8.変わった態度

 辺り一帯を吹き飛ばした強力な爆発は、もはや洋館だけではなく周りの森の半径約300mは軽く吹き飛ばしていた。

 地面は表面が黒く焼けた土だけになっており、一瞬にして多くの生物の命が奪われたと見て間違いなさそうだ。


 だが……。


「あっっぶねぇ~!!俺が一瞬技を出すのが遅れてたら、森全体と俺たちが丸焦げになってましたねナツキさん!?」


 ギリギリで爆風を俺の雷撃で相殺させたおかげか、俺とナツキさんは”洋館跡地”に何とか立っていた。

 さすがに服の一部は焼けてしまったようだが、肉体のダメージはほとんどない。


「はぁ……君がもっと早くトドメをさしていれば、こんな事にはならなかった。まったく、ここの領主には洋館内の魔物の討伐としか伝えていなかったのに、洋館ごと消し飛ばしてしまうとはな」


「ちょ、ちょっと!?俺の技で何とかなったんすよ?ていうかナツキさんも結構洋館と森を吹き飛ばしてたじゃないすか!?……でもまぁ、死ななくて良かった良かった。死んだらどうしようもないっすから」


「どうしようもないか。……確かにその通りかもな」


 お?なんか珍しい反応だな。そう言う彼女の表情も少し暗く見える。


「だがまぁ……礼は言っておくよ。万が一ケガをして仕事に影響が出てしまったら大変だからな。ありがとう」


 とりあえず軽めの感謝を述べてくれた彼女は、スグに気持ちを切り替えて魔者の残骸を調べ始めていた。

 今まさに結構な死線をくぐり抜けたと思うけど、彼女はそれを必要以上に労う事はしない主義らしい。


 ……まぁ単に俺のことが嫌いなだけな気もするけど。


「それで、残った素材はこれだけか。まったく自爆ほど困る戦法も無いな。危険度Sランク以上は確実と聞いていたが、どうやら過剰に恐れた人間達の勘違いだったようだ。せいぜいAランクギリギリ、これだと刀の最後の素材に足りるか怪しい……」


「それって肉体の一部っすよね?それを刀に練り込む?的な感じっすか?」


「練り込む……。まぁ間違ってはいないかもな。この肉から魔力を搾り出し、それを刀を強く鍛えるための糧とする。いわば最後の工程だな」


「なるほど。このレベルの魔者なら相当良い質の魔力が取れそうっすね。まぁ完全にイメージだけで言ってますけど」


 正直俺は刀の作り方なんて全然分からない。

 とりあえず狩ったモンスターを鍛冶師に渡して以降は、任せっきりだったからね。


 ちなみにこの世界の鍛冶師にもランクがあって、上から……


————————

特級鍛冶師・・・3名

1級鍛冶師・・・5名

2級鍛冶師・・・38名

3級鍛冶師以下・・・204名

————————


 となっている。

 ちなみに13年前の”魔王討伐戦”以降は、年々武器の需要自体が下がってきており、鍛冶師の数も減ってきているらしい。

 まったく、どこの業界も大変みたいだな。


「さぁ、目的は達成した。帰るぞ。素材は鮮度も大切だからな」


「お、戦いの勝利に浸る時間も無しっすか。まぁ俺は食堂で何時間もメシ食ってたんで長く感じたけど、ナツキさんは来て数分でしたもんね。そりゃ達成感は違うわけだ」


「君の場合は達成感じゃなく、満腹感だろ」


 ん?何か今の返事、違和感があったな。ていうか違和感しかなかったな!?


「……え?え?え?今ナツキさん、普通にツッコミしてくれました!?あんなに冷たかったナツキさんがツッコんでくれました!?ていうか、さっきからメッチャ喋ってくれませんか!?」


「君はいつも騒がしいな。とっとと帰るぞ」


 俺は見逃さなかったぞ!

 ほんの少しだけナツキさんの頬が赤くなったのを!!急に喋りすぎた自分に気付いて恥ずかしくなった所を!!


「えー、何すかナツキさん!普通に話せるなら話しましょうよ~!」


「……帰るまでがクエストだ。気を抜くな」


「帰るまでが遠足、みたいに言わないでくださいよ!え?え?何すか、俺が爆発から救ったから見直してくれたとか、そんな感じすか!?」


「バカを言うな、私の固有スキルは【身体硬化しんたいこうか・解】だぞ。あの程度の魔者の爆発、かすり傷すら付かなかった」


「えぇー、本当ですかぁ~!?俺の実力を見直して”キャー!ベネット君カッコいぃー!”とか思ったんじゃないんすか!」


「君は本当に空気のように軽い男だな。近寄らないでくれ、軽薄がうつる」


「ヒドいッッ!でもやっと普通に話せて嬉しいッッ!!」


「フッ……」


 ここからのナツキさんは別人のようだった。

 もちろん”飛び抜けて明るい”という性格では無いようだが、それでも俺の言葉を無視するようなことはなくなっていたのだ。


 そしてどうやら話を聞いていくと……


 最初小柄で頼りない俺を見た時に「騎士団長にはSランク冒険者を頼んだはずなのに!」という怒りが沸いていたそうなのだ。

 だから彼女がずっと不機嫌だったのは、クローブ王国の騎士団長に対する不満で頭が一杯だったからである。


 でも先ほど高度な幻術から抜け出し、洋館と周りの森を吹き飛ばす威力の爆発を瞬時に防いだ俺を見て、ようやく俺が本当にSランク冒険者だと認めてくれたらしい。


 ていうかここに着くまでに俺がどうやってSランクになったのか自分語りしたはずなのに、全部信じてなかったんだなこの人……!

 疑い深いというか、慎重というか……。


 まぁ、今目の前にある笑顔のギャップが可愛いからどうでもいいや。



「結果的に私1人で対処できるレベルの魔物だったが、ここまで付いてきてもらったからな。報酬は約束通りシッカリ出させてもらうよ。手間をかけさせてすまなかった」


 現在の俺たちは洋館跡地から離れ、チーリン山脈にある始まりの鍛冶小屋へと戻っている道中だった。

 行きの道中とは全く違い、今はお互いに気兼ねなく話している。


「いえいえ、美人さんと旅できて楽しかったですよ!最初はとんでもない性格の女に捕まったーって思ってましたけどね」


「そんな事……!いや、そう言われても仕方はないか。人を見かけで判断していた私が悪かった。騎士団長にもお礼をいっておかなければな」


「……そういや騎士団長とは、どういう関係で?」


「かつて共に戦ったんだよ。魔王討伐戦でね」


「ま、魔王討伐戦!?どうりでナツキさん強いわけだ。洋館の魔物を倒したあの斬撃?あれは俺でも中々撃てないっすよ。

 見た事ないぐらいに強力な魔力がこもった刀と、ナツキさん自身の膨大な魔力量。いやー、あれはビックリしたな~」


「ハハ、そうか。まぁ刀を強く振る事だけが私の取り柄だからな」


——————【魔王討伐戦】

 それは13年前に行われた、3大陸合同軍による魔王討伐戦争の事だ。

 当時の俺は冒険者でも何でもない貧しい子供だったが、この壮絶な戦いの逸話だけはずっと国民に語り継がれている。


 ちなみにその時に活躍したのは、現在の3大陸の軍隊や騎士団を始め、各国の優秀な冒険者だったらしい。

 俺がこの前参加した”悪鬼討伐戦”なんかより、遥かに規模の大きい戦いだったようだ。


「それで、ナツキさんはどこで戦ってたんですか?こんなに強いんだから、もちろん最前線すか?」


「あ、あぁ……Sランク冒険者として、魔王との最終決戦を担当していた……」


「……えーっと、うーん……。確か魔王って討伐されましたよね?つまりナツキさんがその場にいたって事は……」


 すると彼女はなぜか険しい表情を浮かべ、まるで苦虫を噛み潰したような顔で返答をした。


「魔王を討伐したのは……私なんだ。私は大切な仲間を見捨てて魔王を討伐した犯罪者なんだよ」


「……えっ?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る