うちら陽気なかしまし幽姫 其ノ二

「あ、閻魔えんまさま!」

「おう、閻魔えんま!」

「御機嫌麗しゅう、閻魔えんま大王」

閻魔えんまではない。夜魅ヤミーだ」

「どっちでも変わんねぇだろ?」

「変わる。私は〝娘〟だ」

「でも、次期閻魔えんま大王だいおうだろ?」

「継げば、そうなる」

「じゃ、変わんねぇだろ?」

「変わる」

 この幽霊ひとに講釈を垂れたって無駄よ? 夜魅ヤミーさま?

 脳ミソスポンジだから。

 ヘチマ構造で駄々漏れだから。

 このやりとりだって、かれこれ何回目か分からないルーティーンだし。

「それはそうと、どうやらまた・・妖威を解決したとの事。御苦労」

「ま、したくてやったんじゃねぇけどな?」

「「チョイ待て」」

 お露ちゃんとユニゾンでツッコんだわ。原因・・に。

「ホント、したくてやってるワケじゃないよ! 夜魅ヤミーさま!」

「そうですわ! 毎回毎回、不本意ながらもそういう流れ・・・・・・になってしまっているだけですの!」

「けれど、結果として貴女あなた達は『妖威解決』に多大な貢献をしている……それは揺るぎない事実」

「そ……それは……」「そう……ですけれど」

 妖威──それは〈妖異〉とは違う。

 平たく言えば『よこしまな妖怪が引き起こす怪奇現象』の事だ。

 それも〝人間〟に過剰な恐怖と実害をもたらす悪質なケースを指す。

 わたし達が『怪奇案件』に首を突っ込むと、毎回結果ながらも『妖威解決』に繋がっていた。

 まったく意図せずに。

 偶発的展開に。

 今回も、そうだ。

「ハハハッ★ 何で、こーなっちまうんだろうな?」

「「チョイ待て」」

 何を爽快にカラカラ笑っているかな! この元凶!

 こっちが悄々しおしおを失っている横で!

「お岩、お露、お菊、そろそろ『あの条件』に首を振ってほしい」

「「「横に?」」」

「縦に」

 チッ!

 さすが〈クールビューティー〉だけにノッてこないわね!

 夜魅ヤミーさま!

「そもそも貴女あなた達を現世に転生させた目的は、この世にうごめく凶悪妖怪を検挙するため……」

 わたしとお露ちゃんは間髪入れずに、にこやか回避をアテーションプリーズ。

「「何処ぞの〈妖滅戦隊〉へー★」」

「それは知らない」

 チッ!

 やっぱりノッてこないわね!

 夜魅ヤミーさま!

「言うなれば、貴女あなた達は閻魔庁直属の〈妖威警備隊〉として見初められた」

「「「つまり、妖怪パトロ──」」」

「──妖威警備隊」

「「「霊界探──」」」

「──妖威警備隊」

 も些末とばかりに脱線ボケを封殺したわね!

 夜魅ヤミーさま!

「いい加減、私直属の部下へと収まって欲しい」

「だって……ねえ?」「だよな?」「ですわね」

 アイコンタクトのリレーで暗に拒否感を漂わす。

「何?」

「「「まだ〝願い〟を成就してないもーん!」」」

「そう……では、その〝願い成就〟を叶えてあげてもいい」

「え?」「ホントですの?」「マジか!」

「言ってみて」

「全世界から慰謝料を無限に踏んだくれますように!」

「無理」

「全世界が〝お皿〟になりますように♪ 」

「無理」

「全世界が淫乱天国酒池肉林アハ~ンになりますように♡ 」

「無理」

 何よ! 全部無理じゃない!

「わざと無理難題を言っている?」

「「「本気です!」」」

「尚の事、無理」

 尚の事とか付けられたわ。

 どういう意味かしら?

 沈思ややあって夜魅ヤミーさまは「ふぅ」と軽い嘆息たんそく

「仕方無い……今日のところは諦める」

「ハハハ★ そっか♪ 」

「その方が賢明かと……」

「ごめんね? 夜魅ヤミーさま?」

「けれど──」

「「「けれど?」」」

「──次こそは覚えてなさい」

 悪役の捨て台詞みたいになってますけど!

 仮にも〈閻魔えんま大王だいおうの娘〉が〝三下が逃げ去る時の定番台詞〟みたいになっちゃってますけど!

「ところで──」と、夜魅ヤミーさまは不可思議そうに振り返った。「──アレ・・は何?」

 見据える先にはグラウンドランに打ち込む妖異達。

「「「ファ●コンウォーズが出ぇぇぇるぞッ! 母ちゃん達には内緒だぞッ! のめり込めッ! のめり込めッ! のめり込めッ! のめり込めッ!」」」

 ……お岩部隊だった。


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