14話 剣鬼アベル

「そうなんですよぉ!やればわかるって山の中でボコスカ魔法撃ってくるし!」

「あぁ、あの特訓はダメだ!死んでしまう!」

いやぁ、人の縁ってのはどこに繋がってるか分からないもんだな。


「しかし、スティ殿の弟子なのであればなぜ里を出たのだ。やはり、辛くて逃げたか!」

「それが実を言うと……」

俺は里であった事と里のお偉いさん達の決定について話した。


「なんと、あの里に魔人が!」

「はい、とはいえ差程強くなかったのでおそらく運良く森を抜けただけのはぐれでしょう」

「ハッハッハっ!その魔人達も不幸よのぉ、まさかスティ殿に出会うなんて!」

「……まぁ、その師匠に勝ちたかったら本当に強い奴を連れてこないと行けませんしね」


「おっと、もうこんな時間か、では今日はここら辺でお開きとしよう」

そう言われて時計を見るともう六時を超えていた。

周りを見ればギルマスもいなくなっているし……やっぱり愚痴っていうのは人を繋げるものだな。


「では、失礼させていただきます」

「うむ、これからよろしく頼むぞ!」

「こちらこそよろしくお願いします……余り無茶を言うようでは師匠に話してしまうかもしれませんが」

「ハッハッハっ、そうなったら大変だな……ほんとにやめてくれよ」


外にでると庭ではシルバーが爆睡していた。

……ごめんよシルバー、後で訓練いくらでも付き合うから起きても怒らないでね。


シルバーの引っかき傷を抑えながら訓練室に入ると珍しいみんな中央部屋に集まっていた。

どうやら、あの黒いゴブリンナイトと戦ってみたがボコボコにやられたらしい。

訓練室では一定以上のダメージを受けると強制的に外にはじき出されるから本番同様とは行かないがこの感じを見ると本当に手も足も出ない感じだったのだろう。


まぁ、それもしょうがないこいつらのステータスはみんな150もない。

それに比べて黒いゴブリンナイトは脅威の1020だ。


俺たち全員の必殺技をぶつけても効かずに、不意打ちで倒した様な相手に正面戦闘で勝てるようになるにはまだ強さが足りなさすぎる。


まぁ、そんなこんなでやられたみんなは回復ポットに入った後に反省会と必殺技の共有をしていたらしい。

ケル、ベロ、スーの前足に炎をまとって斬撃を出す、炎斬撃。

銀子の風と炎をまとって超速で突進する火炎砲。

アダブトは未だ魔法を勉強中だからないけど頑張って真似しようとしている。


正直、こいつらの技はかなりの威力を持っているがまだ足りない。

しかし、行雲流水を極めて圧縮ディープが使えるようになれば威力も格段に上がる。


「ということで、お前らの行雲流水を上達は急務だ」

どうしても、上達しないようなら一回里に戻ってスティにしごいてもらうしかない。


今まで自己鍛錬でやってきてもらったがしょうがない簡単なコツを伝えていく。

行雲流水を上達させていくには無意識下でも行えるほどに意識に刷り込むことだ。

ということで呼吸に合わせて魔力を操ってもらう。

全員からスパルタだという思念をが伝わってくるが我慢してもらおう。

 

アダプトが体に張り付いて補助することで一晩でみんなできるようになっていた。

……やっぱりこういう補助する奴って必要だよな。

 

さすがにまだゴブリンナイトに勝てるほど強くはなっていないため俺が冒険者として仕事している間に記録が更新された自分自身と戦ってもらう。

さすがに今日も連れ出すとシルバーに悪いし俺一人で頑張ろう……。


何をすればいいかは昨日ゾルファン公爵に聞かされてるからな。

仕事初日……頑張りますかね!


「ブランク様ですね、Sランクの依頼書はこちらになります」

昨日公爵に言われた通りギルドで依頼された仕事をクリアしに行く。

特別冒険者は他の冒険者が受けられないような高難易度の依頼を中心に受ける。

俺としても強い魔獣を倒せれば今後改造する時に役に立つし、万々歳だ。

 

「それで、今回の依頼なのですが合同での任務になります」

「え?合同……ですか」

いきなり合同?

俺冒険者初めて一日目だけど大丈夫なの?


「まぁ、相手がいいと言っているのであればいいのですが」

「……」

「あの?」

「詳しい話はここに書いてあるので、それでは次の方ぁ」

「あの?」


嘘でしょノーヒントで放り出されたんだけど。

とりあえず渡された紙に書かれている集合場所に向かった。

集合場所はマーファの南門の為そんなに時間はかからない。


集合時間の三十分前……。

ちょっと早く着きすぎたか?

いやでも、仮にも公爵の名を借りている身としてあんまり非常識な真似はできないし。

とりあえず今まで通り行雲流水の特訓をして待つことにした。


「おまたせしました、ブランク様」

うぐぐぐぐぐぐ!難しい!

遠隔操作ワイヤレスの特訓の一環として落ちてくる葉っぱを風で操っていたところに声がかかった。

「あ、いえ」

ちっ!いい所だったのによぉ!


俺達に依頼したのはどうやらこの国の皇帝らしい。

なんで契約一日目の俺を知ってんだよと思っていたがあの公爵が昨日の内に俺の話を皇帝に話したらしい。


「それで、依頼の内容というのは」

「そちらの紙に書いてあるでしょう……」

読むのめんどい……。


騎士の男は渋々説明してくれた。

バハムートの谷の調査が今回の依頼だそうだ。

先日バハムートの谷に行った者が沢山のワイバーンの死体を発見したらしい。

そしてそのワイバーンの死体にはより大きな生き物に食われたようなあとがあったとのこと。


完全にあれじゃん?!

剣鬼アベルの伝説の話じゃん!

勘弁してくれよ、スカウトするだけかと思ったら一緒になって任務かよ!


ま、まぁまてまだ焦る様な時間じゃない。

あくまで今回の以来は調査だけ、討伐しなくていいならヤバくなったら逃げられる。


しばらくそうやって話していると灰色の髪をした女の人が現れた。

見た感じは二十歳にもなっていないという感じだ。

耳も普通だし身長も百六十前後はあるからおそらく人間だろう。


「えっと、そちらの方は?」

「剣鬼アベルだ……。」

「……ほえ?」


ま、まじかよ。

勝手に男だと思ってたけど女だったのかよ。

しかも見た感じかなりの若い。


「あぁ、めんどくせぇ」

「そう言わずに皇帝様からの依頼ですので」

「だるすぎんだろ、そっちの一人で何とか出来ないの」

「さすがにそれは……」

え?!

まじでイメージと違いすぎる?!

ていうか今しれっと俺に全部やらせようとしてた?


「え、えっとブランクと申します、本日はよろしくお願いします」

「ん?あぁ、アベル、よろしく」

ざ、雑ぅー!

きっちりやれとは言わないけど会話する気すらないじゃん。


「まぁいいや、とりあえずさっさと行ってさっさとおわらせよ、ついてきて」

「あ、はい」


き、気まずい。

アベルは話す気がないみたいだけど俺としては剣術を教えて欲しい。


「あ、あのぉ、私は剣術を扱えなくて、差し支えなければ教えて貰えませんでしょうか」

「あ?剣術?あぁ……」

そういうとアベルは俺の首元に手を当ててきた。


「今のに反応できるようになったらいいよ」

……え?できるよ?

さすがに不意打ちすぎて動けなかったけどさすがにあのくらいなら避けられるよ?


けど、今の動きは本物だ。

単純な速度ではなく体の動かし方で速度を出しいた。


まぁ、多分今突っ込んでも変な空気になるし勧誘はもうちょっと仲良くなってからにしよう。


しばらく歩いてふと、どのくらい時間がかかるのか気になってわたされた紙を見てみた。

ふむふむバハムートの谷は人間の足で行こうとすれば一週間ほどかかるのか。


耐えられない!

この気まずい空気を一週間!

無理に決まってるだろ!


アベルに少し待っててもらい研究所からシルバーを引っ張り出してきた。

凄い抵抗してきたけど助けて!本当に申し訳ないと思ってるけどピンチなの!


研究所に入るところを見せるのはあんまり良くないかもしれないがユニークマジックの存在は人間も知っているわけだし問題はない。


シルバーに乗ってかっ飛ばしていくと伝えたら、アベルとしても早く終わる分にはそっちの方がいいと乗ってきてくれた。


それじゃシルバー頼んだぞ!

新しくできた引っかき傷を抑えながら俺はシルバーの背に乗った。

 

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