015 言質はいただきましたよ!
Side 小百合
「では、あのお2人が来られたら起こしますので、それまではお休みください。」
「よろしく… お前も休んでくれよ? 協会の仕事もあるかもだけどそっちは平坂にでも押し付ければいいから… おやすみぃ……」
零司さまはそれだけ仰って眠ってしましました。
甲種… 地竜ダンジョン…
Aランクしか入ることが許されていない甲種の中でもこの東城学園支部の管轄内では最高難易度のダンジョンを単独踏破…
通常であればAランクのハンターのパーティーを複数… いえ、ボスを倒す踏破を目的とするなら最低でも5つは集めなければいけません。
ハンターのパーティーを複数集めるレイドを行うにはそれだけの報酬が必要です。 今回のように氾濫間近な状態ですと、いったいいくつのパーティーを集めなければいけなかったか…
考えただけで憂鬱になりますね。 Aランクを10にSランクを3くらいでしょうか… 成功報酬としてもAランク1パーティーに500万、Sランクには800万は最低でも必要でしょう。 犠牲や後遺症が発生した場合の補償も考えると副支部長が他の支部所属のハンターに指名依頼を出せずにいたのも仕方のないことだと思います。
そもそも間引きができるほどの実力者がこの支部にはいません…
地竜ダンジョンの難しさはその広さにもあるのです。
もっと広ければ群れを各個撃破できますし、もっと狭ければ大人数で押し込むこともできないことはありません。
悪い意味で中途半端なのです。 小規模で攻略に向かえばモンスターの群れが合流してしまいこちらが包囲されてすりつぶされてしまいますし、大規模で向かえば時間がかかりすぎてリポップの可能性もでてきます。
なので、間引きを行うにしても圧倒的な力のあるパーティーを2つか3つで向かう必要があります。
そこまでの実力のあるパーティーは…
ハンターには個人のランクとパーティーとしてのランクがあり、個人の実力さえ高ければ個人ランクは上がりますがパーティーのランクは少し違います。
パーティーに1人の実力者がいてもパーティーとしての評価は上がらないのです。 パーティーランクで求められるのはパーティーとしての実力なのです。
個人Aランクが1人と個人Cランクが4人のパーティーであれば、場合によってはCランクパーティーとしか評価されませんし、逆に個人Bランクが5人のパーティーがパーティーとしてはAランクと評価されることもあります。
この支部にはAランクパーティーが5つ所属していますが、全員が個人Aランクというわけではありませんし、まだ学生のハンターが多いので無理はさせられません。
零司さまにこれほどの無理をお願いしていてどの口がと私自身も思いますが、先ほどの後者のように個人の評価ではBランクであったり、パーティーの人数が少なかったり、よく言えば個性が強すぎる方たちであったりしますので依頼するのが難しいのです。
そんなとりとめのないことを考えていましたら零司さまは眠ってしまわれたようですね。
あれほどの戦闘を行えるというのにあどけない寝顔… 失礼なことだとは思いますがこうして見ると年齢相応にかわいらしい…
ここは職員用の休憩室で、さすがにベッドはありませんがソファがあり、零司さまはそこで眠っています。
これは… いいのでしょうか…
いいですよね? 零司さまも休むように仰いましたし私が休まるのならお許しいただけます… よね?
そーっと… そーっとです…
やりました! 膝枕成功です! なんでしょう、この達成感は…
あぁ… ほんとうにおかわいい… 不思議です、膝に頭を乗せているだけなのにこうして満たされた気持ちになってしまいます。
これは相手が零司さまだからなのでしょうね… きっと他の相手だとこうはならないでしょう。
私も元々はハンターでした。 3年前までは。
当時から私は人づきあいが得意ではなく、ソロとして活動をしていました。
親がハンターというわけではないのですが、中学生になる前にステータスに目覚め、ここ東城学園の中等部に進学しましたが、親の七光りな同世代とは折り合いが悪く、同じように自分だけ目覚めた同世代とは実力に差がありましたので組むことができず、ソロになるのはある意味必然だったと思います。
私のハンターとしての活動は順調とはあまり言えません。 通常は高等部に進学して、同世代とパーティーを組んで活動するのですが、いいのか悪いのかある程度の実力のあった私は中等部の頃からハンター活動を認められていました。
中等部では教師から認められなければハンターとしてダンジョンに入ることはできません。 同級生で認められたのはハンターの子で、親から訓練を受けていたり、装備のおさがりをもらっているような者たちだけでした。 こういう者たちは「2世」と呼ばれ、私のようにハンターの子ではないハンターたちからはよく思われなかったりします。 スタート地点が違いすぎることによるやっかみです。
2世は同じ2世の同級生や、親同士が知り合いな者と組むので私と組む者はいません。 2世でない者は中等部のうちは丁種までは踏破しEランクにはなれることはありますがそれ以上に進む者はいませんでした。 私は中等部のうちにソロでCランクとなってしまい周りと悪い意味で差がついてしまいました。
もちろん私もソロの限界は感じていましたのでパーティーを組みたいと思ってはいたのですが、声をかけてくださるのは… その… 女性を求めているのが見え見えな方ばかりでどうしても組むことができませんでした。
最初からそういう目的であると言ってくれるのなら断るのも簡単でしたが、何度かお試しで組んだ相手に襲われかけ、 男女混合のパーティーでも、その… 女性メンバーを共有しているようなところも… なので私は諦めることにしました。
ソロで活動するにあたってどういうジョブが有効であるのか迷いました。
それまでは短剣2本を使う双剣士として活動をしていたのですが、双剣士が乙二種に1人で入るのは無理があると言われ、私自身もそれは感じていたので他のジョブを模索しました。
結果として斥候職、スカウトになることにしました。 弓を学び、短剣をナイフに持ち替え、1年もすれば私は個人Bランク、ジョブもスカウトからアーチャー、アサシンとなりました。
高等部2年、個人Bランクハンター、ジョブはアサシン。
そんな私は周囲のハンターたちから「殺戮人形(キリングドール)」と呼ばれるようになっていました。
無表情で淡々とモンスターを狩り、その狩り方も遠距離から弓での狙撃や近距離ではナイフで首などの急所を突くのでそうなったそうです。
協会はソロの学生である私に指名依頼をすることはありませんでしたので、実力や危険度を考慮し、適正なダンジョンを選んでいましたが、間引きが追いついていないダンジョンがあることを耳にしました。
そこは乙一種のダンジョン。
これまではソロということで乙二種までしか入っていませんでしたが、恥ずかしながら調子に乗っていた私はそこに入ってしまいました。
氾濫直前のダンジョンは1つ以上上の難易度と扱われることを忘れて、初めて乙一種のダンジョンに入り、私は絶望を知りました。
間引きが追いつかず、他の支部から応援を呼んだと聞こえたことも私が愚行を行った原因かもしれません。
当時、学園生でAランクパーティーはいくつかありましたが個人ランクの最高はBランクでした。
パーティーを組んでのBランクとでしたのでソロでBランクの私より格下だと思っており、自分の力を過信していました。
他の支部の者に負けてたまるかと勝手なことを思っていたのです。
本来はどのようなモンスターが出るのか、地形はどうなっているのかなどできるだけのことを調べ、難易度を考えた上で入るところを碌な準備もせず突入した私は自分との相性の悪さに愕然としました。
そこはほとんどのモンスターがゴーレムでした。
ゴーレムとは土や岩などが人型となったモンスターです。 その材質によっては恐ろしいほどの強度になり、その強度ゆえに刺突や斬撃に対して高い耐性を持ちます。
私のような斥候職にとっては天敵と言える相手なのです。
そこがゴーレムばかりであり、かつ氾濫直前だということでモンスターが通常より強化されていることに気づいたのはそれなりに奥に入った後でした。
ゴーレムと言えば大きく、硬く、鈍重であると思われがちですが、中には人と変わらないサイズではありますが恐ろしく硬く、素早い種類もいます。
それも後になって気づいた私はほんとうに愚かだったと思います。
その硬く、素早いゴーレム(後で知りましたが、ミスリルアサシンゴーレムと言います)と遭遇し、私は手も足も出ず撤退を… いえ、命からがら逃げだしました。
物陰に隠れ、息を殺し、なんとか逃げ切ったと思ったときにそのゴーレムは私の背後にいました。
何度も逃げ、隠れ、それでも見つかり、これは遊んでいると気づきました。
上級ハンターと呼ばれるBランクになり、伸びていた鼻を叩き折られた気がします。 モンスターを狩るハンターがモンスターに狩られもせず遊ばれて殺される。
そんな絶望の中、一筋の光が横切ったのです。
背後から私を通り過ぎ、その光は目の前のゴーレムをまるで豆腐を切るかのように両断しました。
「遅くなって悪い、大丈夫か?」
彼は見たことのないハンターでした。 私は中等部1年からハンターをして活動しており、5年目になりますのでこの支部の上級ハンターはほぼ知っているはずなので彼が話に聞いた他の支部から呼ばれたハンターだとすぐに気づきました。
それがゼロさまというSランクハンターだというのを知るのは後日になってからなのですが…
「よく頑張ったな、ここを踏破したら外まで送るからしばらく付き合ってくれ。」
そう言って頭をポンポンと… これは私の人生最高の思い出です。
私の愚かな嫉妬と自尊心は砕け散り、彼への感謝と尊敬となり、親愛から恋慕へ変わるのに時間はかかりませんでした。
その後は驚きよりも呆れてしまいました。
彼は私がいくら攻撃しても傷1つつかなかったゴーレムたちを一刀で両断し、私が追いつけなかったほどの素早さを持つゴーレムを速度でも翻弄していたのです。
ダンジョンの最奥、ボスのいるエリアに着いたとき、私は恥ずかしながら腰を抜かしてしまいました。
そこにいたのは金色の巨大なゴーレム… ヒュージオリハルコンゴーレムでした。
Bランクの私が怯えからへたり込んでしまうようなSランクのその巨体を前にしても彼は怯えも竦みもせずただ…
「めんどくせぇ… 疲れるからやりたくねぇんだけどな…」
それは勝てるか勝てないかということではなく、どう戦えば楽に勝てるかしか考えていないことを表し、負ける可能性を欠片も感じていないのが伺えました。
「はぁ… さっさと済ませて帰るか…」
彼の目は巨大なゴーレムを敵とは見ておらず、そこからは一方的な蹂躙…
「“雷”」
そのつぶやきが聞こえた瞬間、ギィィーーーーンという金属を擦るような音とともにゴーレムの左前腕が切り落とされました。
10メートルはあろうかというゴーレムがバラバラになるのに1分とかかりませんでした。
絶望し、死を覚悟したのに助けられた私はすぐにハンターを引退しました。
引退を決めてダンジョンを出たのにAランクに昇格したのは何の皮肉でしょうか。
引退は心が折れたのではありません。
少しも貢献できなかった私のことを彼は高く評価し、協会にそれを伝えたそうです。
「相性のいいダンジョンなら十分にAランクで通用する斥候職だ。」
そう評価してもらいましたがその時にはもう私の心は決まっていました。
私は彼を支えたい。
そのためには協会の職員になるのが1番の近道であると思い、その後は職員になるために時間を使うようになりました。
その甲斐もあって私は高等部の卒業とともに職員となり、いつでも彼を支えられるようになりました。
ダンジョンの情報についてはハンター時代よりも詳細に調べるようになり、他のハンターについてや協会の内部事情などにも耳を傾けるようになりました。
例えば、昨日の美夏さまのようにパーティーを抜ける場合にはペナルティが課せられる場合があります。 そういった個々のパーティーのローカルルールにまでは協会は口を出すことはしません。
ハンターは自由に、と言えば聞こえはいいですが面倒ごとに関わりたくないというだけな気もします。
ペナルティについては協会に苦情が入ることはありますが、全て自己責任として処理されます。
「協会が認めているものではないが禁止しているものでもない」というのが公式見解になります。
そんなことをしているからハンターに不信感を持たれるのですが、私にはどうすることもできませんでした。
かつての同級生がパーティーを抜けるときに1年間の性奴隷契約か1億円の支払いかを迫られたこともありましたが、それはやりすぎとして止めることができました。
これは運のいい例で、現実では数千万円の支払いを要求されることも悲しいですがあるのです。
男性が男性を性奴隷というのは… なんとも言えない気分になりましたが。
「はぁ… あのゼロさまがこうして私に寝顔を見せてくださる… 至福です…
ゼロさまは覚えていらっしゃらないかもしれませんが、雷をまとって刀を振るう、そのお姿にあの日のことを思い出して私は…」
「そのゼロがこんな年下ですまないね。」
「――――――――――――――――――――――ッ!!」
「膝枕をありがとうな、気分良く休めたけどお前は休めたか?」
あぁ… 零司さま… こんな身勝手なことをした私のことを気遣って…
「もっ問題ありませんっ 十二分に癒していただけましたっ!」
もうっ 開き直るしかないじゃないですか!
「それはなにより、よかったらまたしてくれよ。
さて… 来たみたいだな。」
また、させてもらえるんですね!?
言質はいただきましたよ!
作者です
第1章はここまでとなります。
お読みいただきありがとうございます。
第2章からは登場人物も増え、ハーレムっぽくなっていく… といいなぁ…
想像以上のPV、⭐、♥をいただけて驚きと喜びでいっぱいです!
ハンターは高収入ですのでどんどん金銭感覚はバグっていきますが、
あくまでフィクションとしてお楽しみいただければと思います。
ちゃんとタイトル回収はしますのでお見限りないようお願いします…
更新サイクルは毎日ではなくなりますが、
9月中は週4ほどの更新ができると思います。
今後とも楽しんでいただければ幸いです。
⭐、♥、コメント
何か残していただけるとモチベにつながり泣いて喜びます!
次回更新は2023.09.08 18時です。
よろしくお願いします。
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