第162話 去るラクス、言質
「あ~あ、お熱いモノ見せつけられちゃったなー」
そんなひとりごとを呟きながらラクスは魔城の屋根や外壁を飛び移りながら地上を目指していた。
そこへ、
「待ちなよラクス。そのまま帰られると困るんだけど」
意識を取り戻したエミルが駆けつけていた。
「お、エミルちゃんもう気がついたんだ。もしかして再戦? ん~、私は今日のところはもうお腹いっぱいなんだけど」
そう言って少し嫌そうな顔をラクスはする。
「……違う、再戦はまた今度にする。もう出せるネタ出しつくしちゃったから」
エミルは悔しそうな表情で言った。
「あ、そうなんだ。それは安心。でもそれだったら早くここから逃げたほうが良いよ。あれだけ派手に暴れて、あげくの果てにはこんな城まで現れたんだから、フロンタークの軍が本腰入れて調査にくるだろうし」
ラクスはフロンタークの指令部あたりに視線をやる。
「というか、さっさとこの城片付けてどっか行って欲しい。私が魔王を追い払ったってことにして、あいつらから報償金をぶんどるから」
にはは、と笑いながらラクスは胸を張って身勝手なことを言い切った。
「まあ、それもなかば事実だからいいんじゃない。アタシが聞いておきたいことはひとつだけだから」
呆れたような顔をしたあとに、エミルは真剣な表情で、
「ねえ、シロナは死んだの?」
その問いを投げた。
「ああ~、その話か。ゴメンね、そんなに大事にしてるお人形だとは思わなかったからさ」
「そんなことはどうでもいいの。ラクスにとっては人形でも、アタシたちにとってはそうじゃない。それだけだから。いいから質問に答えて。シロナは死んだの?」
再びエミルは同じ問いをする。
「ん~、それじゃあ言うけど、人間みたいに死んだわけじゃないと思うよ。でもあの剣は人形の核みたいなモノに致命的な傷を与えるみたいだから、もう──」
「いや、いいよ。『死んだわけじゃない』、そこまで聞けたら十分。これで言質はとれたし」
エミルはラクスの言葉を最後まで聞くことなく途中で遮った。
「?? そう? じゃあ私はフロンタークの方でこれから来る連中を待ち構えとくからアゼルくんには早くこの城を消してって言っといてね」
そう言い残してラクスはピョンピョンと魔城を駆け下りていった。
その様子を見ながらエミルは、
「あ~、もう完敗。シロナに続き2連敗だよ。…………シロナ、絶対に直してもらうからね」
と呟き、彼女は頭上を見上げ、イリアたちのいるフロアへと登っていった。
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