第33話 盗まれたアーティファクト

 魔塔の扉が開かれたためにゴーレムたちは防衛装置が停止する。なぜこのタイミングでヒリリトンが姿を見せたことにリリアンは理解できないが、彼にも何か事情があったのだと解釈する。

 中に招かれるリリアンたちは中に居る魔道士たちの注目の的になる。この魔塔に住む彼らはあのような長いローブを着ているのだろうかと思ってしまう。


「彼らのことは気にしないでくれ、滅多に客人なんて来たりしないから驚いているんだ」


「あれほどの防衛装置があれば、誰も入ってこないでしょう」


 リリアンは吐き捨てるように言うとヒリリトンは黙り込んでしまう。執務室に案内されるリリアンとカーラは室内にある道具に思わず目を奪われる。

 中にはたくさんの魔法薬や本が並べられている。中には魔法動物と思われる生き物も存在する。


「この部屋は必要な時以外誰も入れないようにしている。少し散らかっているが気にしないでくれ」


「散らかっているって…」


 リリアンは足元にある薬品の瓶や書類を踏みそうになりながらもなんとかソファーまで向かう。ヒリリトンは指を振ると光の粒子が発生してカップに紅茶を注いでいく。まだ暖かい紅茶はリリアンたちの前に置かれる。よい香りの紅茶をリリアンはゆっくり飲むと身体に染み渡る感覚がある。


「おいしい…」


「はい、公女様」


 ほっとする二人の姿を見るヒリリトンは自分も一口飲む。ヒリリトンはソファーに座るとゴーレムで攻撃したことに謝罪をする。


「申し訳なかった、怪我をしていないか???」


「なんとか怪我はしていません。ただ、魔力不足で疲れているだけです」


 リリアンの言葉にカーラもうなずく。しかしリリアンはヒリリトンが魔法オタクだと感じていたが、今目の前にいる彼からはそのような様子が感じ取れない。目の前に居るのは上品な大魔導師だと感じる。彼から溢れる巨大な魔力、あのゴーレムの量を動かしていただけはあると思える。


「あの、ヒリリトン様…いいえ!師匠!!!」


 『師匠』と呼ばれるヒリリトンは驚き、紅茶を零しそうになる。弟子はこの魔塔に居る者たちだけだというのに、カーラに師匠と呼ばれる。ヒリリトンは分かっていないように眉間にしわが寄る。


「青髪の少女よ、なぜ我のことを師匠と…呼ぶのだ」


「え…私は、ヒリリトン様の弟子です…。カーラです」


「カーラ…??????」


 ヒリリトンは悩んでいるとカーラは絶望しているような顔をしている。師匠だと思っていた人が分かっていなかったことに対して、悲しくも感じてくる。


「もしかして、グリムオン伯爵が推薦してきた…。そうか娘だったのか…すまないね、弟子はこの魔塔以外誰もいなかったから忘れていたよ」


 忘れられていたことにカーラは愕然とする。リリアンは慰めるように背中をさするが、落ち込みは収まらないらしい。


「確かに、グリムオン伯爵が推薦するだけはある。前みたいに、無能な奴ではないだけ誉めてやろう」


「無能…???」


「あぁ、前にもカーラ嬢の様に、我に推薦として送ってきたやつがいたが、下級魔法しか扱えない無能だった…、成長するような逸材ではなかったため、追い出したよ。だけど、我が聞きたいのはそなたの方だ!!!」


「私????」


「名前は何という⁈」


「リリアン、リリアン・ネルベレーテ…」


「リリアン嬢…はぁ⁈リリアン!!!!!そなた…リリアンなのか…??????????????」


「はい…私、記憶喪失で…」


「まじですか…」


 わかっていなかったのか動揺を見せるヒリリトンは、ブツブツと何かを呟いている。リリアンはその様子を見つめ続けていると、ヒリリトンは落ち着くために一回座るが、貧乏揺すりがひどく出ている。


「えっと…聞きたいことがあるので、聞いてもいいですか…?」


「……」


「あの、ヒリリトン様???」


「条件がある。自分も質問に答える。その代わり公女様、自分の質問に答えてほしい」


「いいですよ、偽りもなく、話しましょう」


「ありがとう。まずは君たちがここに来たことについて」


 リリアンはカーラにお願いして映像魔法石を出してもらう。カーラは赤い映像魔法石を取り出して、アーティファクトを見せる。今回のアカデミーで起きた事件のことを話し、このアーティファクトが使われたことを説明をする。


「なるほどね…確かにこれを製造したのは自分たちだ。だが、都市での事件とは関係ない」


「言い切れるのですか???」


「このアーティファクトは、ずっと前にものだ」


「盗まれた⁈」


「そう、その種類は戦争で使われたアーティファクト…まあ自分が作ったものだか…。それを魔塔で回収した。だが、ある時に君たちのような貴族が調査隊としてこの魔塔の中に入って来たんだ。ある程度調べられて、彼らが返った後にアーティファクトを入れてた箱が盗まれていてね、すぐに皇帝に連絡したんだけど、皇帝は調査なんてものはしていないと言われてしまってね…」


 ヒリリトンはその出来事が一年か二年ほど前らしい。戦争の道具として使われていた、そのアーティファクトが悪魔を入れることも可能だとカーラは説明してくれる。ヒリリトンはそのアーティファクトを自分で製造し、戦争の道具として使われ、そして回収したと思ったら、盗まれてしまった。そのような結末。しかし、よく考えると話が矛盾しているような気がする。

 戦争は500年前に終わっている。その戦争の時代にアーティファクトを作っていたとしたら、彼は500年前から生きている可能性がある。もしもそうならば、こんな美男子では無い。もっとじじいの可能性がある。リリアンはヒリリトンが何者なのかと考えてしまう。

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