第30話 魔塔主

 リリアンとヘルミーナは少しだけ談笑して会場に戻る。するとアーサーとヘリンがやってきているのが周りの反応で分かる。しかし、なぜだが周りは嫌そうな顔で二人を見つめている。

 ヘルミーナはそっとリリアンに教えてくれる。どうやらあの騒動の時、二人は第一にアカデミーから抜け出そうとしていたらしい。ほかの生徒を押しのけて。アーサーが国の上に立つべき人間だと、思っていたほとんどの生徒は、彼らのあの行動に嫌気が指しているらしい。


「まぁ、どっちにしろ、私には関係ないわね」


「そうですね、婚約破棄を受け入れて正解です」


 周りから小さく嫌味を言われるアーサーはその怒りをリリアンに向ける。全ての原因はリリアンにある訳では無い。今回は自分の落ち度でこうなっている。リリアンは相手にしないように目を逸らす。ヘルミーナはアーサーがリリアンを見れないようにその間に入る。

 リリアンとカーラ、ヘルミーナは談笑をして、軽く食事をとる。それらを食べているとリリアンは日本の食事が食べたくなってくる。

 特に好物だった刺身は、この世界では食べることすらできない。海の魚はどうやら生で食べることができないらしい。

 ため息が出るリリアンに、カーラは食事がおいしくないのだろうかと戸惑いを見せる。


「公女様、お口に合いませんでしょうか??」


「いいえ!とてもおいしいですよ。ただ、最近太って来たなって思って…」


「「そんなことありません!!!!!」」


 二人は大きな声を上げてリリアンが太ってきているという発言に否定を入れる。二人の声にリリアンは目が点になる。


「公女様!!!どこをどう見たら太っているんですか!!!!」


「そうです!!カーラ様の言う通りです!!!!太ったと言えば、私の方が!!!私着やせする方なので、かなり太っています!!!!」


「私も…前にお母様に『太りました?』とよく言われるようになったので…」


「お二人も大変ですね」


「なので!!!公女様は太ってなどいません!!!!ですが、できることでしたら、コルセットがないドレスを着てみたいぐらいです…」


「そうですね…。このコルセットが無ければ、食事ももう少し楽しくなるのに…」


 ため息をつくカーラとヘルミーナの姿にリリアンも同意見。公女とはいえ、太っているとこのドレスも美しくない。それと、胸も苦しくもない。貧乳の人には悪いけど!!しかし莉里亜の時は男装しても気づかれないほどの貧乳、今のリリアンはDに近いだろう。胸が大きいと肩もこる。


「あとは、ドレスだけではなく、もう少しファッションがあればいいのに」


「そうですよね、女はドレスだけではありません!!」


「それより、公女様がお付けになっているそのネックレス、美しい黄緑色ですこと」


「グレン様が送ってくださったもので…どのようなものなのかは存じ上げません」


「そちらは…もしかして!!ではありませんか???」


「「ミントグリーンベリル??????」」


 ヘルミーナはその宝石の説明をする。その宝石はエメラルドと同じ鉱物らしいが、本当に稀にしか生まれず、生まれても奇跡としか言いようがないものらしい。清掃感があり、気品すら見せつけるような宝石だという。


「その宝石の大きさからして…金貨3千万枚はくだらないものだと…」


「金貨3千万枚ッ!!!!!!!!」


 リリアンは慌ててグレンを見ると優しくてを振ってくる。こんな素晴らしいものを簡単に手に入れてリリアンに届ける、底知れね財力があるのだけは分かった。

 すると一人の使用人はヘルミーナに耳打ちをして感謝の挨拶をすることに呼ばれる。ヘルミーナは申し訳なさそうにリリアンたちの元を離れる。アーサーは未だにリリアンを見ていたと思うとヘリンが少しだけ可哀そうに見えてくる。婚約者に自分を見てくれないと思うとつらく感じているだろう。しかし、どういう訳かそう感じていないようにも見える。どこか、申し訳なさそうにしている。

 ヘルミーナが壇上に上がるとメルディーナ様への感謝の言葉を述べる。このアカデミーを造ってもらったこと勉学をする場所を与えてくれたことに感謝する。

 感謝の言葉が終わるとパーティーはお開きになる。リリアンはグレンと目が合うと静寂の間に来るように言われる。それにはベンゼルとカーラ、ヘルミーナがやってくる。グレンが入る静寂の間の入口には、騎士が立っている。


「俺たち以外、絶対に入れるな。特にアーサーにはな」


「承知しました、皇太子様」


 リリアン、グレン、ベンゼル、カーラ、ヘルミーナは中に入ると一人ひとり席に座る。ほかのみんなは事前にグレンから聞いていたのだろう。


「みんなあの騒動で疲れているだろうが、少しだけ俺に付き合ってほしい」


「構いませんよ、グレン様」


「私たちは公女様、そしてグレン様の味方ですから」


「ありがとう、助かるよ」


「では、グレン様の代わりに話させていただきます」


 ベンゼルは立ち上がると今回の騒動の話を簡単にまとめる。その内容が先ほど馬車でグレンから聞いた話ばかり。しかし最後にはリリアンが聞いていない話。


「最後に、アーティファクトのことですが、それはどうやらされたものだということが分かりました」

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