【2013年編】芽③

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 2013年


「---あ、その頃のトキ、何か覚えてる。いつも友達と二人でいた気がするし、いきなり服装も変わったよね。」

 チカは懐かしそうに語った。


「あぁ、確かに。ヒデとバンドを始めたってこともあるけど、ベースが弾きやすい服装になっていたかもね。」

 残りの大学生活は古着屋でのバイト、バンド活動と---割と充実していた。

 バンドの方向性もあり、服装も古着系から、モッズ系やオーリー系ファッションを好む様に変化していた。


「---そっかぁ、じゃあトキが立ち直ったきっかけって、恋愛というより友情だったってことなのね。」

「まぁ、そうなのかな。あの時は段々、人付き合いを整理し始めてたし、残った奴らは未だに仲が良いからね。」

「ふーん。じゃあ、今の彼女ともそのくらいの時期に出会ったんだ。」

 チカは続きを促すように聞いてきた。


 そうだ。

 彼女との出会いはヒデとつるみだして、そんなに先では無かった。


「確か---ライブの打ち上げに来てたんだよな。」


 当時、月1のペースで対バンライブに参加していた。

 誰が連れて来ていたのかは分からないが、打ち上げで何度か見掛けていたのが、今の彼女---婚約者だ。


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 2003年5月。


 ヒデが既に組んでいたバンドに、まずはサポートという形で参加していた。


 それまで参加していたベーシストが、転勤だか何かで参加出来なくなっていたのだ。

 だが、以前から仲の良かったバンドから急遽対バンを頼まれライブに参加することになったらしい。

 オリジナル曲も数曲あったが、私が曲を覚える時間も無かったため、全曲コピーでライブには参加することになった。


 歳下だと思っていたヒデだったが、浪人し入学してきていたので、年齢は同じだった。


 ギター&ボーカルのヒデ

 リードギターのジン

 ドラムのヒロシ


 彼らは同じ中学の出身者で、高校生の頃から同じバンドでやっている仲だった。正直、当初はそのレベルの違いについて行くだけで四苦八苦していた。


 私が本格的にバンドを組んでやっていたのは三年程前迄で、以降は宅練メインだった事もあり、最初は足を引っ張っていたと思う。


 1ヶ月程は、睡眠時間を削ってでもベースに明け暮れた。楽しくて仕方なかった---。


 初めてのライブはメインバンドの前座的なポジションだった。

 しかし、ある程度の手応えは感じていた。


「---今日、割と入っていたな。フロア2/3近くは埋まってたよなぁ」

 ジンは手酌でビールを注いでいた。

 話しながら注いでいたため、ビールの泡がグラスから溢れ出す。


「まぁ、対バン相手が良かったからな。アイツら、今『Buddies』出演バンド内で1、2番手だしな。来月、インディーズでマキシ出すっつってたし。---かなり先行かれたな。」

 火をつけたタバコを咥えたままヒデは言った。トレードマークのサングラスのお陰でどんな表情をしているかは定かでは無い。


 最近のインディーズ市場などノーマークだったので、今日の対バン相手がどの程度人気なのか等知らなかった。


 聞くところによると、私達の2歳上の世代で、ヒデの地元の先輩だったらしい。

 メンバーの一人が元々、ヒデと同じバンドだったらしいのだが、先輩が高校卒業と同時にそれぞれ別のバンドを組んだ経緯があったとのことだった。


「---まぁ、初めてこのメンバーでやった割には良かったんじゃないの?ベースの質は変わったけど。」

 褒められているのか分からない。ヒロシは普段から言葉が少なく、割と誤解を与えやすい人物だった。


 その日の打ち上げは、対バン相手の先輩方を交え、私へのプレイに対するアドバイスやダメ出しが多く、あまり良い思い出では無かった。


 次こそは---


 店を出ると、三人組の女の子達から声を掛けられ、ヒデが捕まり写真を撮っていた。

 この界隈ではヒデの人気は高いらしく、以前から精力的にバンド活動を行なっていたということが推察できる。


 その中の一人が私に話しかけてきた。


「---新しいメンバーさんですか?」

 彼女は私が加入する前から見に来ていたのだろう。


「いや、今回はサポートって形だからメンバーと言うか---」

 自らと肯定するには気恥しさがあった。


「そうなんですか---。あ、私『ナオ』と言います。次も必ず見に来ます。---あ、すみません、お名前聞いても---?」

 なんとなく、チカに似ているなと思っていた。顔の系統?いや、全身から醸し出されている雰囲気と言うか。


「あ、あぁ。ヤマムラトキオです。皆からはトキって呼ばれてますが、何と覚えて貰っても大丈夫。」

 妙に改まって自己紹介をしてしまった。


「---ナオ、行くよー」

 彼女は友人に呼ばれ、ペコリと会釈をし、友人達の方へ駆けて行った。














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