【ブロマンス】君にさよならを(前編)
猛暑が続くある夏の日。自室でノートパソコンを眺めていた大学生の
「……また来やがった」
「紫苑くんてば随分な物言いだな~」
パソコンを持って玄関まで行き、扉を開けると、紫苑の兄の友人であるアヤメが立っていた。アヤメは隣の家に住んでいた幼馴染で、紫苑とも幼い頃から仲が良い。その為、アヤメは紫苑の言葉を軽く受け流し、ニコニコ笑いながら「お邪魔しま~す」と言って、室内に入る。そして、紫苑が持っているパソコンを見て、首を傾げた。
「
「……全く動かなくなった……」
どこかバツの悪そうな紫苑の一言に、アヤメは「また~?」と少し呆れる。
紫苑は頻繁に機械を壊す程の機械音痴だ。何か機械を壊す度に、二つ年上の兄やアヤメに直してもらっている。
「今度はパソコンか~……もしかして、えっちなサイトとか見てたんじゃ――」
「心霊スポットのサイトだが?」
「ちょ……見せなくていいから! オレがお化けとか怖いやつ苦手なの知ってるよね!?」
ニヤリと悪い笑みを浮かべたアヤメに、紫苑は無表情で折りたたんでいたノートパソコンを開いて見せようとした。しかし、怖いものが苦手なアヤメは慌てて目を閉じる。
「……まだお化けが怖いのか?」
「怖いものに年齢とか関係ないから!」
「いや、俺が言いたいのは年齢の事じゃ――」
「てかどーすんの、パソコン。それって
薄っすらと目を開けたアヤメは紫苑の言葉を遮り、パソコンに貼ってあるリアルな骸骨のステッカーを指さした。アヤメの言う通り、紫苑が持っているパソコンは彼の兄である柊の物だ。
アヤメの問いかけに、紫苑は複雑そうな表情を浮かべ、「いないから勝手に使った」とだけ答える。
「ったく、柊のやつ……一体、どこにいるんだか……。紫苑くんは何か心当たりとかない?」
どこか心配そうなアヤメの瞳を、紫苑はじっと見つめ、静かに首を横に振る。
紫苑は妙に重苦しい雰囲気を醸し出し、眉間にシワを寄せている。その事に全く気がついていないアヤメは、「そっか……」とため息まじりに呟くだけだった。
「ま、なんにしても柊が帰ってくる前に、とりあえずパソコンはどうにかしないと。オレもパソコンには詳しくないし……どうしよっか?」
「……電気屋に行って、修理してもらう」
「ま、それしかないよね」
何かを決意したような紫苑の返答に、アヤメは軽く同意する。
それからアヤメと紫苑は電気屋へ行く為に、車に乗り込んだ。運転席に紫苑、助手席にアヤメが座ると、車は発進する。
ところが車を運転していた紫苑は電気屋を通り過ぎ、無表情でどんどん遠ざかっていく。
「紫苑くん……? どこに行くの?」
そんな紫苑に、アヤメは不安そうに声をかける。だが、紫苑は表情を変えずに「黙って乗ってろ」とだけ言った。
随分と長い時間、走り続けた車は山道に入り、廃墟となった建物に辿り着くと停止した。
紫苑が車から降りた為、アヤメもそれに倣い、建物を見上げる。
「ここって確か……」
「前に言ってた、兄貴と迷い込んだ廃墟ってここで合ってるか?」
「うん……合ってるけど……」
「だったら多分、兄貴はここにいる」
紫苑は淡々とそう言うと、アヤメに向き合う。
この廃墟は、アヤメと柊が車の免許を取りたての頃、ドライブの最中に迷い込んだ場所だ。アヤメはこの廃墟で強制的に肝試しをさせられ、散々、柊に脅かされた。それゆえ、ここにはあまり良い思い出はなく、アヤメは引きつった顔で、紫苑の方を見ている。
「どうして……柊がここにいるって思ったの?」
「兄貴の性格的に、アヤメが一番嫌がる場所に隠れてそうだと思ってな。だから心霊スポットを紹介してるサイト見て、やっとこの廃墟を見つけた。パソコンが動かなくなったって話は、ここへ連れて来る為の嘘だ」
「そうだったんだ……。ありがとね、紫苑くん。でもさ、別に隠さなくても良かったのに~。心霊スポットでも、理由さえあれば行くよ?」
怖さを紛らわすように明るく振る舞うアヤメを、紫苑は悲しそうな表情で見つめる。それに気づいたアヤメは首を傾げ、「紫苑くん? どうしたの?」と優しく問いかけた。すると、紫苑は一度、深呼吸をして、意を決したような顔で口を開く。
「だってアンタ、自覚してないんだろ?
紫苑は今にも泣き出しそうに揺れる瞳で、そう告げた。本当は言いたくなかった、隠したかった事実を――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。