第十二章 ② 集結(ティータイム)

 食事会を終えるとティータイムに突入した。

 デザートは鎌倉クルミッ子と鳩サブレ。さらに大粒葡萄ぶどう(山盛り)だ。

 凛花が食後のコーヒーと紅茶を運んできた。コーヒーも紅茶も近所のスーパーで購入した特売品のインスタントだ。

 黄金龍王一族の三人はそろって紅茶を楽しむ。所作や仕草までもが優雅で上品だ。まるで美しい絵画のようにさまになっている。

 強面こわもて乱波らっぱたちはさすがは大人の男!  熱々あつあつのブラックコーヒーをご所望しょもうだ。

 トレイの上からコーヒーカップを手に取った。白い湯気が立ち昇るホットコーヒーを冷ますことなく口に運んで飲み込んだ。

 「ゴクンッ! ヴッ、ヴゔッ? ゔゔゔゔッ! ぢッ、ぢぢぢぢッ!」

 一斉いっせいに叫んだ。どうやら見かけによらず猫舌のようだ。

 凛花はあわてて水を足す。それから順にフー、フー、と息を吹きかけてました。

 「はい、もう大丈夫です! どうぞ!」

 乱波たちは湯気が減ったコーヒーカップと凛花の顔を交互にじいっと見つめた。

 五人(五体)は照れくさそうに眉を下げて肩をすぼめた。それから顔を見合わせてご機嫌に笑い合った。

 「では、いただきます」

 低い声を揃えてそう言って。凛花に冷ましてもらったコーヒーをガブガブっと一気に飲み干した。

 

 「はい、コン太はこれ!」

 「ええっ? なにこれ? 凛花ひどいよ! こんな茶色いコーヒーじゃ嫌だよ。おいらはいつもの通りにブラックコーヒーが飲みたいよ!」

 凛花は少しだけ首をかしげて困り顔をした。

 「うーん。……だけどコン太、ごめんね。やっぱり今日だけはミルク入りにして? なんだか最近元気がない気がするの。だから胃腸をいたわわったほうがいいかなって」

 ノアがくすりと笑う。

 「コン太の場合。体調不良の原因は暴飲暴食でしょう? ……だけど凛花の言う通りね。ちょっと体調悪い?」

 「ノッ! ノアッ! おいらの身体を心配してくれるのかい? イヒヒ! 嬉しいなあ! じゃあこの際、おいら元気だけど元気ないことにしておくよ」

 「もうっ! 相変わらずふざけて……。心配して損したわ」

 ノアはプイッと横を向いて唇をとがらせた。

 

 「はい、ミルク入り。どうぞ」

 凛花から北欧柄のマグカップを渡された。コン太専用の特大サイズである。

 「うーん、じゃあ、ありがと。あッ! もしかしてミルクってさあ。牛乳じゃなくてびんに入ったこなのやつかい?」

 「ん? そうだよ。優しい甘さで美味しいよね!」

 「へえ。あの粉って甘いのかい?」 

 「うん! 子供のころ家族にばれないように台所のテーブルの下にもぐり込んで、スプーンですくってコッソリ食べたんだ」

 「ふうん。コーヒー用の粉末のミルクって、隠れて食べるほど美味しいのかい?」

 「すっごく美味しいんだよ! だけど頬張ったらき込んじゃって! 床が真っ白になっちゃったの。粉が飛び散ってベタベタになって掃除が大変だったんだ! 母さんとふたりでゆかきして片付けたの」

 「へええ」

 「母さんが『凛花が全部食べちゃうから隠しておいたのに!』ってぼやいてた。笑いながらなげいてたよ」

 ノアは目を丸くする。

 「コーヒー用の粉末ミルクだけを食べたの? 全部?」

 「そう! 美味しくって止まらなくなっちゃうの。小さいひと瓶くらいなら楽勝だよ! だけど今は頑張って我慢してるんだ。もう大人だから」

 「イヒヒ! 凛花も食いしん坊だな」

 「そうだよ! だけどコン太にはちょっとだけ負けちゃうけどね?」

 「それじゃあ! 粉末ミルク入りコーヒー、いっただっきまーす」

 デザートまですべて完食した。凛花とノアが大量の食器類を洗う。コン太がせっせと皿を拭く。そうしてあっという間に片付けが終わった。

 

 赤煉瓦ベルは和気あいあいとしてほんわかしていた。穏やかで柔らかな空気がただよっていた。

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