よろしく彼氏、さよならセフレ

 自分でもいまだに信じられないんだが彼氏ができた。

 先日5回目のデートで告白された。ちょっと展開が早すぎてまだ理解が追いついてないとこもあるが、好きな人に好きと言ってもらえたことはめちゃくちゃ嬉しくて浮かれポンチになってる自覚はある。



 知り合ったのは大晦日にインストールしたTinder。例のごとくタイプの塩顔タレ目+黒髪+眼鏡で好(ハオ)!!!!!となりマッチ。なんとなく文面からおもろい人だなこの人、という印象を受け、数日後にさっそくアポを入れた。私にしては珍しく即決だった。んで、会ってみたら話が合うレベルじゃなく会話が続けられる人で、最近見た映画の話で盛り上がり、そっからずーっとしゃべってた。

 その後も週1くらいのペースでご飯食べたり飲みに行ったりした。だいたいどんな話題を振っても自分と同じかそれ以上の熱量で語ってくれるので、毎回2~3時間平気で話し込んでた。1つの話題についてがっつりラリーができていろんなとこに引き出しがあって似てるとこも違うとこも楽しいと思える、そういう人はかなり稀有だから好きになるのに時間はかからなかった。(相変わらずチョロいんだよな私)

 けど正直、初対面の時点でそういう行為まで及んでしまっていたから恋愛対象ではないんだろうなと端から思っていた。好きだけど、顔見て話せたらそれで十分だった。


 ある時、彼氏作らないの?と聞かれた。私は、作ろうと思って作る気は今のところない、と答えて、なんでそんなこと聞くん?と逆に聞き返してみた。 

 案外鈍いんやね、と返ってきた。

 …あっえっ????そういうこと????だって先に体許してしまったから好かれてるなんて思いもしなかったし調子乗ってると思われたくないからそういう想定をあえてしないようにしてたんだが?????そんなことが一瞬で頭を駆け巡り、嬉しさと恥ずかしさでないまぜになり。

 言って、ちゃんと。そうせがんで、好きと言うワードを引っ張り出した。私も、と答えて、ぎゅうぎゅうに抱きしめて。好きでいてよかったんだ、とか、あたし人を好きになれたんだ、とか、好きな人に好かれるってこんな嬉しいんだ、とか、そんなことを思って泣きそうになった。


 ただ私は昨年から引き続き都合のいい女業をやっており、そのことを彼にまず打ち明け、ちゃんと終わりにするので待っててほしい旨を伝えた。



 先にお別れしたのはK氏だった。

 告白される数日前に映画を見に行く約束をしていたが、なぜかその時に会うのは最後になるかもしれない、という妙な予感があり、結局それは的中することになった。

 会う約束をしていた前日、ちょうど通話がかかってきたので、彼氏ができた件を伝えた。会うのが最後になるということも。途端、露骨にK氏のテンションが下がったのが分かった。そんなにショックを受けるとは思わなくて逆にこちらも動揺した。絶対穴モテだと思ってたんだけどな。その何日か前にも通話していて、今はまだ彼氏を作るつもりはないと言い切ってしまっていたから、秒で嘘になってしまってそれは申し訳なかった。

 かといってこの人と付き合うかと言われたらそれはない、と断言できる。友達付き合いならいいけど趣味合わんし性格合わんし無理、と確信しているから。向こうも向こうで今はまだ彼女とかはなあ…と言っていたので縁がなかったんだろう。また明日ね、と通話を切った。


 当日は一緒にお昼食べて、とりとめのない話をした。彼氏の話もちょこっとした。 映画の上映前の広告の時間と上映後のエンドロールの間に手をつながれた。お得意の女の子扱いが出たな、と思った。それに助けられた時期もあったけど、もう私はそれを受け取れる立場にはない。

 映画が終わった後自分用+彼氏に渡す用のチョコ買うのに付き合ってもらった。気に入ったのがなくてわざわざ違うデパートまで連れてってもらってありがたかった。

 帰り際話してたら、彼氏ができたことについては、ちょっとは悩んでほしかったけどなあと言われた。好きだったよ、じゃなきゃここまで会いに来ないし、とも言っていた。私としては好きな人に好きと言ってもらえて(彼氏のことです)迷うことはなかったし、仮に好意はあったとしてもそれは「恋愛ごっこ」でしかなくて、彼女としてちゃんと付き合うまでもない存在だったってことだろ?ちゃんと人として扱っていてくれてたのも分かるけど、それ以上になる覚悟も気持ちもなかったってことだろ?じゃあ文句を言われる筋合いはない。とまあそんなことをもうちょっとマイルドに伝えた。

 家まで送ってもらって、ハグして別れた。多分もう会えないんだろうな、と一瞬だけ涙が出たけど、あたしに泣く権利なんてないと思ってやめた。お世話になりました。

 


 推しとはあっさりしたお別れだった。

 以前マンガを大量に貸してくれててそれがずっと家にあったから、彼氏ができたからもう会えなくなるし回収しに来てくれと伝えた。私から連絡したのは初めてだったので驚いていたけどすぐ取りに来てくれた。すまんけどさすがに部屋に上げるわけにはいかんしって玄関先でちょろっとお話しして、おめでとうお幸せにって言ってもらって、最後軽いハグだけしてばいばいした。

 あまりにも別れ際があっさりしていて、やっぱ多少は好きだったから、手放すのもったいないとか惜しいとかはちょっと思った。こっちを切って彼氏を選んだのは正解だったのか?って悩みもした。ただ自分の隣にこの人がおることを想像できなかったし、対等じゃなく会ってもらってる抱いてもらっているっていう意識を常に持ってたから、これでよかったんだと言い聞かせて振り切った。



 O氏からはその1か月後くらいに突然連絡が来て、来月会える日ない?と言われた。来ないと思っていた連絡が来たことにめちゃくちゃ動揺して、動揺した自分にさらに動揺して、情緒不安定になって彼氏に打ち明けた。好きだった人から連絡が来た、と。正直、今の彼とO氏を重ねていた部分はたしかにあった。雰囲気とか話し方とか趣味とか(特に音楽の)がすげえ似てたから。けどO氏に対しての気持ちはあるようでなく、もらったけどなんとなく捨てられずにずっと置いといてしまって発酵が進みすぎた漬物、くらいの感覚だったから、中身を確認する勇気が出ず、彼に見守ってほしいとわがままを言った。本当ならこういうことはわざわざ相談せずに私一人でケリをつけるべきだったと思わないでもないし彼にもそう言われたが、それだと結局また宙ぶらりんになりそうな気がした。私の内側だけで済ませるのではなく、誰かに話して観測されて初めてそれを事実として認められる、そういう性質が私にはあるので。彼がいい思いをしないであろうことは十分承知の上だったが、彼は誠実に対応してくれた。自分とO氏を比べてそっちがいいなら選べばいい、それを止めることはできない。けど本音ではいかないでほしいと思っている。そんなことを言ってくれた。先に付き合い始めたから他の人に行くのはよくない、とかではなく、ちゃんと自分を選んだ理由をはっきりさせておいたほうがいい、ということも言っていた。こいつのこういうとこが居心地よくて好きなんだ私は。

 結果としては、彼氏ができたから会えないと返事をして了解と返ってきて、それで終わり。あたしからそれ以上言うことは何もないと思ったから。ただそれだけのことだったのに、あたしの中ではちゃんと「終わった」という手ごたえがあり、O氏のことをあまり思い出さないし会っていた当時のことを思い出してもあの時感じていたきらきらしたものはすっかり色褪せていた。現在進行形のことではなく過去のものとして区切りをつけられたという感覚がある。



 

※一人称が私とあたしが混在していますが、冷静な時は私、感情的な時はあたし、となってしまうのでそれをそのまま反映しています。読みにくかったら許してください。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る