ら、ないと」


「ウルファ、もういい。動くな」


 ハンスとガクドはウルファをひっくり返すと過呼吸状態のウルファの瞳から光がなくなりかけている。


「死ぬ前に答えろ、公女、リリアンはどこだ!!!」


 アドラはウルファに聞くと、ウルファは小さく答える。


「お嬢様は…ステロンと、一緒に」


「ステロンだと…?!」


「あいつと、どこかに…」


「あとはいい、我らに任せろ。そなたの思い、我が受け継ぐ」


 アドラはウルファを見つめながらいうとウルファは少しだけ笑顔になって息絶える。薄っすらと開いている瞳を閉じさせてアドラは自分の体を黒い炎で焼く。


「お前何して!!!」


 姿が変わったアドラは漆黒で羽先が焦げている翼を生み出し悪魔の姿に変わる。片目を眼帯で隠し、二人に目線を向ける。


「わしは、お前さんらの嫌いな魔族じゃ、悪いが今はわしのことを見逃してくれないかの?」


「お前なら、娘の居場所がわかるのか?」


「彼女は今ステロンと一緒にいるはずじゃ。あやつは怠けてるからのう、本来の自分を忘れているはずじゃ。力はわしらと変わらんじゃろう」


「我々も一緒に連れて行け!リリアンを迎えに行く!!」


「お前さんらなら、いいじゃろう。じゃが、こいつらをなんとかしなければのう〜」


 カルウェンはハンスとガクドの背後を見つめている。二人は振り返るとネルベレーテ騎士団と使用人たちが唸り声を上げながら近づいてくる。先程確認した時は確実に息絶えている状態でいたため、あり得ない状況にある。


「あいつら、さっきまで死んでいた!!!!」


「悪霊が中にはいったようじゃの。これができるのは…ルシファー、お主か!」


 カルウェンは睨みながら彼らを見つめる。カルウェンは魔法陣を展開して魔界から魔物を召喚する。


「中身だけ食え!!!」


 蝶の魔物は死人となった者たちだけにくっつき、悪霊だけを食べ尽くす。カルウェンは使用人を呼び出して彼らを抑えるように伝える。

 カルウェンとハンスとガクドは上空に飛び出してリリアンを探しに向かう。ステロンが向かいそうな場所、きっとあの大魔王ランウェルの場所だとカルウェンは思う。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 森の中を駆けるリリアンは息を切らしながら走り続けている。あの黒いローブを着た男にステロンは強烈な光を使って目眩ましにしたが、強靭な斬撃によりステロンとリリアンは森の中へ転送することにした。


「ステロン!本当にあの人追いかけて来てるの?!」


『来てるぜ、あいつの使い魔が!』


 リリアンは後ろを振り返っても姿が無いため実感がわかない。しかしステロンがここまで焦っている様子を見ると追いかけられているのは本当なのだと感じる。


『急げ!!!この先にあいつがいるはずだ!!!』


「あいつって誰なの?!」


『会えばわかるはずだ!!!!』


 ステロンは高速で飛び、リリアンの道案内をする。ヒールで走るリリアンは木の根に足を引っ掛けてしまいそのまま倒れ込んでしまう。


『早く立て!!!!追いつかれる!!!』


 リリアンは立ち上がるとヒールを脱ぎ捨てる。裸足のまま走り出すリリアンはステロンに駆け寄る。


「急ぎましょう!!!」


『おう!!!』


 二人はまた森の中を走り出し奥へ入っていく。すると眼の前に白馬が現れリリアンは避けようと後ろに下がるがそのまま尻餅をつく。


「きゃ!!」


「公女、様????」


「グレン様?!」


 グレンは馬から降りるとリリアンに手を貸す。リリアンはその手を掴み立ち上がるとグレンはそのままリリアンを抱き寄せる。その反応にリリアンは思わず驚いて目を見開く。


「ご無事で良かったです」

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