第37話 ギルドマスター

 翌朝、リリアンは目を覚ますとギルドのことが気になり、朝食の時にガクドにギルドが近くにあるのかと聞く。


「ギルド???なんか頼みたいことでもあるのか?」


「いいえ、ただ…」


 リリアンは昨日の夜にギルドマスターからの使いのカラスが部屋の前にやって来たことを話す。そして、リリアンが精霊師だと言うことも知っている口でいたことも話すとガクドは直感で何かを察する。


「なるほどな、だがお前が精霊師だと言うことが、どこかで漏れいたかもしれないな」


「えっ⁈」


「それで、ギルドの話しだが、確かに近くにあるよ。この先にある街にある…だがお前一人では行かせる訳には行かない。行くなら俺も一緒に行く」


「しかし、お兄様の手を煩わせる訳には…」


「俺はリリィの兄だ。もしものことがあったら俺は親父に顔向けができない」


 ガクドは食事の手を止めるとリリアンとしっかり目を合わせる。彼の目には後悔の色が感じる。


「もう、後悔したく無いんだ。お前が傷つけられている姿を、いつも見て見ぬふりを続けていた。だけど、もう二度とそうしたく無いんだ。皇太子…アーサーの婚約者だったお前に、また心を閉ざしてほしくない。今度こそ、お前を守らせてくれ」


「お兄様…」


 いつも一人だと思っていたリリアンは今は家族が守ろうとしてくれる。それだけで嬉しく感じる。悪女と呼ばれていた公女は、人を恐れた哀れな娘だったのだと感じる。

 今は味方になってくれる人たちがたくさんいる。それだけで嬉しくなる。リリアンはガクドに付いて来てもらうことにして、二人はバレないようにローブを来てフードも深く被り、仮面を付けて貴族だと言うことを隠す。

 街に到着するとガクドがギルドまで案内してくれる。ガクドに手を引かれると二人でいけないことしているような感じがしてきてリリアンは思わず笑ってしまう。


「どうしたの??」


「いいえ、ただ楽しくなって来てしまって」


 嬉しそうにしているリリアンにガクドは自分も楽しく感じる。二人は街並みを抜けるとギルドのような酒場に到着する。


「表向きは酒場だが、正真正銘ギルドだ」


 看板にはレディーボンと書かれているため、ギルドマスターが言っていた場所で間違いない。外見がボロボロすぎて営業しているのか自体、怪しく感じる。二人は中に入るとタバコの匂いとお酒の匂いにリリアンは顔を顰める。

 ガクドは慣れているのか表情が少しも変わらない。リリアンは改めてガクドがすごく感じる。リリアンは舐められないように堂々とした振る舞いを見せる。店内にいるすべての人がリリアンとガクドを見つめるが、ガクドは小さくリリアンに耳打ちをしてくれる。


「リリィ、ここにいる奴ら、全員ギルドの団員と冒険者の奴らだ。警戒はしておけよ?」


 リリアンは小さく頷くと店主の前に向かう。店主は腕の毛はすごいが、器用にグラスを拭いている。


「いらっしゃい、なにが欲しいですか?」


「ステーキをいただけるかしら?」


「焼き加減は?」


「生よ、生のステーキをくださらない?」


 リリアンの言葉に店内にいる人全員が立ち上がる。生のステーキの注文、それはギルドマスターからの直々の依頼。依頼が成功すればその金はすべて自分の懐に入る。そんなおいしい依頼を欲する彼らはリリアンたちに近づく。


「やっぱりこうなるよね??」


「リリィ、俺から離れるなよ?」


「もちろん」


 全員が武器を構えるとガクドは腰から下げた剣を取り出し、彼らに向ける。するとリリアンたちとギルドのメンバーの間に爆発音と共に槍が突き刺さる。

 全員の目線が2階に続く階段に向く。階段には冒険者のようなブーツが見えるが、下半身のみしか見えず、誰なのかはわからない。


「オレの客人だ、お前ら手を出すな…。客人よ、すまないがその槍を持って、上まで上がって来てくれないか?」


 リリアンは今のがギルドマスターのダンゲルだと思うと、緊張で心臓が飛び出しそうだと感じる。リリアンは槍に手をかけて抜くと、ガクドは剣を鞘に納める。二人は2階に上がるとボロボロの表とは裏腹にしっかりされている。


「ここが、ギルド…」


「俺も初めて来たが、ちゃんとしているんだな…」


「驚かせてすまないな、奥まで来てくれ」


 奥の角から手招きをして誘導してくるギルドマスターに、二人はゆっくり歩いて向かう。角を曲がると奥には一つだけ扉がある。オーラのような光にリリアンはそっと触れると扉が開かれる。

 中に入ると執務室のような部屋になっており、酒場だとは思えない綺麗な部屋となっている。紅茶を淹れている赤いアシンメトリーヘアの男は、二人用のお茶を用意する。彼の瞳は光によって色が変わっていることに、なぜだか親近感が湧く。どこか、懐かしくも思うその姿にリリアンは彼に目線を合わせてしまう。


「まずは、来てくれてありがとうございます。ネルベレーテ公女様、どうぞ、お座りください」


 リリアンは誘導され、ソファーに腰掛ける。ガクドも同じように座ると、ギルドマスターは砂糖とミルクを出す。


「貴方は、何者なんですか?」


「オレですか?オレはギルドマスターのダンゲルと申します。またの名を…ダンゲルです」

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