第11話 保護猫エリンシア 1

「んにゃっ!? シアっ、なんで抱いて……!? 離せバカッ!」


 なんかルナが騒いでる声が聞こえて目が覚めてくる。

 あぁ……そういえばなんとなく抱きしめて二度寝したんだっけ。


 久しぶりのベッドが気持ち良くて、しかもルナがくっついてたからあったかくて。

 全く起きる気にもならなかったんだよね。


「……んぅ……まだ眠い……」


「いいから離せぇっ……!」


「んぐぇぇ……」


 顔を思いっきり押して離れようとしてる。痛い痛いっ。


「全くもうっ! 何してくれるんだ。眠気が吹っ飛んじゃったじゃないか」


 離してあげると顔を赤くしたルナが文句を言いながらぺちぺち叩いてきた。


「それは私も……で、ここどこ?」


「リリーナってエルフの家。シアってば昨日寝ちゃったんだよ。半日以上も経ってるよ」


「そんなに寝てたんだ……」


 あのエルフの少女の家か。

 確かにそんな事を言ってた……気がする。


 しかし半日以上も寝てしまうとは。

 本気で泣いてしまったし、自分で思っていた以上に限界だったのかもしれない。

 ルナが居るから大丈夫と思ってたけど……



「まぁ……疲れてたんだよ。あの距離転がり落ちていったんだし、貧弱だからなぁ」


「ごめん、また癒してくれてたんだよね? ありがと」


「別にいいけど……」


 いつもいつも私が弱ったり体調を崩すとルナが癒してくれる。


 治癒魔法は怪我だけじゃなく、体調を整えたり活力を与えたり出来る。

 病気を治すとかは相当な腕が必要だけど。


 とにかく、最低限しか使えない私がやるよりも当然効果が高いんだ。



「ねぇ……私いつの間にかパンツ履いてるし、服も随分可愛らしいのを着せられてるんだけど」


 服未満のボロ布を剥がされたのは覚えてるけど、寝てる間に着せられたらしい。

 子供っぽいふわもこなパンツと可愛らしいワンピースだ。


 服は別に良いんだけど、このパンツは幼過ぎて恥ずかしい。

 文句言える立場じゃないけどさ。


「リリーナとセシリアが念入りに体を拭いて着替えさせてたよ」


「う……なんか恥ずかしいなぁ……」


 予想通りの答えを聞きながらベッドを降りて歩いていく。

 とりあえず誰かしら居るだろうし部屋を出よう。


「何を今更。起きてる時から体拭いて貰ってたじゃん。それに散々あたしに色んなお世話されておいて……」


「それはそうだけど、なんか別というか……」


 ルナには本当に色々なお世話をされてきた。

 相当恥ずかしい思いをした事もあるけど、それとはなんか違うんだよなぁ……まぁいいか。


 そのまま歩いてリビングらしき場所に出ると昨日の少女2人が居た。



「あっ、シアちゃん起きたんだ!」


「思ったより元気そうね……!」


 こっちを見るや笑顔で声をかけてくる。

 胸がきゅっとした。なんとなく嬉しい……?


 純粋に私を心配してくれていたからか、久々に人と関わるからなのか……

 分からないから考えなくていいや。


「えっと……おはよう、ございます……?」


「うん、おはよう!」


「おはよ。体は大丈夫?」


 改めて体調を気遣ってくるけどもう何の問題も無い。

 そもそも疲れて寝てただけだし。


「ん。全然元気、大丈夫だよ」


「良かった、色々と説明しなきゃいけない事とかあるんだけど――」


「その前にっ! ご飯食べる? 昨日からずっと寝てるからお腹空いてるんじゃないかな?」


 確かにお腹は空いてる。

 しかも久し振りのちゃんとしたご飯だ、是非とも頂きたい。


 山では狩りをする事もあったけど、具体的な知識なんて無かった。

 分からないのに解体すれば凄惨な事になるのは当然で……

 結局奪った命に申し訳なくて、狩りは控えめにしてた。


 しかも美味しさなんて度外視の生活だったんだ。

 普通のご飯なんてすぐにでも……おっと涎が。


 でもその前にいい加減自己紹介としよう。



「ご飯……えっと、名前……」


「あっ、教えてなかったよね。私はセシリア!」


「私はリリーナ。ここは私の家ね。姉と妹が居るけど、今は出てるから後で紹介するわ」


 セシリアは綺麗な青い目がお母さんと似てる。

 リリーナは雰囲気がお母さんに似てる……かも。エルフだし。


 どっちもまだ15歳くらいにしか見えないのに、私は無意識に重ねてたのかもしれない。


「ん……私はエリンシア、です。もうシアでいいです。えっと……服、ありがとう」


 既にシアと愛称で呼ばれてるしそのままでいいや。

 ついでに服のお礼も言っておこう。


「いいのいいの、とりあえず適当にサイズが合いそうなのを買っただけだから」


「でもパンツは子供過ぎて恥ずかしいんだってさ。見た目相応なのに」


「ルナ、わざわざ言わないでっ」


 なんで言っちゃうんだ。

 お世話になってるんだから失礼でしょ。


「ありゃ……ダメだったか、ごめんねー。これくらいの女の子だったら大体はそんなもんなんだけど……シアちゃんは大人だね」


「どうせ買い物も行って色々買うんだし、その時にシアの好みで買いましょ」


 ほら気を遣わせちゃったじゃないか。

 ていうか好みで買うのもヤダよ。一応私は大人の男なんですよ。


 そもそも見た目でだいぶ子供扱いされてるね。

 成長遅かったのにあんな生活じゃ、まともに育つ訳も無いけど。


 でも時期的にそろそろ誕生日の筈なんだよね。



「私こんな見た目だけど、もう10歳になるよ? 今日が何日か分からないけど……7月25日が誕生日だから」


「えっ……じゃあもうすぐだね、今日が16日だから。でも、そっか……ごめん、それじゃ確かに幼過ぎたね」


「嘘……妹と同じ歳なのに……」


 あれ、なんかすごいショック受けてるぞ。何故。

 見た目程は幼くないってだけなのに。


「きっと……ずっと遭難してて栄養とかも……」


「確かに痩せてるし……想像しなかった訳じゃないけど、そんなに……」


 あ、これ勘違いされてる。凄い気の毒そうな顔してる。


 確かに栄養はギリギリだったろうけども。

 昨日説明した通りにしてはだいぶ健康的な体の筈。


 気付かないもんなんだなぁ……まぁいいか。



「シアは体が弱くて、元々成長が遅かったみたいなんだ。なのにギリギリで生きてきたから……」


 なんで悲しそうな演技で余計な事を言うかな。


「ううぅっ……もう大丈夫だからねっ! ご飯一杯食べれるからね!」


「もうご飯用意出来るから! 好きなだけ食べていいからっ……!」


 ほれ見ろ。そんな事聞かされたら、この子達はもっと気を砕いちゃうよ。

 保護されたんだからもう悲壮感を煽らなくて良いのに。


「ルナ……」


「こうした方が面白いかと思って……」


 呆れつつ小声で呼ぶとニヤけながら小声で返してくる。

 やっぱ精霊って……いやルナが特別酷いのかもしれない。

 でも私も同じ様なもんか。

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