第10話 冒険は終わりました
外に出ると夜だと思うけど、とても明るかったです。
たくさんの人がいました。パトカーとか黒く大きな車なんかもありました。
おじいちゃんとおばあちゃんは傍にいますが、小鉄さん少し離れたところでが男の人と話しています。
男の人が電話を取り出して話始めると小鉄さんが戻ってきて、しばらくしたらお父さんとお母さんが来ました。
「「優斗」」
お父さんが抱っこされ、後ろで座り込んでいるお母さんのところに連れて行ってくれました。
お母さんの前で降ろされ、お母さんは僕の顔を見た途端、ギュッと抱きしめボロボロと泣き出しました。
「無事でよかった。探究者協会の方から大丈夫だと言われても心配で、」
「よかった、本当に良かった」
「ああ、よかった。お帰り優斗」
”おかえり”という言葉を聞いて、初めて帰ってこれたんだと実感することができたんだと思う。
「ただいま、お父さん、お母さん」
僕は泣き虫だと思います。今日はずっと泣いてばかりで、今も泣いています。
「ええ、おかえりなさい」
お父さんが離れていきました。
「小鉄さんですね」
「ああ」
「優斗の父で、荒木 拓斗(あらき たくと)と申します。あちらが妻の優子(ゆうこ)です。」
「改めて、田中 小鉄、です」
綺麗な姿勢でお父さんが頭を下げる
「優斗を助けていただき、ありがとうございます」
「ど、どういたしまして」
「後日、改めてお礼に伺わせてえいただければ思いますので、連絡先をお伺いしてもよろしいでしょうか。」
「たまたま、掲示板の書き込みに気付いただけだ。優斗の運が良かったんだよ。」
小鉄さんが僕を見る。
「優斗、君からも礼は言われたから、改まってされることじゃない」
「それは、探索協会からダンジョン内から救助していただいた場合のことも伺っています」
「探索協会から何の説明をされたか、知らないがそれも必要ない。俺の方から連絡しとくから、」
「しかし、探索協会から規定でと」
「ああ、あれだろ、助けたやつと助けられたやつが揉めないためにとかいうヤツ。クエスト報酬とか協会が決めてるヤツ」
「ええ、そうです」
「確か調整可能だったよな」
「はい、そのことも含めて改めて話をさせていただければと」
「協会が間に入るんじゃなかったか」
「当人同士でも可能と伺っています。子どもを、優斗を助けていただいたのに直接お礼も言わないなんてありえません」
いつもは優しく穏やかで、お母さんによく怒られているお父さんが熱いです。
「ほら、助けたやつがいらいって言えば、払わなくていいってことだはずだからさ。お礼の言葉も貰ったし」
「探究者は1回ダンジョンに潜るだけでも消耗品などで出費が発生すると聞いたことががあります。その分だけでも」
「それこそ、消耗品何か使ってねぇし。費用は発生してねぇ」
初めて会った時みたいに慌ててる。と思っていると小鉄さんと目が合う。
「な、なぁ。優斗、消耗品とか道具なんか使ってなかったよな」
「う、うん。使ってないよ。たぶん」
あまりの迫力に何も考えずに返事をしてしまった。
「優斗君もこういっていますし、ね。マイナスになってないから、お礼はいらい。ね?」
すごく小鉄さんがキョロキョロしてる。
「あ!!じじばば、何他人事みたにしてんだ、たすけろ」
「畏まった雰囲気って苦手だからねぇ」
「こういう事は若い者同士でな」
「若い者同士ってなんだよ、お見合いじゃねぇ」
おじいちゃんとおばあちゃんがイヤイヤと手を振り、小鉄さんが睨み、お父さんとお母さんが困惑している。
不思議な光景です。
「そうだ、お礼は優斗がジジババの遊び相手になってくれるってことでどうだ」
「あ、遊び相手?」
お父さんがおじいちゃんとおばあちゃんの方を見る。
「そ、そうだね。子も孫も独り立ちしてね。孫みたいで優斗君が来てくれるとうれしいね」
お父さんが僕の方を見て、僕はうんと頷いた。
「そうか」と一言言って僕の頭に手を置く。
「祖父母に会わせることができないことで、寂しい思いをさせてたんですね」
お父さんが3人の方に向き直り、改めて頭を下げる。
「優斗を助けていただき、ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。」
「ああ、こちらこそ。よろしくね」
「老後の楽しみができたわい」
嬉しそうにしている2人と別で、小鉄さんが大きなため息をつく。
「ごめんなさい」
「ああ、違う違う。やっと肩の荷が下りたっていうか、安心したっていうか」
「小鉄さんも会ってくれるの?」
「ジジババと関わってくんなら、俺とも会うことになるさ」
乗り気じゃないみたい。やっぱり嫌なのかな?
「嫌ってわけじゃないからな。違うぞ!ちゃんと後でお父さんに連絡先教えとくからな!」
「うん」
こうして穴に落ちたことで始まった僕の冒険は終わりました。
この後、お家に帰れると思ったら検査とか色々あると言われ、病院に行くため生まれて初めて救急車に乗りました。
お母さんも初めてだったようです。
夏休み、学校帰りに遊びに行ったら穴に落ちた話 親ばかなパパ @okitomo
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