第5話 05 - りんちゃん -
05 - りんちゃん -
私の名前はリン・・・、リンシェール・フェルミスと言います、長命種の137歳。
読書が好きな女の子、私には幼い頃からとても仲のいいお友達が居ました、初めて出会ったのは70歳の頃、私の種族はこの宇宙に大勢居る短命種の人達よりとても長生きでゆっくりと成長します、短命種の人が生まれてから歳を取り、一生を終えるくらいの年月・・・70年という時間は私たちにとってはまだ子供・・・。
私が頻繁に両親に連れて来てもらって訪れていた外周区の図書館、ここは比較的治安も良く、館内の蔵書も豊富で、新刊など本の購入も出来る私のお気に入りの場所、その図書館の机に座っていつも本を読んでいる小さな・・・私と同じくらいの女の子が居たのです、それがエルちゃんでした。
シエル・シェルダン・・・エルちゃんは私より8歳年上の78歳、私達長命種にとっては誤差の範囲内でほぼ同じ年齢、そして本好き同士としてすぐに仲良くなりました、私の両親も時々話しかけていたのですがどうやらとても人見知り、そして知的で物静かな子・・・という印象。
エルちゃんのお父様は元ハンターで宇宙船に乗っていたそう、今は結婚してお仕事は内周区の通信事業?・・・ご両親共にとても忙しいらしく、エルちゃんはもっと幼い頃からいつも一人図書館で過ごしていたのだとか、そしてお家も比較的近かった事もあってエルちゃんは私のお家で過ごす事が多くなりました。
エルちゃんのご両親の許可をもらってお泊まり会や夕食を一緒にっていうのも頻繁にやるようになり、私達が本当に心を許せる親友になるのにそれほど時間はかかりませんでした。
そして私たち長命種が一人前の成人と認められる年齢・・・私の100歳の誕生日まであと1年、エルちゃんが107歳という時に・・・突然エルちゃんのご両親が失踪したのです・・・。
結婚しても忙しくて旅行に行く機会が無かったエルちゃんのご両親、まとまった休暇がようやく取れたので民間宇宙船を乗り継いでの恒星間旅行・・・特におかしな点はありませんでした、私のお家に挨拶に来て、留守の間エルを頼むって言われた時も・・・しかし2人はランサー星系の外れの惑星近くで消息を断ちました。
一緒に旅をしていた人達に話を聞いても途中から突然居なくなった、日程を変更し、惑星に降りて観光してるんじゃないかと思っていたって・・・。
私や私の両親はもちろん、エルちゃんはとても心配しました・・・行方不明扱いになったと連絡があった時、私に縋り付いてずっと泣き続けて・・・。
それから1年が経ち、エルちゃんのお家からお手紙が見つかりました、エルちゃんはご両親の無事を信じ、その日まで2人のお部屋を調べようとはしませんでした、でも父親の机の引き出しから2人に何かあった時にはこの家と持っている特許などの権利、そして所有している宇宙船をエルちゃんに全て譲るという書類・・・言い方は悪いのですが・・・遺書のようなものが見つかったのです。
それからすぐにエルちゃんは宇宙船の操縦免許を取得、ハンターギルドへの登録・・・と、ご両親が失踪してから泣いていたのが嘘のように行動的になりました、私は・・・ご両親を探しに行くのかな、・・・ってなんとなく思っていたのです。
そそて私が107歳、エルちゃんが115歳の時に事件が起きました・・・いえ、私がわがままを言わなければ起きなかった筈の事件なのです。
エルちゃんはご両親の失踪後、以前のような笑顔に少し翳りが見えたのですが私と普通に遊んだりお話ししたりしていました、そして私の大好きな作家の本の発売日・・・明日にしようと言うエルちゃんの言葉を聞かず、その日の夕方、図書館に行き、遭遇してしまったのです、80年ほど前にこの世界に突如として現れ、星団中の人型種族を恐怖に陥れた謎の生命体、ベンダル・・・。
図書館からの帰り道、何度も2人でお喋りをしながら通った慣れた道だった筈なのに、・・・道の向こう・・・図書館の隣、運動施設の周辺が何か騒がしい、人の叫び声?、私は声のする方・・・今まで私たちが歩いて来た道を振り返ると・・・居たのです、人の2倍ほどの大きさ、鋭い爪に大きな口、そして体の後ろから生えて蠢く沢山の触手・・・人型の種族だけを襲い、卵を産みつけ寄生する・・・そして寄生された者は死ぬより辛い目に遭う宇宙生物。
「エルちゃん!、あれ!」
「ベンダルだ、なんでこんな所に!、外から入って来たの?柵が壊れてる!あそこの下水から?」
「やだぁ、怖い・・・怖いよエルちゃん・・・」
「早く逃げるよ、警備に知らせないと、内周に行かれたら大変な事に・・・」
エルちゃんは怖くて動けない私の手を引っ張って走り出しました、あぅ・・・今日はお洒落して走りにくい靴履いて来ちゃった、それに普段からの運動不足・・・、後ろを見ると私たちに狙いを定めたのか、ベンダルが追ってきます、私たちより速い!、追いつかれちゃう。
「エルちゃん、もうダメ、走れないよ、私を置いていって」
「何言ってるの!、リンちゃん頑張って、ほらこの建物の看板、あそこに緊急退避シェルターがあるからそこまで頑張って!」
頑張って走ったのですが、靴が脱げ、転びました、すぐにエルちゃんが助け起こしてくれます。
「痛い、足が・・・」
「僕が背負うから早く手を出して、ほら早く!」
「やだ、後ろ!、もう追いつかれちゃう、お願いエルちゃんだけでも逃げて」
エルちゃんは私を背負って走りました、私と2人で走ってた時より速い、私が足を引っ張ってたんだ・・・。
「はぁ・・・はぁ・・・シェルター室あったよ・・・助かった・・・」
「エルちゃんありがとう、見捨てないでくれて、凄く怖かったの・・・」
助かったと思ったのですが、ベンダルが現れたと聞いて周辺の人たちが逃げ込んだのでしょうか、普段は全部空いている筈のシェルターに人が・・・。
「何で!、5つのうち4つまで人が入ってロックがかかってる!、残りは・・・嘘だよね・・・一つだけ」
エルちゃんがそう呟いた時、閉めたドアが乱暴に何度も叩かれました、鉄製のドアが曲がってきてる。
「わぁ・・・ドアもう破られる、・・・やだよエルちゃん、怖い・・・」
シェルターは目の前、これは一人用、2人で入ったら酸素が保たないかもしれない、私は恐怖と混乱のあまり、お友達の・・・親友の筈のエルちゃんを突き飛ばして私だけ入ろうか・・・そんな最低の考えが頭に浮かびます。
「リンちゃん入って!、早く!」
私を押し除けて・・・私を捨ててエルちゃんだけ入っちゃうんじゃ・・・と警戒していた私の考えとは全く逆の事を、エルちゃんは考えていたようです。
「それじゃ・・・エルちゃんが・・・いやだよ!、・・・2人で入ろう・・・」
私は最低だ・・・本当はエルちゃんも入ったら酸素がなくなるかもしれない・・・入ってこないでって思ってるのに、・・・嫌だ、私はこんなに最低の人間だったんだ!。
「ダメだよ、これ一人用、学校でも習ったでしょ!、2人入ったら救助が長引いた時に酸素が足りなくなる・・・それに僕には家族いないから」
そう言って私をシェルターに押し込み、扉を閉めました、ガコン!って言うロックのかかる音、こうなればもうシェルターは内側からは開かない、外からも・・・中央制御室にあるロックを解除しない限りは、例えステーションが壊れて真空になったとしても、外から砲撃されても中に居る人間は安全・・・。
中には水と食料、そして救助信号を出す非常ボタン、もう先に入った4人のうちの誰かが押したのでしょう、赤く点灯しています、こうして救助が来るまで安全に過ごせるようにこのシェルターは作られているそうなのです。
「エルちゃん!・・・いやぁぁ・・・」
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