第68話 4ー12 竜との遭遇その三
ヴィオラで~す。
ついさっきまで、エンシェントドラゴンの依頼に応じて暗黒大陸まで出張していました。
竜の棲む暗黒大陸の大厳洞から一瞬にして寮に戻った私(ヴィオラ)は、コックさんの造った夕食を食べ、お風呂に入ってゆったりとした気分で休憩中です。
あのままアスプラの浄化を続けていたなら、多分夜中過ぎまでかかってしまうでしょう。
ヤッパリ、なれ親しんだ場所で寝て、休息するのが一番です。
一応、普段から非常用の食料はインベントリにも保管してありますけれど、なぁんにもないところで食べるのはちょっと味気ないですよね。
お友達などと、わいわいお話ししながら食べるのが楽しくって美味しいんです。
寮に残しておいた式神は、私の不在中にしっかりと私の代役を務めてくれていましたから、その間に起きたことを細大漏らさず確認しています。
普段、式神を使うとパスがつながり、式神が経験していることは私も時間を置かずに知ることができるはずなんです。
でも今回は、流石に暗黒大陸まではパスがつながらなかったみたいで、その件もちょっと心配だったのです。
式神は、AIでは無いはずですけれど、自律機能と言うか私の分身的な感じで私とのパスが切れてもきちんと動いていたようです。
不在の間に、お友達やローナとの会話での応答にもおかしなところはありませんでした。
でも明日は、他の式神を途中に設置して、学院に置いている式神とパスが中継して接続できるかどうかを試すつもりでいます。
ちょうどブルーベルに乗って暗黒大陸へ行く途中で大海原に小さな島がありましたので、一応念のためにその上空に転移ポイントの指定をしておきました。
明日の朝は、その島の上空に転移して、島に降り、そこに中継用の式神を置いてくるつもりなんです。
ヤッパリ、学院の寮やロデアルに置いてある式神とつながっていないと、何事か大事が起きた時、即座に対応できないのが一番困ります。
私(ヴィオラ)の大事な家族や、工房で働く職人等は私の力が及ぶ限り守るつもりでいますから、その意味でも、見えないのは不安なのです。
◇◇◇◇
翌朝、朝食をいただいてから出発です。
名も無き小さな南の島の上空に転移し、当該島の山頂部に小さな岩に模した式神を設置しました。
王都の学院、ロデアルの式神にも間違いなくパスがつながります。
それを確認して、大厳洞に転移です。
経度の違いの関係でしょうかねぇ。
学院の寮では夜明けから半時以上も経っていたのに、大厳洞ではようやく夜明けを迎えていました。
私が現れるとすぐにブルーベルが思念を送ってきました。
『待っていたぞ。
聖女よ。』
『おはようございます、ブルーベルさん。
私は聖女ではありませんよ。
ヴィオラですので、その名で呼んでくださいね。』
そう言って朝の挨拶を送りました。
そのついでに王都の寮の式神ともパスがつながっているかどうかを確認しましたけれど、無事に中継の式神を通じてつながっていることが確認できました。
王都の寮にいる式神は、ローナに手伝ってもらって学院の制服に着替え中のようです。
大厳洞で昨日と異なるのは、大厳洞にブルーベル、アスプラともう一体のエンシェント・ドラゴンのほかにも、別の見慣れぬ二体のエンシェント・ドラゴンが居たことでしょうか。
真っ白な竜は、昨日もアスプラに寄り添っていたエンシェント・ドラゴンですけれど、そのほかにも、真っ赤な竜と真っ黒な竜が居ました。
真っ白な竜に名を付けるとしたなら当然
赤い竜は
私の中ではそんな風に呼び名は決定です。
いずれにせよ、アスプラに近づいて、昨日途中まで行った浄化を再開します。
アスプラ以外のエンシェント・ドラゴンはじっとその様子を見ています。
大浄化ならすごく簡単ですけれど、エンシェント・ドラゴンを殺しかねないので、範囲を指定した浄化を順次かけて行くわけなので時間がかかります。
これは仕方がないことですよね。
お昼を挟んで午後も一刻半ほどの時間がかかりました。
浄化された瘴気はその場で白い
アスプラに身体の様子を聞いてみました。
『今までは何やらふわふわとした感じで、何やら中途半端に酔った感覚で有ったものが、今ではすっきりとして居るし、これまで以上に活力が満ち満ちておるな。
これもヴィオラ嬢のお陰じゃ。
感謝する。』
あら、まぁ、ブルーベルにズボラと呼ばれるドラゴンにしては礼儀固いようですね。
その感謝の心は、しっかりと受け止めておきましょう。
ところで、ブルーベルと同じく、ノア、ルージュ、ブランについても瘴気の匂いがしますね。
多分、昨日と今日の浄化魔法の行使で、瘴気に対する探知能力に長けたのかも知れません。
そこで、三匹のエンシェント・ドラゴンに提案です。
『アスプラの瘴気の除去は終わりましたけれど、白のノアさん、赤のルージュさん、それに黒のブランさんも、それなりに瘴気を体内に抱えているようですね。
この程度の瘴気ですぐに問題になるとは思えませんけれど、今後も放置するとやがて支障が生じるほどに瘴気が溜まる恐れもあります。
この際ですから、皆さんも体内に残留している瘴気を除去しておきませんか?
数年に一度程度、私がここを訪れてドラゴンさんたちの瘴気を取り除く作業を行っても良いですよ。
ブルーベルさん曰く、瘴気を取り除いた後では物凄く調子が良くなったそうです。
押し売りするつもりはありませんけれど、
白いドラゴンが真っ先に反応しました
『ほう、我がノアと呼ばれるか?
中々に良き名じゃ。
我は昨夜のブルーベルへの処置をすぐそばで視ておるでな。
確かに処置の前後でブルーベルのオーラが変化したのを知っておる。
その効果故、ヴィオラ嬢のお勧めに従い、我も試してみたい。
よろしく頼む。』
白いドラゴンであるノアを処方して、瘴気を取り去りました。
注意深く見ると確かにノアのオーラが少し大きくなったかもしれません。
或いは瘴気を体内に取り入れることにより、ドラゴンの能力そのものが一時的に制限されるのかも知れません。
その一方で一定の限度を超えると魔石に浸透した瘴気の影響で狂気を呼び覚まし、押さえつけられてきた能力が解放されて大きな力を発揮するようになるのかも知れませんね。
いずれにせよ魔石までが瘴気に侵されたモンスターに対しては、浄化魔法がかなり有効であり、最悪の場合は大浄化魔法で
その後ルージュやブランも浄化を希望したので、エンシェント・ドラゴン五体の浄化が済みましたね。
ブルーベルからはエンシェント・ドラゴンではない普通のドラゴンに対しても浄化魔法の措置を定期的に行ってもらえまいかと言うお願いがあり、来年に一度行い、その後、三年に一度、巡回検診のよう形で浄化魔法をかけてあげることにしました。
私が暗黒大陸を訪れる時には、事前にブルーベルに連絡をすることにしました。
この一件で暗黒大陸の竜族とはつながりができました。
ブルーベル他四体のエンシェント・ドラゴンは、私が困った時にはいつでも手を差し伸べると約束してくれました。
過剰な戦力になるかもしれませんが、ドラゴンはとても心強い味方になったのです。
◇◇◇◇
紆余曲折はありましたけれど、ロデアルの工房は着々と成果を上げています。
私がロデアル領内に工房を立ち上げてからもう三年が過ぎています。
化粧品、下着、生理用品、紙、印刷、各種農業、陶器、ガラス、木工製品等については、職人も増え、完全に私無しでも生産ができるようになっており、徐々に領民への還元が進んでいます。
なおも特産品の品質改良に務めるとともに、その一部はブランド品として王都その他に売込中なのです。
このためにエルグンド家の財政はとても潤っています。
経済が活発になるとエルグンド領内への人の流入も多くなります。
それと同時に悪徳商人やら盗賊などもちらほらと入ってきますが、私(ヴィオラ)のさじ加減になりますけれど、目に余る悪党についてはは適宜排除しています。
流石に伯爵領内で悪さをしていない小悪党まで処罰することは滅多にはありませんけれど、他領内で悪さをしていた者がロデアル領内でも悪さを働いた場合は、その過去まで
軽い刑罰は、伯爵領からの所払い程度で済みますが、重い刑罰は鉱山奴隷として重労働の刑にもなりますし、更に重い刑罰は死刑ですね。
死刑の場合は秘密裏に行われ、ある日突然その人物がいなくなるのですが、領主であるお父様は勿論、ロデアル行政府の官吏達も知らないうちに行われます。
鉱山奴隷の場合は、本来一定の手続きが必要なのですけれど、特殊な事例では、ある日突然受刑者名簿に名前が載り、受刑者は声を出せない状態で高山に送り込まれるのです。
無実の者がそんなことになれば大変ですけれど、私(ヴィオラ)が管理して送り込んだ者は、間違いなく罪人なのです。
そうして私(ヴィオラ)が選んで、鉱山奴隷になった者で生きて娑婆に戻れる者はおりません。
その逆に、これまでの鉱山奴隷であって、手続きの瑕疵(かし)や、無実の罪で罪人に
多分、かなりの部分で私刑になるのでしょうけれど、私(ヴィオラ)はそれを
手続きを優先していては真実が隠されてしまうことが有り、それが嵩じて無実の者が罪人となる構図があるからです。
制度自体はしっかりとしていても、当該制度を運用する者の意図でねじ曲げられたり、あるいはあくどい連中が抜け道を使って人を
私(ヴィオラ)は、できるだけ世の中の不合理を正すために努力はしていますけれど、それはどうしても私の目の届く範囲になってしまいます。
私(ヴィオラ)は、神じゃないのですから何でもお見通しと言う訳にはまいりません。
ロデアルのことですらそうなのですから、他の領内についてはほとんど目が届かないのが実情ですね。
徐々に正して行くことを常日頃から心掛けるしかないようです。
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