第147話 宮中パーティー⑬
宮殿内のニコラスの部屋にて。
遠くから地響きのような振動と爆音が響く。
「なに? 花火? カルルク帝国の花火ってこんなに凄いの?」
「……いいえ、ルーシーさん。花火ではありませんわ。この振動は明らかに宮殿内で起こっています」
「うん、私もそう思う、何か事件が起きた。私達は速やかにここから脱出しましょう」
そういうセシリアはなぜか再びドレスを脱ぐ。
「おい! 今の音聞いたか! って、セシリア! なんで服を脱いでいるんだ!」
アベルとゴードンは爆音で緊急事態だと思って室内に入ったのだが……
今まさにドレスを脱ぐセシリアに直面する。
「ふ、男はケダモノ。きゃ、えっち。
……と、冗談はこの辺で、とりあえず使える武器を出してるから皆に配る。
こんな狭い場所で学生が使える魔法はほとんどない。まあソフィアさんは別格だと思うけど」
セシリアはそう言う間にその特徴的なドレスを分解していく、ドレスの中からいくつものナイフが出てくる。
皆は次々と出てくるナイフに夢中になっていた。
その間にセシリアは運動に最適なショートパンツにノースリーブの衣装に早変わりだ。
セシリアのドレスは分解可能な実に不思議な構造であった。
「これをデザインした父上に感謝。でもコスト最悪、脱ぎ捨てた高級な生地やフリルが可哀そう。
まあ今回は結果オーライ。さあ、ケダモノ、いえ、男性陣方、何か情報は?」
そう、ふざけているようでセシリアは状況のまずさを理解している。
「俺達だって分からない。でも、外から聞こえた音、あれは明らかに敵の襲撃があったってことだろう」
アベルとゴードンはナイフを受け取りながら話を続ける。
「しかし、俺達としてはここを動くわけにもいかないか。殿下も戻っていないし。
先に殿下と合流したほうがいい」
ルーシーも少し心配だった。
なぜか嫌な予感がするのだ。もしかしたら爆発に巻き込まれてやしないだろうか、いやもっと良くないことが起こるのではと不安が脳裏をよぎる。
「よし、なら私もいくぞ!」
毛布にくるまっていたルーシーは勢いよく立ち上がる。ぶかぶかのワイシャツ姿で。
男性陣は目を逸らす。
「ルーシーさんはダメ、さすがに彼氏ワイシャツで外を出歩いたら、もっと大きな事件になる」
「そうですわ、明日には街中に号外が配られてしまいますわ。
どんな見出しを付けられるかとても不安です、ルーシーさんは絶世の悪女とかレッテルを張られるかもしれませんわ。あ、でも絶世とか悪女とかは響きがカッコいいですわね」
若干話がそれる。だが、アベルとゴードンはおかげで少し冷静になる。
こういう時おちゃらけて見せるのはさすがだと内心思ったのだ。
「……そうだな、では俺達二人で様子を見てくるよ。君たちはここで待っていてくれ。もしかしたら殿下と入れ違いになるかもしれないし」
そう言い終わる瞬間、もっと大きな爆音が聞こえた。
ニコラスの部屋にまで爆発音と衝撃による振動が伝わってくる。
まるで宮殿全体が揺れているようだった。
「アベル!」
「ああ、ゴードン。今の音は不味いぞ、明らかにダンスフロアの方向だ。
……急いで殿下を探さないと、たしか使用人の部屋は反対方向だよな。無事だとは思うけど一人は危険だ!」
二人は急いでニコラスの向かった使用人の休憩室へ急ぐ。
「不味いですわね、あれは明らかに魔法による爆発の音。それも極大魔法の規模でしたわ。万が一には私達も避難しないとですわね」
ソフィアはセシリアのナイフを手に取ると、自分のドレスのスカートの裾を膝上まで切り裂いてしまった。
「ああ、ソフィアさん。もったいない。綺麗なドレスだったのに……」
躊躇することなく、ナイフでびりびりとドレスを引き裂くソフィアにルーシーはため息をついた。
「うふふ、大丈夫ですわ。お父様に言えば後で買いなおしてくれるでしょうし。それよりも今は緊急事態、少しでも身軽にしないと」
◆◆◆
「……ふむ、久しぶりに若い体を手に入れたが、やはり体の動きが違うな。それに魔法使いにしては程よく鍛えられている。
最後の舞台に相応しい衣装と言えるな。さてと、ルシウス様をお迎えにいかねば……」
普段の彼とは思えない、歪んだ表情で笑うニコラスは倉庫を後にする。
倉庫の奥には息絶えた中年の男の屍が横たわっていた。
「おっと、忘れるところであった。この闇の宝石箱は貴重だしな。ホプライトに渡した物も後で回収せねばな」
ニコラス、いや彼の体を乗っ取ったヘイズは、今までの体の主である使用人の男のカバンから一つの宝石箱をとりだす。
「殿下! ご無事ですか!」
アベルとゴードンは使用人の休憩室に息を切らしながらやってきた。
「ち、邪魔者が現れたな。まあいい、貴重な生贄と思えばよいか」
ヘイズがその宝石箱を開くと、一体の巨大な魔物が出現し休憩室のテーブルや椅子を破壊する。
2メートル程はあるだろう、鋭い牙に爪、二足歩行の爬虫類の魔物。
カルルク帝国において最も凶悪な魔物ブラッドラプトルだった。
「殺すなよ、あくまで時間稼ぎだ。まあ手足の一本位は好きにしろ」
命令を受けるブラッドラプトルはアベルとゴードンに襲い掛かる。
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