第三章 魔塔主とギルドマスター編

第28話 リリアンを狙った者

 ハンスから母、ネイレーンのことを聞いたリリアンは彼女が誰に追われていたのだろうと考える。ネイレーンを追いかけていたのは、学長やアイリスにアーティファクトを渡した人間だということ。だが、それが人間だとは思わない。この世界には魔法もあり魔族も居る。彼らも関係しているとしたら、もっと力をつけなければならない。


「でも、どうすればいいんだろう…。……????待って…!精霊使いは皇帝の奴隷!!!皇帝陛下が狙っているのって…お父様ではなく、精霊使いのってこと⁈」


「お嬢様、どうかしましたか?」


 メリーはリリアンのことを心配して迎えにきてくれる。ハンスの身の回りのことをしているリリアンが、使用人まがいのことをしていることに不安に思っているのかもしれない。


「大丈夫よ、それよりアカデミーからなにか来てたりしない?」


「いいえ、特には何も」


「そう、ならアカデミーのパーティーは中止ね」


「そうせざる負えないでしょう…学長でもある人があのようなことをしたのですから」


 メリーの言葉通りだとリリアンは思う。責任者である学長が、生徒を攻撃するなんてもってのほか。リリアンはグレンと選んだドレスのことを気にする。あのドレスはグレンがパートナーがいないリリアンのために作らせたドレス。パーティーがない以上、ドレスは必要が無くなる。リリアンはため息をついて部屋に戻ると、頬が赤くなっているネーシャと目が合う。


「ネーシャ⁈どうしたの⁈」


「お気になさらないでください、お嬢様。壁にぶつかってできただけですから」


 微笑むネーシャは少し震えているのがわかる。リリアンは光の精霊であるアルディンと契約をしたため、回復魔法を使うことができるようになった。

 リリアンはネーシャの頬にマナで凝縮した力で傷を癒す。

 リリアンは直感で夫人が殴った跡だと思う。きっと今回の事件にも関わっていると思うとカザリーンを警戒せざる負えない。


「これでよし、もう動いてもいいよ。これから気をつけてね」


「はい、ありがとうございます!」


 嬉しそうにするネーシャだが、演技だと思うと嬉しく思えない。リリアンはいずれネーシャに殺されてしまうのではと思うと、嫌な感じがしてくる。


「では、私は他にやることがあるので」


 ネーシャはリリアンから逃げるように部屋を出ていく。廊下を歩いているネーシャはリリアンに治された頬に触れる。ネーシャは幼い頃に夫人であるカザリーンにメイドになるように仕組まれた。

 それも、影のメイドとして。ネーシャは初めの方は、情報収集を目的に動いていたが、いつしか人を殺すようになってしまった。

 早くこの生活から抜け出して普通の人のように生きたいと何度も思ったが、カザリーンはネーシャを手放したく無いのか、犬のようにリードを付けられている。もしできるのなら、リリアンのメイドとして生きていきたいとも思うが、それは叶わない夢だと自分に言い聞かせて、ネーシャは仕事を続ける。


ーーーーーーーーーー


 アカデミーで起きた事件から数日後、リリアンの元にグリムオン伯爵令嬢、カーラからの手紙が届く。

 それはアカデミーで行われるパーティーが通常通り行うという手紙。それと同時に、そのパーティーで着るドレスが屋敷に届くと言う事態になる。

 第二皇太子であるグレンをパートナーとして出ると言うことをハンスとガクドに伝えていなかったリリアンは二人にどう言う説明にするかを考える。


「リリィちゃんが…男とパーティーだと…⁈氷漬けにしてやる…!!!!!!」


「親父、氷漬けだけでは飽きたりません。俺の風魔法で切り刻んで差し上げます」


 もう遅かったと、リリアンは反省をする。リリアンはその相手がグレンだと言うことを伝えたが、二人は話を聞こうとはしない。

 パーティー当日、ハンスたちはグレンの到着を心待ち(怒)にしている。リリアンはグレンが何かされないかと祈るようにグレンの到着を待つ。すると皇室の馬車がリリアンを迎えに来る。

 馬車の中からグレンが姿を見せと、リリアンが着ているドレスと同じ生地が使われたタキシードを着ている。


「公女様、お迎えに上がりました」


「こちらこそ、お迎えに来てくださりありがとうございます」


 グレンがリリアンを迎えに来ることは事前にベンゼルからの手紙で知った。今回の騒動で報告しておきたいことが山ほどあるらしい。


「ネルベレーテ公爵、そして小公爵殿、本日は公女をお借りして行きます」


「第二皇太子殿下、グレン様…娘はまだ人を恐れています」


「もちろん存じております。自分の命に変えでもお守りいたします」


「そうしてもらえますと、助かります」


 ハンスはグレンの礼儀の正しさに戸惑った反応を見せるが咳ばらいをしてごまかす。ガクドはリリアンのことを見つめるが、なにかをいう訳ではない。その眼には必ず帰ってくるようにと言われているように感じる。


「それでは、お父様…お兄様。行ってまいります」


「リリアン、気を付けていくんだよ」


「嫌なことがあれば、イフを使って懲らしめな?誰もお前に反抗できる人間なんていないのだからさ」


 ガクドは笑ってリリアンのことを送ってくれる。アカデミーで行われるパーティーはそこまで長くはやらない。しかし何が起こるかわからないため、リリアンは警戒を解けない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る