第二章 ⑤否の起業家・マナブ(制裁)
所沢市・緑町。
マナブは新所沢駅に下車して西口改札を足早に通り抜けた。
心は欲望に支配されている。見当違いな認知バイアスは暴走していた。
……凛花にふさわしいのは龍神に選ばれた特別なる自分しかいない。もしかすると彼女も密かに恋焦がれて再会を待ち望んでいるかも知れない。恐らく、すべての華々しさを手中にした自分ならば
マナブは住宅地を闇雲にうろつき回る。そうして歩き回っているうちに、偶然にも凛花が暮らす『赤煉瓦ベル』のすぐ近くまで来てしまっていた。
ヒューン…………、マナブのグラビリズムの運勢機運は最大値から急落を始めた。
黄金龍王トールによって維持されていた『
ドッ、ドッ、ドドドドドッ…………、突然視界が閉ざされるほどの『滝落としの雨』に
「わっ、
不吉だった。来た道を戻ろうと藻掻く。けれど
どこからともなく
ザザアァッ……! 激しく打ち付ける滝面が左右に裂けて割れた。そこに現出したのは
『
低く
「
背後から茶化すように声をかけられた。小馬鹿にしたからかい口調だ。
ハッとして振り向く。そこには浅黒い肌をした長身の若い男が立っていた。
それはいわゆるイケメンだ。しかし切れ長の瞳は怒りで釣り上がっている。冷めた視線からは
「おいらは
そう言って、
濡れているかのように光沢のある
マナブは呂色九頭龍神の
打算的性質のマナブは瞬時にリスク計算を
……九頭龍神が人間の姿のうちに、どうにかして説得しよう。釈明して許してもらおう。
なんとしてでも助かりたい。華やかな日々を、金満生活を、やすやすと手放したくはない。それには命乞いするしか道はない!
「ち、違うんだ! 誤解だよ? 聞いてくれよ。すべて誤解なんだ」
「へえっ? 何が誤解なのさ? 凛花に会いたくてここまで来たんだろう?」
「いや、その、別に……。凛花さんみたいな地味な女はタイプではないし、下心はないんだ。だからとにかく誤解だよ!」
「へえ、そう……。地味な女、ねえ?」
「そもそも俺は女に不自由していないし、むしろ
「ふうん……。あ、そういえば、会社でのあんたの評判最悪だね? 社員に対して高圧的で
マナブは一転して
「失敬だな! あれはハラスメントではないよ? 部下や周りの連中が無能なだけだ。別に間違ったことは言っていない。それどころか無能連中を厚待遇で雇用してやっているんだ。会社は利益を出し続けているし、運営に落ち度はない。会社経営に関して
「へえへえ、そうかい。しかし女遊びも激しいねえ。度が過ぎると痛い目見るよ?」
「ハッ? それは尻軽女が勝手に群がってくるから相手をしてやっているだけだ。……ああ、そうだ。良かったら金も女も必要なだけ用意するよ! だから今回だけは見逃してほしい」
「見逃して、ってことは! 契約を
「ち、違うよ。良かったら取り引きしよう、って提案だよ」
「へええ! マナブ君は龍神のおいらと駆け引きしようっていうのかい? イヒヒ、面白いねえ? 馬鹿なのかい?」
「とっ、とにかく! 二度とここへは来ない。約束する。あんな地味で冴えない女に興味はない。信じてくれ、頼むよ!」
マナブは自己の保身の言い訳を繰り返す。ひたすらに命乞いをする。駆け引きから凛花をなじりさえした。
「君は大切なことを忘れてしまったみたいだね。仕事への敬意、仲間への感謝、誠実な心……。是契約書第六条不履行、
「いっ、嫌だ! 助けてくれ! 周りの奴らが勝手にちやほやするから、それで少し勘違いしただけだよ。これからは改める! 悪かった! ほらこの通り、謝っただろ? だから頼むよ、お願いだ。どうか許してくれよ……」
「殺しはしないよ」
在狼は
「マナブ君はさあ、今から
「イ、インコ?
「インコはさあ、仲間を大切にするんだ。
「ペット、って……」
「そうそう!
「
「イヒヒッ! ああそうだ、念のため凛花の記憶は消しておくよ? 余生はモノマネ上手になるし空が飛べる。良かったねえ! すごいねえ! じゃあ、そうゆうことで。せいぜい楽しんでねえ!」
マナブは青ざめて震え上がった。
「リズム消滅。鬼畜め、バイバイ!」
手を振る在狼が消えたとき、マナブのリズムは完全停止した。
そして黄色い
都心のとあるビルの玄関口。
ギャッギャッ! 黄色いインコがけたましく鳴いている。インコの羽には『
行き交うサラリーマンたちは口々に噂する。
時代の
行方知れずの傲慢CEOは女にだらしなくて社員に
いい気になって、調子に乗って、どうせ恨みでも買ったのだろう……。
過剰にもてはやされた勘違い男の悪口で盛り上がる。
インコは声を枯らして鳴き
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