第36話 結婚の申し込み

 リリアンは食堂へ向かうとガクドが待ってくれている。豪華な食事にリリアンは嬉しく思う。


「お待たせいたしました」


「いいよ、座りな」


「はい、失礼します」


 リリアンはガクドと対面するように反対側の椅子に向かうと使用人が椅子を引いて座らせてくれる。するとリリアンのワイングラスに、ぶどうジュースを注いでくれる。


「さて、食事をしよう」


「はい」


 二人はワイングラスを使って乾杯すると食事を楽しむ。リリアンはガクドが言いかけた言葉が気になってしまい、ガクドに聞くことにする。


「お兄様、どうしてそのまま屋敷に帰らなかったのですか?」


「えっと…今帰ったら…肝が冷えるぞ」


「どう言う意味なんですか????」


 リリアンはガクドが戸惑い、口を滑らせないようにしている姿を見て、とんでも無いことだと直感する。リリアンはどんなことでもドンッとこいと構えるがガクドの口からはハンスが激怒しそうになる言葉だった。


「えっと…な。お前宛に、結婚の…申し込みが来ていたんだ。しかも、ここから離れた国から」


 リリアンは思わずぶどうジュースを吹き出してしまう。なんとかガクドの顔は逸れるが咽せてしまい、ドレスを汚してしまう。


「だから言いたくなかったんだ…」


「私宛の!!!結婚の申し込みですか???!!!」


「そうだ、そのせいでか…公爵家は息苦しくて敵わないんだ…。今お前が帰ったら、ストレスになってしまいそうでな…」


「その、離れた国とはどこなんですか??」


「東国だ」


 東国は調べ物をしていた時に当時のリリアンが残した本に書かれていた国。東の海にある国で、島国とも呼ばれている国。着物と呼ばれる服で過ごしており、日本に近い国らしい。詳しくは書かれていなかったが、昔にリリアンに手紙で求愛して来ていたらしい。

 当時はアーサーとの婚約があったために断っていたが、アーサーとの婚約が破棄となったためにもう一度求愛して来たらしい。


「なるほど、前にも求愛してきた国だと思いますが…」


「親父は、『遠い国に娘をやるぐらいなら、滅ぼす!!』と言っていた」


「それはいくらなんでも…」


「やりすぎだと思うだろうが、それが親父なんだ…」


 ガクドは頭を抱える姿を見てリリアンはハンスが怒りを見せている姿が目に浮かぶ。このまま帰ったら、返事を書かないといけないと思うと、少々心苦しい。


「だから、今は親父に頭を冷やしてもらわないといけないからさ、朝早くにこの場所を出て、親父と話しをしよう」


「そうですね…」


 リリアンは結婚のことをあまり考えていなかったが、これが貴族なんだと感じる。ハンスのように、政略結婚しなければならない状況もあり得る。愛し合って結婚もほとんどないかもしれない。

 リリアンはため息をつきながらお風呂に浸かる。兄が持っているこの屋敷にいる人はほとんどが手際が良い。お風呂でさえも早く、髪も綺麗にされていく。


「ではお嬢様、お休みなさいませ」


「おやすみなさい」


 メイドたちは出ていくと一人で部屋から空を見上げる。輝く月はあの時海で見た月とは少し違く見える。だが、元々の世界と比べると街は暗く感じる。電気とも呼べる物が無いためなのだろうが、魔法道具を使っていないと見ると街は危険がいっぱいだと感じる。

 すると屋敷の前にある木が少しだけ動くのが目に入る。小動物が居るのだろうかと思うがその森から黒い生き物が飛び出しリリアンの部屋の窓に体当たりをしてくる。


「えっ!!なに???」


 体当たりをした生き物は真っ黒な鳥の姿をしている。元々の世界でいたカラスに似ているが眉間辺りからツノが生えている。そのカラスのような黒い鳥は小さく『イタタッ…』と言っている言葉が聞こえてくる。


「この鳥…喋るんだ…」


『やっと見つけましたよ…公女様』


 その鳥の言葉にリリアンは驚いてしまう。窓は開けずにその鳥を見ていると鳥は首を傾げて口を動かしているが声が聞こえてこない。


「なに…こいつ」


『あ、あd???ごわ…だ…のががが…???』


「なに、どうしたの???」


 リリアンは思わず窓を開けるとカラスは普通に中に入ってくる。そのカラスをイフは戸惑いもなく掴み、炎を手に宿す。


主人あるじ様、こいつ食べるんですか???」


「食べない!!!なんか壊れちゃったみたいなんだよね」


「ふ〜〜〜ん」


 イフは白い光をかけるとカラスの声が普通に聞こえるようになる。


『あ、直った。さすが精霊だな』


「俺が精霊だとわかるんだ」


『では、改めまして。自分はギルドマスターのダンゲルと申します。リリアン公女様、どうかお願いがあります』


「ダンゲル⁈私にお願いって、なによ」


『我々に、その精霊の力をお貸しください』


「私が精霊使いだってこと、どこで知ったの??」


『その話しはギルドハウスに来た時にお話しましょう。公女様のお力が必要なんです。この街にある酒場、ーレディーボンーで、=生のステーキが食べたい=とお伝えください。では、失礼します!!』


 カラスは窓から飛び立つと、リリアンは顰めっ面を見せる。ゆっくり窓を閉めると、リリアンはベッドに腰掛ける。


主人あるじ様、どうせ嘘ですよ」


「そう思いたいけど…」


 リリアンはこの展開が想像と合致する。これはゲームで遊んでいたイベントとよく似ている。確か主人公がギルドマスターから依頼されたこと、それは人形ドールとして売られている獣人の子供の救出と闇オークションの秘密を暴くこと。

 それが成功するとギルドマスターに依頼が全て無料になるというイベント。そのことがこの世界に適応しているとすれば、協力すれば良いことがあるような気もする。リリアンは朝になってから考えることにして眠ることにする。

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